表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/7

:07


【晴れときどきくもり、つごうにより回想 その五】




 何日かすぎてからの、たぶんお昼すぎくらいだったと思う。


―ほう。珍しいな


 お狐さまの言葉で顔を上げ、その視線を追いかける。


「ああ、お天気雨」


 久しく出会っていなかった。少ない記憶のなかでは、小学校低学年以来じゃないかな。


―別の言いかたを知っているかな?


「ああ… なんだっけかな。前に調べたけど…」


 お狐さまの表情はなんとなく、さみしそうな感じにも見えた。


―そんなことより


「うん」


 その先に続く言葉を、きっと僕はわかっている。それでも聞くのには、だいぶ覚悟がいる。


―来週、満月だが


「…うん」


―準備はよいのか?


「…大丈夫、だよ」


―うむ。万事抜かりなくな


 ようやく、僕たちの契りのときがやって来る。僕は大きくうなずいて、その返事とした。


  ・


―連休というのはカレンダーに赤い数字が続くってだけのことよ


 そんなふうにざっくりと教えてくれたのは、やはりその語尾から言って母親なのだろうとは思うのだけど、それは僕のたんなる思いすごしと記憶の改ざんで、父親が乱暴に言い放ったようにも感じられる。いずれにしてもふたりの親が満足に休みを取れず、また連休を忌み嫌うような仕事に就いていたと知ることになった、後々のことではあるけれど。


 僕は、お狐さまがどんな仕事をしているのかを知らない。どんなことをして、どんなことをしていないのか、そのときどんな顔を見せてくれて、どんな顔を見せてくれないのか、まったく知らないし、わからない。気にならないのではなくて、知ることが怖いのかもしれない。それだけの覚悟を、僕はまだ手にしていない。そんな僕がお狐さまと契りを結ぶことが、果たしていいことなのか、考えてしまう。僕の少ない経験上、この手のことは考えたところで結論には到底、達することがない。それをわかっていて、でも僕は、やっぱり考えてしまう。


―教えてはやれぬが、食べているものなら教えてやれんこともない


「うん。教えて」


―教えるというか… そうだな、今度、食べに行ってみるか


 そのお店はマグロ専門のお店で、その名もズバリ「まぐろ屋」。そのまんますぎて潔い感じに、入る前からすでに好感触。


―うむ。今日はアタリのようだな


「そうなの?」


―うむ。しかしな…


「何か問題でもあるの?」


―いや、なんでもない。入るとしよう


「…うん」


 ふたりにしては少々、狭いかもというようなテーブル席が、僕にはかわいく思えた。座って、店員さんが来て、僕に「いらっしゃいませ」と言って、お狐さまには「いつもありがとうございます」と言って。そんなに来てるんだあ、と僕の知らないお狐さまを想像して、ちょっぴりさみしくなって。


「日替わりでよろしいですかね?」


―うむ。ふたつな


「かしこまりました」


 運ばれてきたお膳はとても豪華で、メインのほほ肉のからあげ、マグロの山かけ、里芋の煮もの、みそ田楽、ほうれんそうのおひたし、きゅうりの漬もの、そして、ごはん、みそ汁。小鉢の多さに胸が弾んだ。


―このマグロのほほ肉のからあげが絶品でな


 やわらかく、ごはんがすすむ味だった。


「困っちゃうなあ。ごはんが足りないや」


―そこなのだよ


「何が?」


―おいしすぎてごはんが足りなくなってしまう。しかし、ごはんのおかわりは自由ではないときてる


「ああ…」


―それがこの店の唯一の欠点らしい欠点のようなものだ


 最後、お茶まですっかり飲み干し、僕たちはそのお店をあとにした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