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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第七章 もう一つの道(十月)
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組長抜きの出撃

 ダンッ!


 机を打ち付ける音が、埼玉支部の作戦司令室に反響する。


「やられたわ!」


 刺す様に、鋭く細いその声は、三沢紬の口から出たとは思えない程に興奮している。垂れ下がった髪の毛が口に入り、フラストレーションは追い打ちを掛ける。

 ギリッと噛みしめられた奥歯と、苦渋に耐えているかのようなその表情は、魔よけの護符の様に人を近づけさせない。


 今回敵が現れたのは、栗橋宿と幸手宿の二カ所だ。これらは今まで敵が現れた中仙道ではなく、日光街道の宿場町となる。


 街道――かつて江戸幕府は日本橋を起点とする五つの道を整備した。これを五街道(ごかいどう)と呼ぶ。

 いわずと知れず東海道。それ以外に中仙道、日光街道、奥州街道、甲州街道で構成され、参勤交代や物資輸送の要として17世紀初頭に整備されたものだ。

 もっとも、埼玉県では日光街道と奥州街道は重なった道であるため、どちらの名前で呼んだとしてもかまわない。

 そんな日光街道だが、埼玉には六ヶ所の宿場町がある。南から草加宿 、 越ヶ谷宿 、粕壁宿 、杉戸宿、 幸手宿、栗橋宿。その中でも、栗橋宿は利根川と呼ばれる関東でも大きな川に隣接している。

 街道は一端そこで途切れるも、渡し舟にて川を超えて茨城県へと入る。そして、中田宿へと続いて行くのだ。

 三沢は日光街道の存在について、知らなかった訳でも、気にしなかった訳でもない。ただ敵の襲撃ポイントがあまりにも中仙道に集中していたため、日光街道の宿場町は除外していたのだ。


 三沢は鋼組に非常招集をかけると、浅倉を除いた四人に命令する。


「今回敵は二カ所同時に現れました。栗橋宿に王龍騎、幸手宿に恐呼が現れたと思われます。よって、こちらも二手に分かれます。栗橋宿には楠君とパイン君。幸手宿には片桐君と柏木君で行ってもらいます」

「……まっ、妥当な組み分けだろうな」


 柏木がポツリと言葉を漏らす。納得した素振りを見せ、髪をかきあげると、そのまま三沢の方に目を向ける。


「で、紬さんよぉ。組長ちゃんはどうなんだい?」


 『どうなんだい?』この言葉には、参戦できるのかとの意味が含まれている。

 現在前橋市にいる浅倉は、戦いに間に合うのかとの質問だ。


「簡潔に云えば、参戦は不可能です」

「……まっそうだよな」


 そう、浅倉のいる前橋市からは栗橋宿や幸手宿へ向かう交通手段がないのだ。

 一端汽車にて大宮まで帰ってこようにも、一時間半はかかる。その後煙突砲にて向かったとしても現着まで二時間以上となる。

 では、陸路にて車で行けばどうだろう。直線距離では行けない距離ではない。だがしかし、埼玉県の欠点として南北にはしる道は整備されているが、東西にはしる道は殆どない。厳密にいえば、細い道は幾らでもあるが、主要幹線道路がないのだ。つまり、スピードが出せない上に、道も細々して分からないので、目的地へ到着するのは困難といえる。

 線路、陸路、空路。これらすべてが使えない浅倉は今回の戦いに参戦する事はまず不可能なのだ。もし到着したとしても、既に戦いは終わった後の事となるだろう。


「埼玉県の欠点が、痛手となったわね……」


 三沢が独り言の様につぶやく。


「あの?」


 いまで黙っていた片桐が手を上げる。


「三沢参謀、群馬支部には煙突砲や電磁投射グライダーの様に、空を飛べるものは無いのですか?」


 もっともな疑問だ。

 埼玉県にある設備なら、群馬県にも似た様なものが存在していても良いのではないかと思うのは至極当たり前の事だ。

 だが、三沢の首は上下ではなく、左右に振れる。


「残念ながら、群馬県にはその様な設備は無いの。そもそも、あの煙突砲は実験も兼ねてウチに設置されたものだし、電磁投射グライダーにあっては、帝都東京の応援に素早く行ける様にとの事で設備されているものなの。云われてみれば、カタパルトって、帝都の方向、つまり南側を向いているでしょう」

