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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第七章 もう一つの道(十月)
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「ワラワをコケにした罪、あがなうがよい!」


 ハエの大群の中から声が聞こえる。やはりこのハエはベルゼビュートで間違いはないらしい。

 パインは上空を見上げながら、飛び回るハエを見つめて状況を整理する。

 流石に当初から比べれば、大分ハエの数は減っている。現在は大体千匹くらいだろう。とはいえ、こちらはもう策が尽きている。準備してきた作戦は先ほどの策で最後だ。


「ボス、どうするで~す。今『開門』を使えば、ベルゼビュートは倒せるでしょう……が、また全てのハエは真っ黒クロ助になってしまうで~す。そうなるとパピーの珠の事が聞けないで~す」

「……そうね。確かに『開門』を使えば撃退は出来そうよね。でも、それではベルゼビュートは消滅してしまう。出来れば生け捕りしたいところよね」


 浅倉は、細く息を吐くと、腰に手を当てて、そこに付いている巾着袋取り外した。

 サイズはお弁当箱が入るくらいのサイズで、お財布などを持ち歩くのに便利そうな形となっている。赤色の矢羽根柄が目を引くデザインだ。


「おぅ! なんですかそれは。もしかして、中から便利な道具が出てきたりする魔法の巾着袋ですか?」

「そんな便利な物じゃないわ。そもそも、中身は空よ」


 浅倉は巾着袋の紐をほどくと、足元からげんこつ大の石を拾い上げてそれを中に収める。


「その石どうするです? もしかして、時間が立つと大きなパールに変化しますか?」

「いゃ、これはアコヤガイじゃないんだから、そんな物にはなりません。これはこうするのよ」


 浅倉は巾着袋の紐を手に取ると、だらりと垂れ下げさせる。手首を回転させると、巾着袋は遠心力により、勢いよく回転を始める。さながら狩猟などで使用されていた『ボーラ』の様だ。

 ヒュンヒュンと巾着袋が勢いよく回転し始めると、浅倉はハエの大群の中心を見定める。


「そこだ!」


 『ヒュン!』と空気を切り裂く音が、浅倉の手から上空へと突き進む。


「ボス、あんな物投げてどうするで~す。もしかして、爆薬とか入っているですか?」

「いゃ、そんな物は入っていないわ。ただ、厳密にいえばあの巾着袋は、巾着袋じゃないのよ」

「……ほへ?」


 なぞなぞを出されて、良く分からないといった顔を浮かべる。

 だが、そんなパインの横で、浅倉の目はしっかりと巾着袋が最高到達点に近づくのを見つめていた。

 ハエの大群を巾着袋は突き抜け空中で一瞬止まる。そして、今度は重力に引き寄せられて、落下を開始する。


 ここだ!


