:02
【お狐さまはお狐さまであってほかの何者でもないということをどうやって理解してもらおうかとあれやこれや】
楽しい宴のあとは、さびしくて、せつなくて。だったらいっそのこと宴に出なければいいんじゃないかと思ってしまう。出なければ楽しい思いにもならず、そのあとの急な落ち込みにしても襲ってくることはない。でも、それはそれで、さみしくてせつなくてやるせないことだ。理解だってしてる。僕とお狐さまによるささやかな暮らしという名の宴は終わりを迎えようとしている。さびしくてせつないやるせなくて胸をえぐられる。
結局、僕は、逃げたいんだと思う。そのことから目を背けたいんだと思う。
そんなとき僕は、わざわざ深夜、こそっと部屋を飛び出して、外をひとりで歩く。さびしくてせつなくて、でも案外、人を感じられる。タクシーが走っていたりいなかったり。新聞配達のバイクが走っていたりいなかったり。アパートの一室に、明かりがついていたりいなかったり。
深夜の道ばたに落っこちている何かを、ひょいとひろい上げてみる。かつて誰かのものだったその何かを。その姿に反して大切にされていたのかもしれないその何かを。その姿のとおり、ぞんざいに扱われていたであろうその何かを。所有者にどう扱われていたのかの如何によらず、他人のものであったその何かを、容易に手にするその行為が、なんだか大それたことをしでかしてるみたいで急にドキドキしてしまったりする。
深夜の闇に、工場の建物たちが要塞のようで、それが不意にあらわれては僕を驚かせ、不覚にも僕は驚く。昼間はまったくもって、たんなる工場の建物としてそこにあるくせに。
それらのことを話せる相手がいまはいるというのに、それでもたまらなくさみしい。もはや神経反応というくらいに。
深夜の闇に拒まれたことは、これまで、あっただろうか。深夜の闇にバカにされたことは、これまで、あっただろうか。深夜の闇に吸いこまれそうになったことは、これまで、何度かあった。深夜の闇のヤツは、そうやって容易に、僕のことを誘惑してくる。いくら誘惑してきたって、応じてあげることはないというのに。それでも深夜の闇のヤツは―
・
「引っ越すことにしたよ」
お狐さまに短く報告する。
―うむ。致し方あるまい
いつものように淡白な返答があるだけだった。
僕たちは、契りどころでは、なくなっていた。




