選定会議
「おお、これは……面白い人選ですね」
真っ先に感想を述べたのはアインスだった。素直な感想なんだろうけれど、ヤベッ、みたいな感じで頬が引きつっている。
この次は君の番だものな。コイツらに意見を求めたのが間違いだったんだ。
まあ僕が君のために用意してきた候補はマトモだから安心しておけよ。
「へぇ、ゲインにそっくりだニャ。これはいいのを見つけて来たニャ」
これまで顔を洗いながら沈黙していた茶虎猫のベルディラットも、これにはニッコリだ。
「わたしの候補をみんなに紹介するわ。エマの世界の住人で、名前はライ。見てのとおりゲインに似てる子よ! いいでしょー?」
「ふ……ふざけないで!」
バン、と円卓を叩いてエマが立ち上がる。白い羽がバサッと広がった。
彼女の前にはすでにライ君の個人情報が映像として浮かび上がっている。
「このライって人間個体、ただの一般人じゃん! ていうか田舎の農民! 戦闘能力もないし魔法も使えない! こんなのがあの魔王と戦えるわけない。絶対ダメでしょ!」
「あら、候補とする個体に条件はなかったはずよ。それにどうせ干渉して強くするんだから、べつに素人でも問題ないでしょ?」
「問題ありまくりだよ!」
なにせ世界の危機だからな。人類が滅亡しかねない状況なのだから、どうせ伝説の剣とか与えるなら、剣の振り方も分からない奴よりはトップクラスの戦士に渡したいよな。
分かるよ。分かったうえでチャルルンを支持するけど。
「私もエマと同意見ですね。問題はあると思います。この個体に決定したとき、エマの世界の問題解決がスムーズに進むとは思えません。ちなみにチャルルン、選考基準をお聞かせいただいてもよろしいですか?」
「もちろん顔よ!」
冷静で穏やかなアインスの質問に、チャルルンは堂々と言い放つ。無敵か。
「それが理由ではエマが怒るのも当然ですね」
老紳士の姿をした先駆者は首を横に振る。
多分だが、アインスは次の自分の番を意識してエマに味方してるな。ここでライ君に決まったら、自分のところもノリで決めることになるかもしれない。それは本気で嫌なのだろう。
「ゲイン。あなたはどうでしょう? チャルルンの候補はあなたの今の姿にそっくりですが、思うところはないのですか?」
おっと、話を振られてしまった。まあ予想していたけれど。
「まず前提としてだが、僕はチャルルンの候補については事前に相談を受けているし、そのうえで候補として提案することを許可している」
「すでにあなたの了承はあると。なるほど、どうりで落ち着いているハズです」
「もちろんこのライという個体に問題解決能力があるかどうかは疑問を持っているし、エマの世界なんだから最終的にエマの決定を尊重する。そこまでは当然という認識を持ったうえで、自分の顔と似たこのライという個体がどういう冒険をするのか、興味があるというのが本音だな」
僕の嘘偽りない返答に、アインスは肩をすくめた。
「そうですか。ちなみにですがゲイン、あなたの候補は?」
「僕もいろいろ考えたんだがな、エマの世界には候補を立てずチャルルンを応援することにしたよ」
アインスのマネをして、僕も肩をすくめた。
ふぅ、と老紳士は息を吐く。察しのいい彼のことだ。チャルルンとの、お互いの候補を支持する契約まで見破られたかな、これは。
「わかりました。では、私もチャルルンの候補を推しましょう」
「ええー! アインスまでっ?」
これは僕も意外だった。てっきり反対されるものだとばかり思っていた。
「我らは自分たちの宇宙に発生した生命体に、いずれは私たちに似た姿になるよう因子を植え付けました。ならばゲインに似たこのライという人間は、最もその因子が色濃く出た個体と言えるでしょう。先駆者として彼を観察したい気持ちが強いです」
そのころの僕はこの姿じゃなかったが?
色とかもなかった時期の話だろ。みんな透明で、とりあえず自他の境界となる枠組みだけ作ったころ。因子はいずれ人型に……人という概念もなかったが、とにかくいつかこの形になるように干渉しただけ。この外見に似てるのはただの偶然だ。
他ならぬアインスがそんなことを覚えていないはずはない。……が、それだけ彼もライ君を面白いと思ったんだろう。
「アインスの意見はもっともだニャ。我らに似た姿に誘導したのニャら、我らが注目するべきは我らに最も似ている者と言えるニャ。我もチャルルンの候補を推すニャ」
お前はもう人型ですらないだろうが。
まあ、ライ君推ししてくれるならなんでもいい。ベルディラットもチャルルンの候補を気に入ったようだ。
つまり、五人中四人がライ君推しである。
「……ええー、本気で言ってるみんな? こんな、ザ・田舎者みたいな、戦う力のない個体にアタシの世界の運命を任すの? ゲインに顔が似てるってだけで?」
エマが涙目で哀れな声を出す。可哀想だな。その通りだよ。
「それならせめて、アタシに似てる個体選びたいんだけど!」
よし同情しなくてもいいな。
「エマのそっくりさんじゃダメね。探すまでもなく、羽のある人類はいなかったもの」
「ゲインはずっとノーマルの人間型だからニャ」
「くぅー……これが終わったら有翼種を作っておく!」
それで世界が歪んだの分かってるんだろうか。
というかエマの今の姿って、エマの世界の神っぽい姿のはずなんだよな。神とおなじ姿の種族、普通に騒ぎになりそうだが。
「一応試算したが、エマの世界はまだ滅亡ギリギリというわけじゃない。このライという個体が失敗してもすぐには滅ばない。そして勇者を選ぶというのはなにぶん初めての試みだから、もしかしたら予想外のことが起こるかもしれない。……なら、一回お試しで彼のような人間を選ぶのは、悪いことばかりではないと思うぞ」
「そうですね。最初はどうしてもミスが起こりやすいですから、すぐに最高の個体を選ぶ必要はないかもしれません。与える力の配分を間違えて、干渉直後に爆発四散なんてことになったら嫌でしょう?」
僕の仮定の話にアインスが乗っかってくる。もしライ君が爆発四散したら嫌だな。
まあ試験運用でライ君を選ぶのは、実際悪くない。最高の個体を選んでダメでも替えはあるだろうが、ライ君はただの田舎の農民だからな。仮にすぐ死んでも諦められるし、むしろ貴重なデータが取れるから失敗してもプラスだろう。
とはいえ……決めるのはエマだからな。彼女が本気で嫌がれば強制はできないが。
「うー……分かったよ! じゃあ一回、一回だけこの個体でいく! でもこれが失敗したら次は一番強いの出すからね!」
ここで自分を押し通さないのがエマらしさだよな。
最初に僕に相談したときにはもう、勇者を作るという発想はあっただろう。なのに自分の独断で行わず会議で提案したり、真っ先に自分の候補を発表したりしてたのは……こちらの意見を求めているから、ではない。基本的に寂しがり屋だから、とにかくなんでもかんでも話したいのである。
そんなエマだからまあ、僕らが意見を合わせたら折れるよな。
「やった! じゃあライ君にどんな力を与えるか、また考えましょう!」
「まるで力がないからニャ。方向性が自由に決められるのは楽しそうニャ」
チャルルンとベルディラットが嬉しそうに話し始める。他人事の二人は気楽そうでいいな。
まあ僕も気楽だが。
「その前に、次は私の世界の勇者を選んでもよろしいですか?」
そんな二人にアインスが割り込む。こっちの方が切羽詰まってるからな。忘れ去られるのは不服だろう。
ただ……エマはたぶん自分のところしか考えていないし、チャルルンは候補を立てず僕に賛同することが決まっている。そしてベルディラットはイマイチやる気がなさそうだ。
最悪、候補を立てるのはアインスと僕だけということもありうる。……まあ、安心しろアインス。僕はしっかり考えてきたから。たぶん君よりも。
「あー、アインスの世界の勇者は、他の候補は発表する必要ないニャ。だって我の候補で決まりだからニャ」
そして僕は、ベルディラットの裏技に完敗する。




