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【晴れときどきくもり、つごうにより回想 その四】




 お狐さまと暮らすようになってからの食生活は、もちろんそれは以前に比べたら、ということではあるのだけど、たいへんよくなった。ひとりの生活というのは食生活に限ったことばかりでなく、自分さえそれでいいんならいいんじゃないの、がふんだんにあふれた閉鎖的な世界。そうじゃない人の暮らしというのもなんとなく知らないわけではないのだけど、どうも僕からしたら、無理してないかそれ、というもののような気がしてしまい、到底マネなんてできない。しようという気にもならないけど。


 何つくるかなと仕事が終わって考えながら駅を降りて、でも疲れてるからそれこそテキトーに弁当でも買って、より疲れてて弁当を買うのすらメンドーなら買い置きの袋ラーメンですましてしまえ、な感じ。今日だけ、が明日も、明後日もになっていって、今日も明日も明後日も、に変化していくのなんて、あっという間のことだった。さすがにヤバいと思ったのは、ごみ袋にその残骸だけがたまっていくのを見たときだった、空虚に、袋ラーメンの残骸だけが。


 誰かとの食事は楽しい。そのことを知った。その相手が食べものへの感覚の近しい存在だとより楽しい。そのことも知った。お狐さまの存在が、そのことを教えてくれた。なかでも一番楽しいと思えるのは買いものだ。


「何にしよっか?」


 言う相手がいるというのは、それだけでうれしくなる。たとえそれが、


―おあげさんがあれば、あとはなんでもいいのだが


 と、決まりきった返答であったとしても。


  ・


 その日、お狐さまは甘いものを持って帰ってきた。


―頂きものをしてな


 それなりに雰囲気のある丁寧な包装は、僕が口にしたことのないランクのものを予感させるには容易だったのだけど、僕に想像させるにはいささか無理があった。


 夕ごはんがすんで、その包みを開け、お狐さまは言った。


―ほう。これはたいへんよいものだな


「やっぱり、わかるもんなの?」


―やっぱり、とは?


「いや、なんというか…」


―まあ、なんというか、頂きものは、よくするのでな


 お狐さまは、それ以上は聞いてくれるな、ということなのか、会話を打ち切るように持って帰ってきたおせんべいにとりかかり、さっそくいい音を響かせた。


「おせんべい好きなの?」


―うむ。いい音のするものは好きじゃな


 お狐さまは好きなものだけしか食べないのではなくて、さまざま幅広く食べる。その柔軟な姿勢と食生活がお狐さまのこの性格の源にもなっているのかなと、僕は好感を持っている。


「かりんとうとかも?」


―よいな


「だんごとか、大福とか、好きそうに思ってたけど」


―あれらもたいへんよいな


「音はしないけどね」


―いや、口のなかでな、よい音をかもし出すのだ。もっちりとな


 そう言ってお狐さまは満足そうにニンマリした。


「今度、買ってくるよ」


―気をつかわんでよいぞ


「そうじゃないよ。僕も食べたいしさ」


―うむ。で、あるならば


 目にはできないちいさな風がやさしく風鈴をゆらし、ちりんとささやきがあって、夜はゆっくり進んでいった。





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