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【晴れときどきくもり、つごうにより回想 その二】
一緒に暮らす前までは、週末、お狐さまが僕の部屋に来て、泊まっていったり泊まっていかなかったり。あるいは、歩いて十五分くらいのとこにあるお狐さまのねぐらのあたりまで僕が送っていったり、僕の部屋の玄関でその日のサヨナラをしたり、とそういった具合だった。何度目かの僕の引っ越しのタイミングに合わせお狐さまと一緒に暮らすことにした。まだ契りは結んでいない。ゆくゆくはそういうことになるのかもしれない。
何度、引っ越ししても過去の生活とあまり変わらないのは小さな街のなかだけで移動してるから。僕もお狐さまもこの街の生まれではないのに生まれ育った土地よりいまいるこの街が好きなのだ。本当にうまい具合に毎度、近場に空いた部屋が出てきてくれて、するするすると引っ越しまでをあわただしくすごす。
お狐さまは性格そのままにさっぱりした荷物で、その量は僕のそれよりも少なく、心配になってしまうくらいだった。
―必要であれば、そのとき買えばいいんじゃ
言ってお狐さまはさっさと自分の荷物を運び入れ、あっけなく自身の引っ越しを終わらせたのだった。
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仕事終わり、何はなくとも疲れたカラダをスーパーへ運んでいく。
お狐さまとの生活がはじまった場所は、いままで「駅の向こう」と呼んでいたあたりで、そこがそのときから「駅のこっち側」になった。こっち側には赤と黄色が眩しいスーパー「39ベリマッチョ」があって、その店が近くなったことは僕たちを大いによろこばせた。
スーパー「39ベリマッチョ」は他のスーパー同様、惣菜が豊富だ。なかでも人気なのは「けつねコロッケ」。言ってしまうと人気の理由はそのネーミングによるもので、いたって普通、油あげに包まれたきつねコロッケだ。「いっこ98円」の横にきつねの絵。どことなくお狐さまを思わせるそのかわいいイラストにつられ、いつも買ってしまう。
買いものかごのなかは、大量の油あげと、そして「けつねコロッケ」。そりゃあ、言われてしまうよなあ。まったくあずかり知らぬところで僕はスーパー「39ベリマッチョ」の店員たちから「油あげの人」と裏で呼ばれているらしいことを知った。悪いことをしているのではないのだし、特売で数量制限があるときはそれを守ってかごに入れている。買って、一度スーパーを出て、また店に入って油あげを買い足すなんてこともしたことはない。でも、毎回毎回、油あげと「けつねコロッケ」ばかりでは、そうなってしまうのも致し方ないことなのか。けど、致し方ないとは言っても気にはなってしまう。スーパーの制服を着てる人がみいんな僕のことを指さして笑ってる気がしてしまう。買いものかごに油あげを入れる瞬間を見られてる気がしてしまう。「けつねコロッケ」をかごに入れた背後で、クスっと笑い声が聞こえたような気がした。振り返っても、誰もいなかった。知らなかったときには、そんなこと少しも感じなかったというのに。
「僕、あのスーパーで「油あげの人」って呼ばれてるらしいんだ」
夕ごはんのとき、お狐さまに言ったのは、苦情というのでも、嘆きというのでもなく、単なる報告としてだった。お狐さまは、
―で、あろうな
と、あっさり言っただけで、油あげに向かって箸を持った手を伸ばしていく。お狐さまの大好物の、油あげをフライパンで少し焼いて、適当な大きさに切って、皿にのせたらその上に小松菜とニンニクチップのしょう油漬けをかけていったもの。しょうゆ漬けは僕も好きで、なんにでも合うから冷蔵庫に常備している。僕は気分で厚あげにするときもあるけど、お狐さまは一筋に油あげばかりだ。
確かにそうなんだ。僕があのスーパーで「油あげの人」と呼ばれていてもいなくても、やっぱり僕はこれからもあのスーパーに行って大量に油あげを買うし「けつねコロッケ」だって買う。それでも少しくらい期待してしまう。お狐さまが、
―すまぬな。苦労をかける
とか言ってくれるのを。
いつも通りの会話の少ない食事が終わり、僕が食器を片そうとすると、
―今日のとこは、わしが
と言ってお狐さまが率先して食器を運びはじめた。
「でも、今日は僕の番だよ」
―まあ、いいではないか
こうなると引かないのを知っているから、僕はあっさり引き下がることにした。言葉のかわりなのかなと、お狐さまの照れ屋な一面を、僕は知ることになった。




