第十三回 終わらない物語
「物語ってやつは、基本的に終わらないものなんだ。ってのが、カフカが言いたかったことかもしれないね。輪廻転生とかね。終わらないでしょ」
「ああ。仏教のやつね」
町中を歩きながら、会話のノリが変になってきた。特に、カフカについて語っても盛り上がりそうはない。男女の会話としては不向きである。だって、尻切れトンボと言ってしまえばそれで終わってしまう。カフカは、男女の会話で盛り上がらないように作ったのだろう。彼はそういう禁欲的な人間みたいである。実際の生活はわからないが、少なくとも小説では厳粛な感じがする。それも、私の錯覚かもしれないが、どうも掟に拘りすぎだ。
「カフカの小説のとても大きな要素に掟ってのがあるでしょ」
「ま、そうだね。ある意味、どの小説も、掟をめぐる物語と言えなくもない」
「うん。掟という存在を出しておいて、それに対して、リゾームという地下茎を張り巡らす対立構造があるって、ドゥルーズという人が説いているけど」
「物語ってのは、終わらないと同時に、対立軸を明確にしてくるからね。私の物語も終わらないんだけどね」
「ふへ?そういえば、何か話してくれるようなことを言っていたね。カフカの話に夢中になって、忘れるところだった」
「いや。それは喫茶店についてから話しましょう」
「ああ。そうだった。ところで、ドゥルーズって人もこれはカフカ以上に謎の人なんだよね。たとえば、人間の記憶は内部ではなくて、外部にある。と言ったりしている」
「モノの裏側にこびりついているのかね」
「えっ?読んだことあるの」
「いや。何となくね。ほら、サイコメトリーって、漫画か何かがあったでしょ。再放送で見たんだけど」
「それが、そんな話なの」
「モノを掴んだら、その記憶がわかっちゃう人の話」
「カフカにそんな話はあったかなあ。なかったか」
「うん。でも、確かに、あの人の小説は、場所に宿った思念を語っているような気はしなくもないけど」
「それを突き詰めると、地下茎ってイメージになるんでしょ」
「地下茎って、まるで、地下アイドルみたい」
「いや。別にそんなに間違っていないと思う。地下アイドルは、地下茎の仲間だよね」
「じゃあ。カフカは地下アイドルの話も書けるわけ?」
「うん。書けると思うよ。ある日、目が覚めたら、地下アイドルだった。と。で、熱狂的なファンに囲まれて、無許可の地下コンサートを開いたら、突入してきた警察に捕まって取り調べを受けると」
「やだな、そんな小説。あっ、あそこね。お店」