「確かに。考えたこともありませんでしたが、参道カタパルトは東京方向を向いていますね。お陰で北へ行くのには、一回転しないといけませんからね」

「そうなのよ。本来あんな大掛かりな設備、埼玉に予算が配られるわけ無いんだけど、金沢支部長の口八丁でなんとか予算をぶんとったのよ」

「……ある意味すごいですね」

「まっ、ある意味ね。……さて、無駄口を叩いていても始まらないわ。二チームに分かれて出撃! 幸運を祈る」

「「「「了解!」」」」


 敬礼と声がそろう。



 ● ● ●



「片桐さん、なんか懐かしいですね」


 煙突砲にスタンバイした楠が、インカムにて全員に話しかける。


「何がだ?」

「いぇ元々僕たちって、組長無しで戦っていたじゃないですか。その時は、片桐さんと柏木さんとボクの三人でよく出撃してたなって……」

「そうだったな。なんか最近は組長が率先して出撃しているから、そんな感覚忘れてしまったな」

「確かにな。組長ちゃんは、我先にと出撃するからな」

「昔はそうだったのですね。おいどんは、ボスがいるのが当たり前だったから、少し寂しいで~す」

「そうかもな。だが、今回組長には休暇を取ってもらう感じで、俺達だけで何とかするぞ」

「能面野郎にそういわれるのはシャクだが、まっ、今回はその口車に乗ってやるよ」


 各々が自由に話している中、水沢うどの声が全員のインカムに流れる。


「発射準備完了。これより射出する」

「今日は優しく頼むぜ!」

「はぁぁ?」


 柏木の言葉が、水沢の機嫌を損ねる。


「……なにそれ、普段私が優しく無い様な言い方ね」

「いゃ、そうは云ってないぞ。ただ、いつもカウントダウン通りに発射されないから……なっ、みんな」

「……」

「……」

「……」

「おぃ、誰か答えろよ!」


 水沢は、インカムのマイクを口元へと曲げる。


「柏木ぃぃ、あんた中々いい度胸してるね」

「いっ、いや、そうでも無いけど……」


 水沢の圧に押されて、つい、口がどもる。


「それじゃぁ、今日のビックリ・ドキドキ・カウントダウン始めるからね」

「ちょっ、なんだそのネーミング。もう少し――」

「5」

「いゃ聞けよ!」

「4」


 ポチッ!


「アガガガガァァァアアアアアア!」


 柏木の叫び声が、身体と共に上空へと発射される。

 残された三人は、自分には水沢の怒りの矛先が向かないことを祈りながら、発車の準備に備えた。



 ● ● ●



 幸手宿は、地獄絵図と化していた。人々が発する恐怖の叫び声と建物の崩壊する音が鳴り止まない。

 蜘蛛の子を散らしたかのように、人々は逃げおせ、その中心には竜巻のように恐呼の鞭が渦巻いていた。


「あ~~~はっはっはっ! 楽しいわ、この力。バンパイアの力を強化させる珠の威力、最高じゃ無いの!」


 両手に握られた鞭は、縦横無尽に動き回り、次々と建物を破壊する。

 木製の建物が多い中、一度火が付くと、町は火の海と化していった。

 業火の中で笑い叫ぶ恐呼をみるなり、人々は地獄の嬢王が地上に現れたのではないかと勘違いするほどであった。


「さて、ゴミ共にはだいぶ恐怖を与えたけど、要石って何処にあるのかしら……」


 恐呼はキョロキョロと首を回して要石を探す。……が、フッと一歩後退する動きを見せる。その行動と同時に、恐呼の目先に一筋の線が走る。


 ズガァァァァアアアアン!


 少し遅れて銃声が轟く。


「チッ、躱しやがった」


 上空から柏木が舌打ちをする。


「やっぱり来たわね。そろそろ来ると思っていたわよ。今度は返り討ちにしてあげるわ」


 恐呼は弾道が飛んで来た方向を睨みつけると、舌なめずりをする。チロリとなめ回すのと同じく、鞭を振り回すと、舌の動きとは裏腹に、鞭の一撃は激しく、家屋を空高くまで吹き飛ばした。


「さっ、いらっしゃい!」


 柏木の宣戦布告に対して分かりやすく答えた。

次週、GW休みを頂きます。ペコリ

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