厳格なるファルム
僕が作った宇宙は七つ。一つは自分で管理する用で、他の六つはそれぞれ一つずつ仲間に配る用。あれをやってから、自己崩壊していなくなる仲間はいなくなった。
七人。それが今のところの僕らの総数。
ビッグバンを起こしてから人の文明が発展するまで、この長い時間ずっと、数は変わっていない。
僕らは少数だ。だから、できることならみんなで仲良くやっていきたい。それは僕のささやかな願いだった。
あのアインスの招集を受け、集まったのは五人。
招集した本人である先駆者アインス。白い羽もつエマ。角の生えた茶虎猫ベルディラット。酒好きの褐色女性チャルルン。そして僕、ゲイン。
残りは二人。まあ、一人はいい。どうせただの怠惰だ。面倒くさくて来なかったか、もしくは寝てるだけだろう。だから問題なのはもう一人。
「お邪魔するよ」
ヴン、と出現させた扉を通って、彼女の居住区へと入室する。
広い室内にズラリと本棚が並んだ空間だ。ただし、棚には本ではなくファイルが並んでいる。
……それらすべてが、彼女の宇宙の情報であることを僕は知っていた。
「やあ、創世のゲイン。来てくれて嬉しいよ」
白い少女だった。
長くて白い髪。白い肌。細い肢体に白いワンピースを着ていて、瞳だけが赤い。
革張りの椅子に座った彼女は背もたれに体重を預け、裸足の脚を高く組む。
「久しぶりだな、厳格なるファルム」
「やめてくれないか、ボクはべつに厳格なんかじゃない。他が享楽主義者ばかりだから、相対的に真面目に見えるだけだよ」
ファルムは本当に嫌そうにする。彼女にとってはそうなのだろうし、実際他の管理者たちは、真面目とはいえないのだろう。
「エマの世界は魔法を使用するための新エネルギーを追加したことは、べつにいい。法則は少し違うけれど、ボクの世界にだって同じようなエネルギーはあるからね。ただ人類に過剰に干渉し、いろいろと偏って贔屓しすぎているのが気に入らない」
クルクルと自分の長い髪を手で弄びながら、ファルムはため息を吐く。座っているから分かりにくいが、彼女の輝くような白い髪は膝くらいまであるはず。
「アインスの早送りは彼自身のこらえ性のなさの顕れだ。過程を飛ばして結果を知ろうとする横着で、だから重大な危機を早期発見できず見逃してしまう。まったく、知識欲を優先するあまり管理の責任をないがしろにしているクセに、なんでボクたちのリーダー面してるんだか」
「リーダーとか、そんなつもりはないと思うぞ。単にまとめ役をしたがる奴が他にいないだけだろ」
「なら君がやるべきだと思うけれどね。誰も文句は言わないだろう」
僕の言葉に、細い肩をすくめるファルム。やだよあいつらをまとめる自信なんて無い。
「チャルルンは人類を玩具としか見ていない。娼婦のような大人の姿をとっているが、精神性は虫で遊ぶ子供と大差ない。ベルディラットは責任放棄の論外。知的生物を手放したことで可能性を潰した」
彼女との会話はまず愚痴から始まるのが通例だ。それだけ文句があるのだろう。
「そしてディグディグはなにを考えているのかも分からない」
「まあアイツはな」
怠惰で理解不能。それがアイツだ。正直僕もどうかと思う。
他の奴らもフォローはできない。だいたいその通りだからな。……もっとも、僕はそれを悪いとは思っていない。それでいいと思っている。
「だが、僕はみんなに宇宙の管理を任せたわけじゃない。みんなに楽しんでもらいたくて渡しただけだ」
「所有権の話も、君の望みの話もしていない。ボクたちは宇宙に対し、そしてその宇宙にある惑星の一つに生まれた生命に対し、敬意と責任感を持つべきだ、という話をしている」
つまりは、厳格なるファルムはそういうスタンスだった。
「外見や服装、飲食の好み、居住区のレイアウトやその他諸々。今のボクたちを構成するだいたいのことは管理する宇宙に影響を受けている。そうだね?」
「たしかにな。そのおかげで僕らは存在強度が増したとも思うよ」
「なら、ボクたちは管理者であると同時に、教えて貰っている側であると自覚しなければならない。宇宙があるからこそ、今のボクたちがあるんだ。ならばこそ、宇宙の管理運営は責任感をもって真面目にやるべきだ。おかしなことを言っているか、ボクは?」
敬意と責任。そこが根底にあるファルムのスタンスは、他の誰とも違う。
簡単に言えば、宇宙を自分の好きにしていいものとは考えていないのだ。しっかりと隅々まで見守り、時に宇宙のために奉仕し、時に厳格に管理する。
まるで、良い作品にしようと本気で取り組むように。
「それを言うなら、僕だって真面目じゃないけどな」
「君は別だよ。創世のゲイン。ボクたちに宇宙をくれたのは君だし、そして君の基板世界にボクは敬意を払っている。でなきゃ、君にだけにここのカギを渡すものか」
「敬意て」
僕は笑い飛ばそうとしたけれど、ファルムは不満そうな顔をした。
「敬意だよ。君はなにがあっても手を加えなかった。世界に干渉しなかった。ボクらにそれはできない。しない、ではなくて、できないんだ」
真面目な顔をして、白い少女は僕を見つめる。
「君は人間を信じている。どんなことも彼らは切り抜けられると信じているから、そんなことができるんだ。――ボクには無理だ。だから君の管理方針は、敬意に値するのだよ」




