スタンスの違い
僕はみんなに仲良くやってもらいたい。それが願いだ。
だからファルムには、できれば中央の間での会議に参加して全面的に協力してもらいたかった。だがそこまでは上手くいかないな。彼女は僕には一目置いてくれているようだから、上手く説得できれば良かったんだが。
けどまあ、全面的ではなくても協力は得られた。多少の進展はあったとしておこう。この調子で少しずつでも和解してくれればいい。……どうせ、時間はあるんだ。いくらでも。
だから問題は……。
「……干渉、しづらくなっちゃったなー」
ファルムの居住区から出て自分の居住区に戻り、僕はオフィスチェアに座った。同じ革張りだけどファルムのよりは小さくて、その代わりクルクル回るやつだ。それの背もたれに、体重を預ける。
基板世界というコンセプトの宇宙。僕もこのコンセプトを崩す気はない。軽々しく干渉するつもりはない。
けれど……ベルディラットがアインスの宇宙に送り込んだあの巨大怪獣みたいなのを作るの、ちょっとどころじゃなく面白そうだったんだよな。
実はああいうのを作ってみたくて、実はいろいろ考えてみてた。
どうせ転移させるのなら世界情勢への影響も少ないだろうし、僕の宇宙は他と違って歪みは確認されていないから余裕はある。やる機会があったらやってみたかった、というのが本音だ。
ただファルムは僕の宇宙を評価してくれていた。干渉しない覚悟は敬意に値する、みたいなことまで言ってくれていた。それなのに僕が面白半分でああいうの作り始めたら……うん、もう今日みたいに会ってもらえなくなっちゃうかもしれない。せっかく唯一彼女と話せる立場なのに。
「まあいいか。いいアイデアも貰ったし」
唯一ファルムと仲良く話せる僕が彼女に失望されるわけにはいかない。
だが、みんなを嫌ってるファルムだって他の宇宙の人類の滅亡を望んでいるわけではない。僕がみんなの手助けをするのは賛成してくれる。
そして、そのやり方を提案してくれた。
「ゲーイーン! ゲインゲインゲイン! やっと入れた! もー、どこ行ってたのっ?」
ピィピィと小鳥が囃し立てるような高音に眉をしかめる。ファルムの落ち着いた声の後に聞くと余計うるさいな。
僕は居住区にカギをかけない主義だが、さすがに外出してるときはロックする。エマはなにか用があったのか、もう何度かここに来ようと試して失敗していたらしい。
「いらっしゃいエマ。ちょっとファルムのところに行ってたんだよ。軽く話してた」
「そうなの? ファルム元気だった?」
ファルムは嫌っていても、みんなは彼女を嫌ってないんだよな。
「元気だったよ。まあ相変わらず君らには文句たらたらだったけどな」
「ファルムの愛はストイックだからねー。――特定の個体や集団だけに干渉するのは、干渉されなかった他の全ての者たちに対して不公平になる。干渉は個別ではなく、世界全体へ行うべきだ――だっけ。言ってることは分かるけどさー」
「それを暗記するほど言われたのは、君が注目してる個体に感情移入しすぎるからだろ? それで国を滅ぼしたことだってある」
「あれはだって可哀想じゃない! すっごく酷い目に遭ってさぁ、応援したくなるじゃん!」
エマは気まぐれでいろんな個体を観るのが好きで、ファルムの運営方針は秩序を護る方向だ。あんまり相性はよくない。
以前は一番仲が良かったんだけどな、エマとファルム。世界法則の構築も似てるし。
「そうだ、彼女からいいもの預かってるぞ。ほら」
「なにこれ?」
僕が辞典並に分厚い本を渡してやると、エマが首を傾げる。
「ファルムが集めたデータ、その重要そうなところのまとめだそうだ」
「うわ出たファルムの特殊趣味。こんなの絶対に役に立たないでしょ……ああほらやっぱり! 宇宙線量から気候変動の推移、地殻内部の数値まである。重要なわけないよそんなの!」
「え、そんなデータまであるのか?」
エマが手をかざして、すぐに離す。どうやら試しに適当なページを読み取ったらしく、それがおそらく惑星全体の細かな変化を記した場所だったらしい。マクロだな。
データ収集はファルムの趣味であり功績だ。まとめとは言っていたが、ファルムとしても自慢するチャンスだもんな。あんまり重要でないデータでも入れてしまいたくなるものかもしれない。
「……みんなにはある程度、精査してから渡した方がいいかもな」
ファルムから渡されたデータは分厚い本の見た目をしているけれど、とてもじゃないがこんな紙束に収まる情報量じゃない。一ページずつが大容量の記憶媒体である。
これは……まず僕が読んで、重要そうな項目に目印をつけておいたほうがよさそうだ。このままだと、真面目に目を通すのはアインスくらいだろうし。
「とにかく、だ。ファルムは君やアインスの世界がピンチなのを知っててさ、これが解決のための役に立てるんじゃないかって渡してくれたんだよ。ありがたく受け取っておきな」
あれ? アインスはちゃんと読むだろうしエマにも読ませるなら、精査必要なくない?
「あ、そうだ! それそれ! ピンチの話!」
ピィピィと高音が響く。そういや、なんか話が来たんだったか。
「実は、ライ君が呪いを受けちゃったの!」




