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【けれどスイッチをさがす】
どうにも会社の人たちとうまくコミュニケーションをとれない。犬をイッヌと言い、ねこをぬこと言い、自分のことをわいと言う。そんな面妖じみた言葉を巧みにくり出してくる人たちと、戸惑いなく、どう関係を積み重ねていけばいいのだろう。誰にも相談できないまま、いたずらに時計の針だけが進んでいく。それでいいのだと許しているのは、ほかでもない僕自身だ。
エスカレーターの片側はあけるらしいと知った。あけないといけないらしいと知った。そのときは確か右側にいて、僕はゆっくり歩いて登っていた。そのときは、と言ったけれど、たいがい僕は歩いて登っている。駅のホームまでの長い道のりの途中くらい、僕は立ち止まった。前の人が止まっていたから。その先の人も、その先の人も。だから僕もしかたなく止まっていた。けれど止まってほしくない人というのがいて、僕のすぐ後ろにそういう人がいた。声だけの判断では女の人だった。年のころはわからない。その女の人の声は「歩いて進みなさいよ。止まるんなら反対側によりなさい」とやけに荒く言ってきた。どうしていいのかわからずにいると、同じことをまた聞かされることになった。しかたないので「前に人が止まってますから」と半分、振り向いて言うとそれはあっさり消えた。結局、僕はそこに止まったまま上まで運ばれた。振り向くのがなぜか怖く、僕はホームの端っこまで一心に歩いた。なんと言えばよかったのだろう。何が正解だったのだろう。あれから、エスカレーターは避けるようになった。
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約束を破られてしまうには、まず人と約束をしないといけない。僕はそもそも人と約束すらしようとしない。約束を破られることはもちろんないけれど、約束をきっちり守ろうとする人も、守ってもらうことの事実も、そこには何もない。
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仕事ができる人が必ずしも上司としての適性があるとは限らない、と誰もが理解していない現実。
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男から女に対してだけがセクハラじゃない、女から男へのセクハラだって存在するし、なんならたくさんある、でもそれを声高に言うと「男のくせに」とセクハラ発言をお見舞いされてしまう現実。
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油あげとけつねコロッケをたくさん買うとヘンな目で見られるというあたり前のような現実。
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自分の顔は自分の目では直接、見ることはできない。何か道具を使って映してみるか、あるいは他人に伝えてもらうか。映ったものが、誰かが伝えてくれたものが、真実とは限らない。信じるか、信じないか。自分にゆだねられることの恐怖。
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弱っていたり、運気が悪かったりのときというのは、得てして自分にとってよくないものを呼び込んでしまいがち。ひそかに、それはお狐さまにも内緒にしていることだけど、陰ながら応援しているアイドルグループから卒業するメンバーが発表された。それはしかたないことで、でも慣れてくれないのも毎回のこと。
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お狐さまに出会ってから書いていた日記らしきものは、文字の数が減っていき、文章の長さが短くなっていく。「植物に水をあげた、よかった」「仕事の帰り、買いものに行けた、よかった」。それすらも書けなくなっていき、真っ白のページが続くようになった。




