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同居人の女の子達は肉食乙女  作者: トン之助
第二章 関係構築編

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物理な少女のお願い

「あの先輩、ちょっと実家まで付き合って下さい」

「おわ、どうした葉月」


 文化祭までもうすぐといった時に、廊下ですれ違った葉月が突撃してきた。正確には体当たり。


「その、空手の演舞が上手くいかなくて……だから実家で稽古をつけてもらおうと」


 上目遣いで見つめる瞳はうるうるとしている。アホ毛がしなっとしている事から相当落ち込んでいる。


「俺が行って邪魔じゃないか?」

「いえ、寧ろ先輩がいてくれないと困ります!」


 その力強い返事を普段から出せればいいのだが。


「わかった、ちょっと待ってろ。あと15分ぐらいしたら連絡するから」

「はい! 教室にいますね」

「あいよ」


 現在俺はクラスの出し物と地域の出し物の両方を担っているのだが、周りが優秀過ぎるので書類整理や広告宣伝しかやる事がなく、皆には悪いが暇なのだ。


 そんな訳で生徒会室に行き、さつきに事情を説明すると快く送り出してくれた。


「葉月もメンタル的に不安なんだろう、支えてこい翔馬」

「さつきがまともな事言ってる」

「私もたまにはまともな事を言うぞ?」


 へいへいと返事をしながら、自分の教室へ向かうと吸血鬼ソフィアちゃんの登場。お化け屋敷で使う衣装のチェックと内装を手伝っている。


「ソフィ」

「あっ、ショーマどうしたの? もう仕事終わり?」


「あぁ。終わりというか、これから葉月の実家に行くことになった」

「葉月の?」


 カクカクシカジカ。


「空手の演舞の稽古、おもしろそうね!」

「ソフィも来るか?」


 いつもなら喜んで飛びついてくるのに今日は少し考えると。


「いや、ワタシはいいや。クラスを手伝った後に睦希と帰るわ」


 男にはわからない女の感かもしれない。だからこそ、そこには触れずに手を振る。


「わかった。睦希によろしくな! もしかしたら晩御飯は葉月家で食べるかもしれない」

「そうなるでしょうね、皆には言っておくわ」


「頼もしいな」

「正妻ですから!」


 ソフィアさんもすっかり元気になって良かったよ。俺はそのまま鞄を持ち葉月のクラスを訪れる。


「葉月、お待たせ」

「先輩、もういいんですか?」


「おう、皆すんなり帰してくれたぞ?」

「なんか不気味ですね」

「俺もそう思うがあえて考えないようにした」

「ふふっ」


「じゃあ行くか」

「はい!」


 2人で校門へ向かう頃には、より一層学園全体が賑わいを見せている。この時ばかりはみんな祭り気分なんだろう。


「少し腹ごしらえして行くか」

「え、でも」


 遠慮気味に俺の裾を持っていた葉月が見つめてくる。アホ毛がみょんみょんしているから実際には食べたいのだろう。


「髪の毛は正直だな。何がいい?」

「うぅ……先輩は意地悪ですぅ」


 はっはっはと笑いながら商店街を練り歩く。普通にしてたら気弱そうな女の子なんだが、現実は甘くない。たぶんあのメンバーの中で1番過激かもしれない……物理的に。


「じゃあ、クレープで」

「あいよ」


 葉月のお眼鏡に叶う品はクレープ。


「すいません、クレープ下さい」

「はいよ〜、何にします?」


 チラリと葉月を見ると、宇治抹茶クレープの所に視線が集中している。

 物理少女の新たな一面を知れた。


「宇治抹茶でいいか?」

「はい、食べたことないので気になります!」


 目を輝かせながらアホ毛が踊る。

 訂正……物理少女は探究心が強い模様。


「それじゃあ、宇治抹茶クレープと……オススメください」

「はいよ! 宇治抹茶とオススメね……ちなみにオススメは全部のせだけどいい?」


 ニヤリと笑うカッコイイお兄さんは商売上手だ。言った手前訂正する事はせず、コクリと頷く。


「ありがとうございました!」


「先輩……胃もたれしそうですね、それ」

「ヤバい、見栄を張りすぎた」


 全部のせはもはやクレープではなくひとつのドームみたいになっていた。なので、隣接されたテーブル席に座り仲良く食べ始める。




「んぐっ……宇治抹茶、思ってたよりも苦くなくて美味しいですッ!」

「そりゃ良かったよ。ってか葉月はチャレンジャーだな」

「ふぁい?」


 口にスプーンを入れたまま聞き返すので、そのまま続ける。


「食べた事無いものを注文してたからな。俺はどちらかというと同じものをリピートしてしまう」


 気に入った物をいつまでも食べていたのがいままでの俺の食生活。しかし、皆が住み始めてからの食生活は新しい物だらけなので、それもまた楽しい。


「先輩のおかげですよ?」

「ん、俺の?」

「はい」


 クレープを食べる手を止めて葉月は改めて俺を見る。


「先輩が前に進む勇気をくれたから、私は色んな事に挑戦しようと思えたんです」


 思い出すのは、あの日の公園。


「そういう事か」

「はい、だから……」


 彼女は自分のクレープをスプーンですくい俺の口元まで運ぶ。


「責任……とってくださいね?」


 気弱そうな彼女は今はいない。


 汗で湿った黒髪があどけない顔に張り付く。蒸気した唇には甘いクリームが一欠片。潤んだ瞳と言葉に俺は口を開ける事しか出来なかった。

 俺の唇に触れた柔らかな感触……ほのかに苦く、クリームの甘い味がした。



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