「ドングリ! 変化、網!」


 浅倉の声が地上から、遥か上空の巾着袋へと届く。


「ほんに、従魔使いの荒いご主人じゃ……」


 ぶつくさと文句を云いながらも巾着袋は大きな投網の様な形態へと変化する。その網の目は細かく、網戸くらいの目の細かさとなっていた。

 従魔契約の利点の一つとして、浅倉のイメージしたものはそのままドングリに伝わる。つまり、浅倉のイメージ通りの網が作られるのだ。

 今回浅倉が想像した網の形は、広げた傘の様な形だ。網の端には重りが付いている為、落下しながら上空に舞っているハエを一気に捉える。


「なっ、なんだこれは!」


 一瞬の出来事であったため、ベルゼビュートも反応が追いつかない。


「ドングリ! 閉じなさい!」


 浅倉が命令すると、網の周りが『キュー』っとつぼまり、ハエの溜まった風船が出来上がる。

 巾着袋の要領で窄まった網は、空に浮いている風船の様に紐が垂れる。そのヒモを手に取ると、浅倉は、捉えたハエに冷たい笑みを向けた。


「さて、ベルゼビュートここで問題です。私はこの紐を使って何をするでしょう」


 流石のベルゼビュートも、一撃たりとも攻撃できずに三度もやらそうなため、尻込みをする。その焦りは、言葉の端々に現れる。


「そっ、そうじゃな……紐を使うんじゃろう。……ってことはあれじゃ、あやとりじゃろうか?」

「ブ~残念。答えは、こうするのよ」


 浅倉は、紐に妖力を流し込む。


「うぎゃぁぁああああああああ!」

「ぼぎゃぁぁああああああ!」


 ベルゼビュートの悲鳴と共に、ドングリの悲鳴も聞こえる。


「ボス……ドングリ死んじゃうんじゃないですか?」

「大丈夫よ。あのクソダヌキはこれくらいじゃ死なないわ。それに死んだら死んだで清々するじゃない。一石二鳥よ」

「ハハハ……酷いで~す」


 これには流石のパインも哀れみの表情を浮かべた。



 ● ● ●



「アガッ……アガガガ……」


 網の形となったドングリがピクピクと動く。感電したかのように動く網は、まるで鼓動している心臓のようだ。


「タマが……タマが……」


 ドングリの最後の言葉にパインが反応する。


「珠がどうしたのですか? その中にパピーの珠があるのですか?」


 網の中は黒焦げの物体が見えるだけなので、外からでは確認が出来ない。網に化けているドングリは、取り囲んでいるため、珠の存在に気が付いているのではないかとパインも必死になる。


「……あっ、いゃ、パインさん。違うんじゃ……」

「違う?」

「そうじゃ。タマと云うのは、ワシの金玉の話でな」

「ハァァァ?」


 珍しくパインの目に怒りが走る。


「そんな紛らわしいことを云わないで下さ~い。おいどんも、妖力流すですよ」

「……いゃ、それは勘弁願い所じゃ。それにタヌキが化けるのに、玉袋を広げるのって結構有名な話じゃぞ」

「そうなのですか?」


 パインは浅倉に同意を求める。


「そうね。それは結構有名な話よ。つまり、この網はきっとドングリの玉袋で、そこに妖力をながしたものだから、そりゃぁドングリも快感を得た事でしょう」

「いゃいゃ、主よ。ワシはそんな趣味ないじゃけんのぉ」

「またまた~、そんな事隠さなくて良いのよ」


 そんなバカ話をしている網の中では黒く焦げた物体がもぞもぞと動き出す。


「お主ら、ワラワを無視するとはいい度胸よのぉ」


 焦げた物体の中から、なんとも可愛らしいベルゼビュートが現れる。

 二頭身キャラクターのベルゼビュートは、さながらクレーンゲームの人形のようだ。


「あら、随分と可愛らしい姿になったわね。……で、そんなあなたにちょっとお話があるんだけど」


 浅倉の語気は強い。


「はん、ワラワに話だと? 悪いが、人間なんぞと話すつもりなど無い」

「……あっ、そっ。じゃぁ仕方が無いわね」


 浅倉の目が坐ると、網には再び妖力が流れ始める。


「グァァァァアアアアア」

「ギョベベバベベバベベ……」


 ベルゼビュートよりも、ドングリの叫び声の方がやかましい。


「ドングリ、何変な叫び声あげているの。『ギョベベバベベバベベ』なんて叫び声聞いたこと無いわ」

「そんな事云うても、どえらぁ痺れるんじゃぁ。このままじゃ、ワシ消えてまうでのお」

「安心して。契約しているんだから、消えやしないわ。それよりもベルゼビュート、少しはお話する気になったかしら?」


 浅倉の目が拷問官みたいになっている。


「分かった、分かった、なんでも聞くわ! ほれ、ワラワに何を聞きたいんじゃ」


 ベルゼビュートとの闘いは、これにて終了した。



「ほな、預かるで」 


 草津は、網にくるまれているベルゼビュートを受け取ると、買い物袋を下げるように持ち運ぶ。浅倉は、そんな彼女の後姿を見ながら、下山を開始した。

 だが、ふと浅倉の心は不安にかられる。


 ……なんだろう、最近上手くいきすぎている。ドングリの件といいベルゼビュートの件といい、全く苦戦を強いられていない。

 これは私のレベルが上がったためなのか、それとも単に運がよいだけなのか……。

 いずれにせよ、この運のよさは気持ちが悪い。反動で何か悪い事が起こらなければよいが……。


 浅倉は、取り越し苦労であれば良いと思うこととして、その場を後にした。


 ……だがこの不安は的中することとなる。それも最悪の形として……。


 

 まずいです。ストックがありません。

 来週落としたらごめんなさい。<(_ _)>

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