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映画ならハッピーエンドだったのに。〜少女が砕けた理由を俺はまだ認めない〜  作者: oo78


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第7話・ヒーロー誕生

星が綺麗だった。

雲は少なく、月は明るい。


リアムは、世界を正す為に動き出した。

行き先は、嘘を生産している元凶――()()()()()()()()()()だ。


夜の空気は思ったより冷たく、速度を上げる度に風が肌を刺した。

腕に巻いたプロテクターが軋み、胸のあたりが微かに圧迫されて落ち着かない。


――もっとちゃんとした装備を買うべきだったな。


一瞬、そんな考えがよぎる。





リアムは、とあるバイク専門店を訪れていた。目的は装備の調達だ。

モトクロス用のチェストプロテクターを物色していると、突然、後ろから声をかけられた。


「カッコいいだろ?」


驚いて振り返るリアム。


一瞬、自分を知る人物に見つかってしまったのではないかという、恐怖。

大柄な男は、リアムのそんな心情は知らずに、白い歯を見せたまま商品を薦める。


「コイツは最新モデル、以前より頑丈だぜ? 鏡はあっちだ」


そう言って台座に固定されていた商品を外し、リアムに手渡す。


リアムはそれを、おそるおそる受け取ると、促されるまま鏡の前に進み、プロテクターを胸にあてた。

鏡に映った自分は、どことなく滑稽に見えた。


変装のために短く丸めた頭、目元には不格好なサングラス。どこかの大物YouTuberがかけていそうなサングラスだった。


リアムがプロテクタ―のバックルを留めると、男はストラップを力強く締め上げた。


「どうだ?苦しくないか?そのままライディングの姿勢をとってみろ」


リアムは、言われるままにバイクに跨るように腰を落とす。

すると男は笑顔で続けた。


「いい感じだ。これなら木に突っ込んでも死なないぜ」


そう言いながら、男は胸のシェル部分を軽く「コン、コン」と拳で小突く。

その態度を見てリアムは安堵した。この男は自分の事を知らない。


「他に欲しいものはあるか?」


そう訊く男に、リアムは事前に作っておいたリストを見せた。


頭のヘルメットから足元のブーツ。その全てを、赤を基調としたデザインで統一した。赤はリアムにとってのヒーローを象徴する色でもあった。





予算の都合があったとはいえ、もっといいモノを選んでおけば、ずっと快適だったかもしれない。

流れる景色の中で、そう思い返していると、ハリウッドの街の光が遠くに見え始める。


襲撃場所は既に決めてある。

事前にネットで調べた情報を頭の中で反芻する。


――まずは、あそこだ。


ニューヨークを再現した街並み。

その撮影スタジオでは、夜間の撮影が今まさに行われている最中だった。

アクション映画には欠かせない派手なシーン。現実では不可能なアクションを、特殊なワイヤーを使って撮影していた。


ワイヤーが外され、俳優が立ち上がり、何事もなかったかのように、次の指示が飛ぶ。

それを見て、リア厶はスピードを上げつつ急降下した。


着地と同時に、その衝撃で地面の表層は砕け飛び、近くの人や撮影機材にぶつかり乾いた音を立てた。

どよめきが走る。

何が起きたのか、まるで分からない。そんな様子。


だが、リアムはそれには目もくれずに、近くでメガホンを持っていた男に歩み寄り、一撃を加える。もはや躊躇ためらいはない。

男は膝から崩れ落ち、うずくまる。


リアムはその男を力任せに引き起こし、胸ぐらを掴み、言い放った。


「嘘を作っているのはどこだ!」


痛みに耐え、閉口する男。周囲の人々も同様に沈黙していた。

そんな様子に苛立ったリアムは、さらに続ける。


「こんな嘘をどこで作ってるかと聞いているんだ!」


その意味を理解したのかしていないのか、男は咄嗟に少し離れた建物を指差す。

リアムは男から手を離し、開放された男はそのまま地面に落ちた。

それを見届けるまでもなく、彼は示された方角へ向けて勢いよく飛んだ。


ポストプロダクション棟。通称ポスプロ棟。

昼夜問わず、一本の映画を作るために最新鋭の機材を使って、映像や音に命を吹き込んでいく。

光や音を完全にコントロールすべく、窓は一つも無い。映像制作の要塞だ。


リアムは、ここが嘘の根源だと判断した瞬間、入口に向かうのではなく、宙へと浮いた。

窓一つない壁に向かって、拳に力を込める。


《ドゴォォオン!!》


分厚い壁に大きな穴が空き、粉塵が舞い上がった。

その中に足を踏み入れるリアム。


何基もの巨大な機械が整然と立ち並び、それらが発する熱と、それを冷やす冷房の音がごうと響いている。

サーバールームだ。


「全部壊してやる」


そう呟いて、自身の力を解放するリアム。


巨大なサーバー群は瞬く間に粉々になり、建物中に非常ベルが鳴り響く。

警報を聞いて駆け付けた警備員を蹴散らし、リアムは部屋を後にした。


やがて、『立ち入り禁止』と書かれた部屋の前にたどり着いたリアム。

扉は開いている。


近づき、中を確認すると、そこは映画館のように暗い部屋だった。

窓はなく、照明も消えている。


まるでこの闇の中に何か隠したいものがある――。

そんな風にリアムは感じた。


たくさんのパソコンとモニター。その光だけが部屋を照らしていた。

モニターには、作業途中と思われる編集画面や作りかけの映像がループ再生されている。


リアムは一番近くに居た男に詰め寄り、低い声で質問した。


「ここで何を作っていた?」


問われた男は、震えながら答える。


「こ、ここは、映像編集をする場所だよ。た、たぶん君の目的はここじゃないと思うけど……」


震えながら答える男にリアムは返す。


「いや、ここで間違いない」


男の胸ぐらを掴み、モニターの並んだデスクに向かって投げ飛ばす。


「罪を償え」


男はモニターを壊しながらデスクに転がり、そのまま地面に落ちた。


悲鳴が上がる。

逃げ出す人々を横目に、リアムは部屋にある機械を全て破壊していく。

一つ壊す度に、胸の奥が軽くなる気がした。


――これは正義だ。


部屋中の機械という機械を全て壊したリアムは、言い知れぬ高揚感に満たされていた。


「ねえリアム、次はどうするの?」


どこからか少女の声が聞こえた。


「次は、編集スタジオの集まる地区さ。あそこを叩く」


そう呟き、伝統的な映画スタジオの襲撃を終えたリアムは、その場を後にした。





ハリウッドは赤く燃えていた。


リアムは、壊して回ったいくつものスタジオを眼下にして、達成感を感じていた。


ビルが燃え、黒煙が立ち昇り、その煙が喉を刺激し、目が痛む。

上昇気流と共に上がってきた熱が暑い。

リアムはヘルメットを脱ぎ捨てた。


もう顔を隠す必要はない。そう思った。

火照った顔に、夜風がやけに気持ち良かった。


鳴り響くサイレンの音。大勢の人の声。

怒号や悲鳴や嗚咽、様々な声が遠くで聞こえた。


しかし、今のリアムにとって、それらは心地いい音だった。

嘘を作っていた奴らが報いを受けている。

そんな風にリアムは感じていた。


身にまとったスーツは所々赤く染まり、それがもとの色と同化していっそう紅く、輝いて見える。


舞い上がった火の粉がそこに触れ、そして消えた。


――これでいい。


「これが本当の正義。世界は正しくなるのよ」


少女の声が背後から聞こえる。


「あなたには特別な力がある。世界を正せる力が」


リアムは振り返ることなく、その声に答えた。


「そう。本当の正義は、これからだ……」


その言葉は、燃え盛る赤い夜空に溶けていった。


次で最後です。

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