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【突然の引き金、いきなり事件、でもね僕は】




 お互いにカラダをすみずみまで清め、まだ袖に手を通したことのない真新しい服に身を包んだ。もう間もなくとそのとき、でも事態は急変してしまった。あれは一週間くらい前だった。


「あら、これからお出かけでしたの?」


 玄関を開けるとそこには、どこかで一度、会ったことのある人物。その面影を、過去の記憶と照らし合わせるその一瞬は、短くて、けれど永遠のように長い。


「あ、いえ、そうではないですが」


「そうですか。でしたら、いまちょっとよろしい?」


「はあ。なんでしょう」


「あなたのとこ… 何か飼ってらっしゃるの?」


 その言葉で確信の光が走った。この人、大家さんだ。


「え… あの…」


「いえね、いえね。なんと言うんでしょ、噂、とでも言いますかしら、そちらで何か… みたいなこと聞いたものですから、ええ」


 と言って、上がってこようとする。


「あ、あの…」


「いえ、ちょっとだけね」


「ちょ、ちょ」


「いえいえいえ。すぐよ、すぐ」


 なかなかに強引な人のようで、また大家でもあるし、僕のほうも下手なことはできず、大家さんはほぼすんなり部屋に上がってしまった。


「すんすん。すんすん。すんすんすんすん」


 大家さんは、やけに鼻を引くつかせている。


「あ、あの… どうしたんですか?」


「いえね、においをね。すんすん」


「におい… ですか…」


「ええ。けもののようなにおいですとか、どうかしらと思いましてね。すんすん」


「い、いませんよ」


「ええ、ええ。もちろん疑ってるわけじゃありませんけどね。まあ、いちおうねえ。すんすん。すんすん」


「あ、あの…」


「ごめんなさいねえ。とくに何ということはないみたいよねえ」


「ですから」


「あらあら、おじゃまさまねえ」


 言って、大家さんは帰っていった。


  ・


 あのとき、どう説明するのがよかったのだろう。





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