呪い解析
リモコンを操作し、ホームシアターに勇者ライ君の状態を出してみる。
なるほど強くなってるな。筋肉がついたから体付きも少し頼もしい。魔法も使えるようになっているから、エマの世界の戦士としてはバランス良く成長した感じだ。
ただ魔王よりは明らかに弱い。以前調べたことがあるが、だいぶんメチャクチャだったからな。この能力で魔王に深手を負わせたってことは、そうとう頑張ったんだろう。
ただ、内臓にダメージを負ってるな。原因はマナ。纏わり付くようにライ君を蝕んでいる。
放っておけば内臓が腐って死ぬ。そういう症状だ。呪いって表現はたしかに妥当かもな。
「闇属性の魔法だね。イヤらしいやつ。仲間の聖女が治癒魔法をかけてるからなんとか保ってるけど、このままじゃいずれ死んじゃう」
「属性とかよく分からないが、早急に手を打った方がいい案件だ」
リモコンを操作する。呪いについての詳細は……分からないな。なんも分からん。
「解呪方法、分かったよ!」
早ぁ……。
「マジかエマ。いったいどういう方法だ?」
「正確には解呪できるかもしれない方法……というか、その糸口だけどね。聖女の治癒魔法は効いているから、聖属性ならこの呪いに対抗できるって踏んで脆弱性を探してみたの」
「なるほど、それで? その聖女の魔法をなんとかブーストしてやれば解呪できるってことか?」
「それだけじゃ無理。魔王の呪いは複雑すぎるからね。呪いのコアがあるとして、それが二重三重にカギのかかった箱に入ってる感じ?」
僕はリモコンを操作する。ああ……なるほどそんな感じがするな?
複雑で、イヤらしくて、強固に相手の中に居残り続けて、苦しませて殺すための呪いだ。魔王はなんでこんなまどろっこしいマネするんだ? ライ君を殺したいならもっと簡単な方法あっただろうに。まあいいが。
「じゃ、そのカギを開けないとダメなわけか」
「そうそう。けど難しいよ。少なくとも聖女の魔法だけじゃどうにもならない。聖属性の魔法で介入できそうだから、なんとか彼女を補助する方法があればいいんだけど……」
「呪いの発生源と、三つのプロテクトね。でも使用エネルギー自体は少なくないか? って、あー……なるほど。ライ君の魔力を吸い上げて維持してるんだな。良くできてる構築じゃないか」
イメージするなら呪いに寄生されてる感じ? しかも根が内臓に這ってる。
うん、効率的だな。ちょっと違和感があるが……。
「ちょっと! なんで魔王を褒めてるの!」
感心しているとエマに怒られてしまった。だってこういうの、真面目に分析まではした経験なかったし。ちょっと面白いんだもん。
んー、でもなんかしっくり来ないな。――これ、ライ君用じゃないだろ。
なんだか命を奪うのを目的にしてる感じがない。むしろ長く宿主に寄生し続ける作りをしている気がする。
ライ君はエマの干渉によっていろんな能力を尋常じゃなく底上げされてる。もちろん魔力もだ。……それがこの呪いの魔力を吸い上げて維持する特性と嫌なかみ合い方をして、致命的なものになってる感じがある。
「なあエマ。ライ君はマトモに戦ったら魔王には絶対勝てないって言ってたよな?」
「言ったけど、それがなに?」
「ライ君は魔王に警戒されてたのか?」
エマは首を傾げ、口元に指を当てて考える。
「どうだろ? 魔王側の拠点とかを潰してたから認識くらいはされてるかもだけど。でも実力的にはまだまだ全然及ばないし、魔王からしたら人類全体と戦争してるようなものだから、それなら警戒って言うか……邪魔だなって思う相手はもっと他にいると思う」
「たとえば?」
「大国の王様とか、そこの騎士団長とか? あとは大賢者様とかかな」
エマが勝手にホームシアターの映像を操作して、いくつかの人物を映し出す。あ、前に僕が最有力候補にしようとしてたダム・ビクセンクルもいるな。
ダムとライ君のステータスを比べると、単純な身体能力だとライ君の方に軍配が上がりそうな気がする。ただ経験の差で戦闘はまだダムの方が強いって感じか。
なら、ライ君のためにわざわざ呪いを用意する、なんて手間を魔王がかけるのは変な気がするな。
ふむ、本当の狙いは王様だったんじゃないかな。
もっとジワジワと不調を長引かせる感じの呪いで、最高権力者を弱らせて大国の動きを鈍らせる。その間に侵略区域を広げる……みたいな作戦があって、それをライ君が阻止した流れでその呪いを受けた――とか、そういう流れだったら納得できる感じ。
あとで記録を遡ってみるか。
とにかくライ君は一命を取り留めはしてるけれど、酷い状態になっている。それが現状だ。
しかしライ君用に調整された呪いではなくて、しかも本来とは少し違った症状になっているとなれば、つけ込める隙がありそうだ。
まずは一つずつプロテクトがどういうものか調べてその脆弱性を突き止め、解除方法を特定しそれに必要なものを探す。地道な作業だが、ファルムのデータもあるしそうそう時間は……。
「やっほーゲイン! アインスとベルディラットの殺し合いが始まりそうだから観戦にきなよ!」
酒樽を担いだ褐色女性が乱入してきて、僕は頭を抱える。




