エピローグ・新世界より
「監督」
若い男が小走りに走りながら、声を上げる。
「今のシーン、もう少し派手にやってみたらどうでしょうか。もっとこう、ギリギリで生還した感じを出したくて。俺、多少の無茶でもいけますよ!」
監督は振り返りながら返す。
「例えばどんな感じだ?」
「えっと、例えば……ここ。爆発の炎の中から間一髪、なんとか生還する…みたいな、ギリギリなイメージはどうでしょう?」
若い男は台本をめくりながら監督に提案する。
振り返った監督は、片手をひらひらと左右に振った。
「ダメダメ、そんなの。今のルールじゃ審査すら通らないよ」
「……そうですか」
肩を落とし踵を返す若い男に、共演者である壮年の俳優が声をかける。
「お前さぁ、今の時代、そんなの無理だって分からないの?」
「え?」
きょとんとした顔をする若い男。
それを見た壮年の男は、呆れながら答えた。
「マジかよ。あのなぁ、今は嘘の物理現象を実写作品で表現したらダメなんだよ」
二人は休憩用の椅子に座り、話を続ける。
「――物理フィクション禁止法。ホントに知らないの?」
「名前だけは……。すいません、勉強不足で」
申し訳なさそうに答える若い男。続けて、抱いた疑問を口にする。
「でも、なんでまた、そんな変な法律できたんでしょう」
口に運んだコーヒーカップをテーブルに戻し、壮年の男は答えた。
「昔、俺がガキの頃、フィクションを本気にした奴が事件起こしたんだよ。『嘘を流すな』ってな。それで、実際に大勢死んだ。」
「うわー、居るんですね。そういう人」
若い男は呆れた様子で、嘲笑した。
それを受けて、壮年の男は苦笑しながら言う。
「笑いごとじゃないっつーの。実際、今の映画はそのルールのせいで自由度が低くて面白みがない。知ってるか? いまじゃ新作よりもクラシックのほうが人気なんだぞ?」
壮年の男は、虚しそうな、昔を懐かしむような、そんな瞳をしていた。
「でも、先輩が子供の頃なら、もうずいぶん前ですよね?」
こくり、と壮年の男は頷き、こう続けた。
「しかし、一度決まったものは、そう簡単に無くなりはしないからな。今のほうが良いって言う連中も多い」
そう言いつつ、男は少し離れた場所で、機材のチェックをしている女性を顎で示した。
もしかしたら、彼女も「今の方がいい」と思っている一人なのだろうか。
そう思いながら、若い男は感じた事をそのまま口にした。
「窮屈な時代ですね」
「慣れるしかないさ…」
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最初は、内から生まれた小さな「揺らぎ」だったのかもしれない。
しかし、やがてそれは大きな力の奔流となり、暴走をはじめた。
世界は、制御不能の力を鎮める為か肯定する為か……どちらにせよ、自らを縛り付ける道を選んだ。
それは、誰にとっても、あまりにも自然な判断だった。
それが正しかったのかは、もはや知る術はない。
–fin–
ザ・エンドってね。
全てのエピソードを読了した方、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。




