プレゼントとドラキュラ
「んぐっ! 今日のカレー美味しい〜」
「あらあら、これは牛すじかしら?」
カラオケで歌い疲れた睦希と弥生さんは口いっぱいにカレーを頬張ると満面の笑みを見せる。
俺達3人は無言で頷きハイタッチをして悦びを分かち合う。さつきに至っては既にモグモグとお替りを食べている。よっぽどお腹が減ってたんだな。
「久しぶりに作ったが、喜んでもらえてよかったぜ」
「ですっ!」
「カレーならワタシも失敗しないし、いいかなって」
ソフィアも料理スキルをどんどんあげている、本人はまだ少し自信がないと言っていたがいずれ俺も抜かれるだろうな。
「うむ、美味いぞ3人とも! お替りを所望する」
「いい食べっぷりだなさつき」
「生徒会で疲れてるもんね」
「お疲れ様ですッ」
よく食べる女の子は素敵だ。同居人の女性陣はいい意味で遠慮しないのでありがたい。
葉月はさつきのお皿を受け取るとキッチンにテクテクと歩き出す。その際に、しらたまとぜんざいの水皿も手に抱え水を入れてあげる。
「ところで弥生さん、文化祭でなに作るんですか?」
俺は時子さんに聞いていた創作料理の話をふる。
「ん〜……和菓子を使って色々作ってみようと思ってるの。バイト先で色んな料理を作ってたからそれを和菓子で応用しようかなって」
弥生さんは人差し指を口元にあてながら可愛らしくウインクする。
「私はしょうくんとそんなに年変わらないけどね」
「うっ」
どうやら心を読まれたみたい。そんな俺をソフィアはジト目で見つめる。
「鼻の下伸びてたわよショーマ」
「気のせいだ」
「わかりやすかったです!」
葉月さんも同意見らしい。
「む、睦希はどんな感じだ?」
あからさまな話題転換だったが、当の本人はケロッとしたように親指をグッと突き立てる。
「今までで最高の仕上がりよ!」
「お、おぅ。それは良かったよ」
メンタルが不安定だと思っていたがその心配は必要なさそうだ。昨日実家に行った時に励ましてもらったのかもしれない。あと弥生さんにも。
「んん〜満足〜」
「お腹がポンポコです〜」
「た、食べすぎた……」
「もう1杯〜」
「弥生さん、すご……」
弥生さんはカレーが大好物っと……メモメモ。
「んじゃ、俺が洗い物しとくから久しぶりに皆で風呂入ったらどうだ?」
俺の提案に最初はブーブー言っていたが、5人で久しぶりに入りたい欲が勝ったよう。半ば女子会みたいな勢いで5人はリビングを後にする。
キャッキャウフフと風呂から聞こえる声に耳を傾けながら洗い物を済ませてしらたまと戯たわむれる。
「ショーマ! あがったわよ〜」
「次ぎどうぞです〜」
お風呂場から女子達のキャッキャとした声が響いている。
「あいよ〜」
俺はしらたまと遊んびながら返事を返す。
「しらたまも一緒に入るか?」
「にゃー」
可愛らしく俺の膝に飛び乗って来るしらたまちゃん。今日はしらたまと混浴だ! ちなみにぜんざいは風呂嫌い。
コンコンッ
「はーい、あいてるわよ」
俺は風呂からあがるとソフィアの部屋を訪ねていた。
「邪魔するぞ」
「ショーマ」
部屋を開けるといきなりソフィアが抱きついてきた。
「おわわ、どうした?」
「えっへへ〜、ショーマ成分補給中〜」
なんだよ俺の成分って。それより、俺の胸部にほよよんとした弾力が押し当てられる。
改めてソフィアを見ると、上下セットのピンクの部屋着を身にまとっている。そして艶かしい足を惜しげも無く出して誘惑してくる。
「ふふ〜ん、弾力なら誰にも負けないわ」
むにゅっと音が出そうな程、ソフィアは胸を押し付けてくる。その誘惑になんとか耐えつつ俺は言葉を口にする。
「なんかこうしてると、教室で告白された時を思い出すな」
「ふふ、そうね。もしかして緊張した?」
「緊張どころの騒ぎじゃねぇよ、怖かったっつの」
「あははっ……ねぇショーマ、ワタシはもう後悔してないわ!」
真正面から見つめる瞳は真っ直ぐに俺の目を捉えていた。
「ワタシ決心したから……誰が相手でもショーマの正妻の座を射止めてみせる」
その真っ直ぐな言葉に自然と俺の心も開く。
「俺も……」
「うん?」
「俺も今のままじゃいけないって思うよ」
真剣に応えてくれる彼女に、俺の思いも少し話す。
「一緒にいられる間は、この関係もいいのかもしれない」
「うん」
「ただ、将来誰かと結婚する事になると話は変わるかもしれない」
「だから……答えが出るその日まで俺も足掻き続ける」
「ショーマ」
彼女は目を少し潤ませている。しかし、その瞳に孕んだ心の内を俺は知る術がない。
「ソフィ……こんな優柔不断な男だけど。よろしく頼む」
スッ
「えっ、コレは?」
俺は1つの箱をソフィアに手渡す。
「開けてみてくれ」
「う、うん」
ガサゴソと包装を剥がし、正方形の箱を開ける彼女。
「ソフィに似合うと思って」
「とてもキレイ」
俺が彼女に贈ったのは。銀色の十字架が輝くチョーカー。
「この前、さつきにネックレスをプレゼントした時から考えてたんだ」
ソフィアの様子がおかしくなるきっかけの出来事。
「もしかして、ワタシが深夜見た弥生さんとのアレは」
「うん……弥生さんの首を借りてサイズを測ってた。ソフィと同じくらいだからちょうどよくて。それに相談もしてたし」
「そ、そうだったのね……」
「勘違いさせて、心配かけてごめんなさい。ソフィの誕生日にはもっといいモノをプレゼントしたい」
今の俺はこれで精一杯だ。一人一人にしっかりと向き合い、ゆっくりと答えを出していこう。
「しょ、しょ〜ま〜」
目から溢れた雫を俺の胸元で拭うソフィア。彼女が泣き止むまで俺はその場に居続けた。
「ぐす……うぅ」
「落ち着いたか?」
「うん」
目元を赤くしながらもなんとか喋れるまでになった彼女に問いかける。
「付けてみてくれないか?」
「うん、でも……」
「ん?」
「ショーマに付けてほしい」
「はいよ、お姫様」
彼女の後ろに周り、そのサラサラな銀髪をかきあげながら俺はチョーカーを彼女の細い首に這わせる。
「んぁ……」
「わざとだろ?」
「く、首は弱いの……」
ほう、いい情報を聞いた。
いつもからかわれているついでに、ソフィアの首を俺の元に戻った手で蹂躙してやろう。
「ショーマ……くすぐったい」
「ほれほれほれ、どうだ? ここか〜」
「いや、あは……ダ、ダメ〜」
ふにゃりと前に倒れるソフィア。
「勝ったようだな!」
首を蹂躙しつつしっかりとチョーカーを付けた俺の手さばきは見事の一言。
「ふぅ……ふぅ」
鼻息を荒くしたソフィアが俺の腕を掴み押し倒す。
「待った、すまん! やりすぎた」
キラリと光るソフィアの目は獲物を狙うハンターの目。
「あっ」
十字架でも倒せない銀髪の乙女は天然のドラキュラだった。




