第十二回 門
沙耶香は私の腕にまとわりついている。それこそがデートする相手なのだ。私は心臓がドキドキしたがそういうのは隠さないといけない。平然を装ってちゃんとした会話をしないといけない。
「ところで、霧谷君は、最近、何読んでいるの。読書家だったよね」
「うん。ええっと、これかな」
と出したのは、カフカの「アメリカ」であった。これは途方もない小説である。ずっと旅が続いてゆくのだ。
「これはまた。難しそうな。あっ、ペヤング先生が、オススメしていた本か」
「うん。俺、あの先生大好きなんだよ。言っていることが、面白くて」
「ぶっ飛んでいる先生だからね。これは、俺だけの説だけど。が異様に多いんだよね。国語なのに。特にカフカの時は熱かったなあ。規格外と見せかけて王道を行っている人なんだ。これは、確かにすごい」
「そのアフリカって何が何がすごいの」
「アメリカ。作者が終わらせようとしないところかな。普通は終わらせようとするんだけど、どんどん新しい事態になってゆく」
「ま、現実なんて終わらないものね」
「そうなんだよ。その現実感が読んでて伝わってくるんだよね。人生はまさに旅の如し」
「でも、まるで、生成AIで作られたような感じではあるね」
「その圧倒的な実態感のなさも面白いんだよね。現実感はあるのに、実態がないんだよね」
「そうそう。まるで、生きる屍のような」
「そうなんだよ。この世界どうなってんじゃって話ではあるんだけどさ」
「どうにもなってないんだけどね」
「うん。そ、そういえば、サイモン&ガーファンクルという、昔のフォークの歌手がいたんだけど、あれも、「アメリカ」という歌を歌っている」
「へえ」
「なんとなく、YouTubeで、見つけたんだけど、お上りさんの男女の歌なんだよね」
「ふうん。あっ、そこの門を真っ直ぐだから」
町中に急に門が現れる。ここは、昔、武家屋敷だったところで、江戸時代の門がそのまま残されているのであった。それから、少し林の地帯が続いて、また、町に出ることになっている。薄暗い中、狛犬が四頭並んでいる。
「アメリカに来たんだよ。って話ではあるんだけど、あれはカフカの小説と関係しているのかな」
「最近の彼のその小説は別の名前だよね」
「そう。失踪者かな。アメリカってタイトルは古い版なんだ」
「謎多き作家ね。そういうの好き」
「でも、俺は小説はあんまり好きじゃないんだけど、カフカは大好きだな。小説否定の小説だからだろうか」
「うーん」
彼女はしばらく考え込んだ。




