裏工作
基板世界。それが僕の宇宙のコンセプトだった。
七つの宇宙を作り、他の六人に一つずつ配り、アインスの宇宙で偶然起きた生命の発生とそれに付与した人型の因子をマネした後――僕はそれ以降の干渉の一切をしないと決めた。
早々に干渉した他の六人の世界に歪みが確認されたし、干渉しなければどうなっていくのか、というのも単純に気になった。みんなみたいに自分好みの世界にしていくのも楽しそうだったが、こういうのも一つくらいはあっていいと見るだけに留めた。
だからまあ認めるしかないのだけれど、世界への干渉という行為に関して、僕は好き勝手やってる他の六人に経験で劣っている。
「ヤッホー、ゲイン。宿題、ちゃんとやってるかしら?」
ヴン、とゲートが繋がって、褐色の肌の女性が居住区に入ってくる。デカい酒樽を持って。
「べつに宿題ではないだろ、チャルルン。せめて課題だ」
思念で照明をつけた。
個人の居住区と言っても、区切られているだけで誰でも入ってこれるようにしてある。中には居住区にカギをかけている者もいるが、僕は基本的にはかけない。
だから、こうして誰かが訪問してくることもたまにあった。
「同じようなものでしょう。で、どうするか考えた?」
「まだ考え中だな。候補なら何人かいるが」
どうやら偵察に来たようだ。あるいは彼女も決めかねていて、相談に来たのだろうか?
僕も誰かの意見を聞きたかったので、ホームシアターのリモコンを操作する。三人の男女の姿が映る。
「アインスのところはAIに反抗する技術者集団の構成員たちの一人だな。ムークス・ハルネ、バビル・ギョジュズ、葛川琴音の三名のうち一人がいいだろう」
「あー、そういう集団がいるのね。AIにやられてるばっかりじゃないんだ」
「まあ現状じゃAIに潰されるのも時間の問題だ。しかしアインスが上手く支援してやれば、逆転する可能性はありそうだ。第一候補はムークスかな。歳は三十五と三人の中では高いが、この集団の中だと若手に入る。それでいてAIに対する知識はアインスの世界でもトップクラスに深い」
ちなみにバビルは知識やカリスマだとムークスに届かないが、歳が二十代半ばで体力がある。琴音はAIの探索範囲から逃れるセーフゾーンの構築担当者。全員優秀だから誰がなってもいいと思う。
さらにリモコンを操作。画面が切り替わって、今度は三百名以上の顔が映った。
「エマのところは候補がかなり多いな。元々モンスターとかが出る世界だから、それを狩ることを職業とした、戦いが得意な者が多い。とりあえず第一候補はこの、大国の騎士団長をやってるダム・ビクセンクルとかになると思うが……まだ他候補を精査できてないから、最適解かどうかは分からないな」
「なるほどねー。ちゃんと真面目に考えてるじゃない、えらいえらい」
チャルルンが頭を撫でてくる。ちゃんと真面目に考えているさ。なにせ集会が終わってからずっと調べてたからな。
特にアインスのところは僕の考える限り、これしかないという人選だ。まあ、これしかなさすぎて他と被りそうでもあるが……。
「でも、つまらないわね!」
コイツ……!
「なんだチャルルン。僕の人選になにか文句があるのか?」
僕はオフィスチェアをクルリと回転させて、ちょっとイラッとしながら褐色肌の豊満な女性に向き合う。
チャルルンはすでに身体が埋もれるようなデカいクッションを取り出して座っていて、フフフンと上機嫌で酒をあおっていた。
「大ありね。最高効率で目的を達成するだけの人選なんて、なんにも面白くないでしょう? もっと遊び心ってものがないと」
「遊び心ぉ?」
言いように耳を疑ってしまう。最小の干渉で最大の効率だって条件だろ。余計なことするな。
「まあ聞いてよゲイン。これはイベントよ。アインスとエマには悪いけれど、あの二人の宇宙の命運をわかつ二大イベント。せっかくだから楽しまなきゃいけないわ!」
「お前最低だな。知ってたけど」
「そして決定権はもちろん運営してる二人だけど、相談した以上はわたしたちの意見も無視できないでしょ。ゲインが仲間になってわたしの案に賛同してくれれば、採用される確率は上がる。ね、わたしたちで協力して盛り上げましょうよ!」
褐色の肌の女性は人差し指を立てて、楽しそうに提案する。
僕らは総勢七人。今回の集会に参加したのは五人。二票は過半数とはいかなくても、かなり有利になるだろう。彼女の言うとおり決定権は管理者であるアインスとエマにあるが、無視はできないはず。
すごいなチャルルン。この段階で裏工作に走るのかよ。国会前の政治家みたいだ。
「なにがしたいかは分かった。だが、それは君の案を聞いてからだな。つまらなかったらその話に乗る意味がない」
「お、聞く? 聞いてくれる? じゃ、画面に注目ー」
チャルルンが嬉しそうに指を鳴らすと、ホームシアターの映像が変わる。僕の居住区の設備を勝手に使いこなすな。
「……ん?」
映し出されたのは、僕の姿に似た顔の人間だった。




