名案
たしかに今回の件は、アインスの言うとおりただの偶然で片付けるのは難しい。異なる宇宙で似通ったイレギュラーが起きてしまった、という字面だけなら分からなくもないが、二つの世界の条件はかなり違っている。
しかしだが、二例という数は偶然であってもおかしくないし、原因解明の糸口を探すにも心もとない。
「共通点は、二人とも手を入れすぎってところじゃないかニャ?」
「そうね。わたしのところもけっこう干渉しちゃってるけれど、二人ほどではないわ」
茶虎のベルディラットと、デカい酒樽に直接口をつけて飲んでいたチャルルンが呆れ声を出す。
人間絶滅させたとこと、地獄みたいな世界にしたとこがなにか言ってら。
「個人的にはアインスの宇宙より、チャルルンのところの方が手を加えてる気がするんだがな。アインスはたかだか千年くらい時間を早めただけだろう?」
「そうね。惑星一つの時間だけ早送りしたなら軽微だったでしょう。でもソイツ、律儀に宇宙全体を早送りしたのよ」
おっと初耳だ。マジか。
まあ惑星一つだけを早送りするとなると、自転も公転もかなりおかしくなりそうだからな……僕が早送りするとしても銀河系ごとやるかもしれない。
とはいえ宇宙全体はさすがに頑張りすぎでは?
「人間はかなり早期に天体に興味を持ち始めましたからね。彼らの観測データに違和感があってはならないでしょう?」
白髪の老人姿のアインスは堂々と胸を張る。なるほど分からなくはない。
観測し、記録し、後に繋げる。人はそういうことをする。
彼らの星だけ早送りすれば、天体の軌道が通常とまったく違った動きをすることは想像に難くない。そして何百年とそんな不自然な状態が続けば、その天体軌道こそが正しいのだと人間は勘違いするだろう。それを避けたいなら宇宙全体に干渉するべきだ。
いや、それでも人間が観測できる範囲だけでいいだろ。
「それで、アインスのところはどこよりも手を加えていて、大きい歪みがあると。そういうことでいいか?」
「一部ではなく全体を早送りすれば歪みはでないのではないか、と考えたのですけれどね。そう上手くはいきませんでした」
「で、エマのところは当然メチャクチャ手を入れていると」
「アタシのは世界に対する愛だよ、愛」
まあ愛はあるよな。いきすぎた愛だけどな。
「決めつけるのはよくありませんが、我々の干渉が世界に歪みをもたらすことは事実です。そして今回の私とエマの宇宙の件は、それが原因で悪影響を与えてしまった結果である可能性は否定しきれません。なので皆さんに注意喚起をしたかったのと、できれば解決策を考えてもらいたくてですね」
「解決策と言ってもな……」
干渉したから悪影響を与えた、ということなら、解決のためでもあまり大きな干渉をするべきではない。仮にすべてが上手く行って魔王だの暴走AIを止めることができても、新しいなにかが生まれそうだ。
宇宙は手を加えると歪みが発生する。その歪みが溜まると観測データをどれだけ見返しても起きるはずのないような、おかしなことが起きるようになってしまう。
今回の件もその歪みが原因ではあるのだろう。少なくとも無関係ということはないはず。
だからって、直接干渉できないという厄介な問題の発生が重なったのは……やはり気になるが。
「天変地異とかでどうにかならないのかニャ? 直接干渉できなくても、地震や雷、隕石みたいな災害で狙えばいいニャ」
「ダメダメ。その程度で死ぬような個体じゃないの。アタシが追加したマナってエネルギーを悪用してすっごい自己強化してるんだから」
「こちらも厳しいですね。災害対策は高水準ですし、バックアップも多い。惑星表面の環境が完全に変わるほどの災害を起こしても難しいでしょう」
ベルディラットの案はなかなかいいと思ったが、まあそれくらいは二人とも考えついてるよな。実際に試したか、あるいはデータを見ただけで無駄だと悟ったかは分からないが。
「んー、人間を一旦避難させるとかどうかしら? 魔王とAIの支配区域の外に逃せばいいでしょう。なんなら異界作りのノウハウ教えましょうか?」
「案としてはアリなのですが、いろいろな異界とゲートを作って繋げる、みたいなのはコンセプトに外れるから最終手段ですね……」
「というか、あの異界はどう考えても大規模干渉でしょ。うちも似たようなことしてる場所はあるけれど、小さい範囲に留めないと本当に歪みが酷いし」
チャルルンの案にも難色が示される。実際、チャルルンのとこもかなり歪んでるからな。
すでによく分からない異界がいくつもできてるはず。まあ、それも面白いなと放っているのがチャルルンなのだが。
「最悪、距離が遠くて生命の発生条件が整ってる別の惑星で、一から始めるって選択肢もあるが……」
「それは本当に最終手段です。できる手をすべて尽くした後に検討すべきことでしょう」
「そうだよ! ちゃんと現状をどうにかする方法を考えてよ!」
僕の案も却下される。まあそうだろうさ。
とはいえ、じゃあどうするかだが……。
「ハイハイハイハイハイ! アタシに考えてた名案あるよ!」
エマが元気よく手を挙げる。名案があるならそれやれよ。当事者だろ君。
「問題になってるのは魔王だからね。勇者に倒させるんだよ!」
白い翼を広げて、腰に手を当てて胸を張るエマ。すごいドヤ顔だ。
……勇者ってなんだ?
「なるほど、一人の人間に特別な力を与えて問題解決させるわけですね?」
「原因に直接干渉できない以上、現地の住民に対処させるしかないかもニャ」
「個人への干渉だったら歪みもそんなに発生しさそうね。なにより面白そうだわ」
アインスが頷き、ベルディラットが猫らしく顔を洗い、チャルルンが虚空から酒の肴を取り出す。
待ってくれ。単語の意味が分かっていないの僕だけか?
「すまないエマ、勇者についての説明を求める」
「だから、なんでゲインが知らないの? ゲインの世界で生まれた概念なのに」




