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ヴァルハイト侯爵家の恋模様  作者: AI咲紗


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4/19

次女 ヴィオラ

毎日19時投稿予定

ヴァルハイト侯爵家の次女・ヴィオラは、家族の中で「最も冷静な参謀」として知れていた。


父親譲りの冴え渡る頭脳を持ち、実家の事業や領地経営を裏で支えることに情熱を注ぐしっかり者だ。


家族全員が美男美女のヴァルハイト家において、飛び抜けた絶世の美貌を持つ三女シルヴィアの存在感は圧倒的だった。


派手な舞踏会や夜会は三女に任せ、ヴィオラは実質的な情報交換が行われる少人数のサロンや実務派が集まるお茶会をメイン主戦場としていた。


そのため、「妹のあの神々しい華やかさに比べたら、私の顔なんて地味で目立ちませんから」と本気で思い込み、己の端正で知的な美しさを無自覚に放置していたのだ。


彼女は自分の立ち位置を「裏方」と割り切り、サロンで得た噂話や人脈をフル活用して長男・次男・長女の甘く重い恋愛模様を陰でサポートし、妹シルヴィアが社交界で嫌な目に遭わないよう裏で根回しすることに生き甲斐を感じていた。


しかし、そんな知性派の彼女には大きな誤算があった。


幼馴染であり、外交交渉でヴァルハイト家を頻繁に訪れる隣国の実力派伯爵・ジュリアンである。


——二人の始まりは、十二歳の頃に遡る。


当時のヴァルハイト邸は、幼い三女シルヴィアの眩いばかりの愛らしさを称える社交界の大人たちで溢れかえっていた。


両親は兄弟を皆分け隔てなく愛してくれたが、どこへ行っても三女ばかりが持ち上げられる熱狂の喧騒から離れた静かなサロンの片隅で、ジュリアンは一人の少女の姿を目に留めた。


同じく十二歳にして、一切の無駄がない凛とした佇まいを見せる次女ヴィオラ。


彼女は妹に集まる賞賛の嵐を羨む様子もなく、大人たちの下心やサロンでの裏計算をすべて見抜いているかのような、冷徹で知的な瞳で周囲を観察していたのだ。


『……ふん。くだらない大人たち』


小さく呟かれたその声を聞いた瞬間、ジュリアンの胸の奥で静かで激しい火花が散った。


同世代の令嬢たちがドレスや他人の美貌に羨望と嫉妬を募らせる中で、彼女だけが全く別の高みから冷静に盤面を見下ろしていた。


自分の容姿や立ち位置など気にも留めず、サロンという情報収集の場でひたすらに「家族の参謀」として思考を巡らせる姿。

その揺るぎない知性と、氷のように研ぎ澄まされた佇まいに、ジュリアンは一瞬で心を奪われたのだ。


(誰もこの気高い百合の花には気づいていない。結構なことだ——俺だけのものにするには、好都合すぎるが隣国となると距離があり不安だ。とりあえず僕の花のの周りを飛ぶ虫は全て排除だな)


あの日から時が流れても、ジュリアンの情熱は冷めるどころか執着へと変わっていった。


ヴィオラが「私なんて三女の陰に隠れた地味な裏方ですから」とサロンでお茶を濁しながら己の魅力を放置すればするほど、彼女の知性を借りるフリをして近づき、外堀を埋め続けていたのである。


そして現在。


「ヴィオラ、また一人で膨大な領地計算と格闘しているのか? たまには自分の将来のことも考えたらどうだ」


執務室のドアを軽やかに叩いて現れたジュリアンに、ヴィオラは書類から目を離さずに淡々と答える。


「ジュリアン様。私は家族がそれぞれ幸せになってくれれば、それで十分ですの。シルヴィアのような華やかな美貌もない私が、表舞台に出る必要はありませんわ兄2人と姉が無事結婚したので跡取りの心配もありません。私1人独身で領地に引きこもっても家には損害なく大丈夫でしょう。」


だが、その言葉を聞いた瞬間、ジュリアンの瞳に密やかな暗火が灯った。


領地に1人引き篭もるなんて許さない。絶対に許さない。


既に12歳の時から侯爵にはヴィオラをと願い出て娘が望むなら婚約も結婚も構わないと了承を得ている。ただ僕を見てほしいからと家からの申し出はしていないだけだった。


ヴィオラを僕の側に。侯爵にはその対価なら何でも支払うし努力もすると誓って今まで通いに通っていた。


彼女を通わせるなんてことは絶対にしない。


万が一のことがあるかもしれないことなんて絶対させない。


大切に大切に温室で育てているかのように見守って必要ならば手を貸してきた。


なのにそなんなに僕のことを男として見てなかったのかと何とも言えない気持ちがジュリアンの中に広がっていく。


ジュリアンはゆっくりとデスクへ近づくと、ヴィオラが握っていたペンを優しく奪い取り、そのまま彼女の手首を掴んでデスクの上に押し留めた。


「っ……!? ジュリアン様、なんのご冗談ですか」


「本当に君は、妹君と比べて自分を地味だと思っているのか……? 君がサロンやお茶会で家族のために張り巡らせてきた見事な根回し。……それ、全部誰が影で手伝ってやったと思っている?」


真っ直ぐに見つめる瞳にはもう何年も灯し続けてきた炎が熱を持ち続けていた。


「え……?」


まさかの視線に思わず吸い込まれるかのように引き寄せされる


「俺がなぜ、ヴァルハイト家の揉め事にまで手を出していたと思う? 君を助け、君の信用を得て、俺から逃げられないように外堀を埋めるためだ」


耳元で囁かれた低く甘い声に、いつも冷静なヴィオラの顔が途端に真っ赤に染まる。


「ま、待ってください……! 貴方は私の事務能力を買って、仕事として……」


自分には仕事を裁く能力しかないと思ってきた。


ジュリアンがよく顔を出してくれるのも自分に興味があるからではなく取引に用があるのだからと自分にも言い聞かせてきた。


この気持ちに気づいたらもう引き返せない。


だから兎に角正確に冷静に的確に。


女のヒステリーはと言われないよう充分過ぎるほど気をつけて接してきた。


それなのにもうこの気持ちに蓋をしなくていいの?


私はジュリアン様と一緒に歩く人生を選べるの?なんとも言えない喜びが溢れ出す。


彼と一緒はになれないから1人で生きていこうと女1人でも生きていけるよう必死に努力してきた。


彼を祝福出来るよう気持ちに蓋をして何でもないように振る舞ってきた。


それをもうしなくて良いと言われてる。


「仕事でここまで一人の女に尽くす男がどこにいる? 俺が喉から手が出るほど欲しいのは、ヴァルハイト家の財産でも君の能力でもない。——君という直向きで、凛とした、最高に愛おしい女だけだ」


絶対に逃してなどやるものかと必死な熱を帯びた視線と喜びに打ちひしがれている視線が絡み合った


——と、その時だった。


「まったく……! お姉様は本当に、自分のことになると恐ろしく鈍いんだから!」


執務室の扉が勢いよく開かれ、風のように三女シルヴィアが踏み込んできた。


「し、シルヴィア……!?」


動揺するヴィオラを余所に、シルヴィアは大股で近寄ると、胸を張って満足そうに頷いた。


「ジュリアン様! 外堀を埋めるのに何年かけているのよって呆れていたけれど……グッジョブですわ! この『家族のこととなると天才的なのに自分の恋愛にはポンコツな参謀』を、逃がさず完全に捕獲してくださいな!」


「シルヴィア、何を言って……!」


「ヴィオラお姉様。貴女のその凛とした知的な美しさと格好よさを、私がどれだけ誇りに思っているか分かっているの? 舞踏会で困らない様に私を、サロンや茶会の裏からいつも守ってくれていたのはお姉様でしょう? 自分の価値も放置して私たちのために奔走するお姉様を、ジュリアン様がどれだけ狂おしい眼差しで見つめていたか……私、ずーっと気づいていたんですからね!」


妹からの愛おしそうな絶賛と暴露に、ヴィオラは呆然と瞳を揺らす。


「お兄様たちもお姉様も、全員そろって自分の価値に疎くて本当に手がかかるんだから! ……お姉様、本当におめでとう。大好きな家族を支えてくれた貴女が、誰よりも幸せにならなきゃ絶対に許さないんだからね!」


とびきりの笑顔で祝福を贈る。


ジュリアンは愛おしそうにヴィオラの涙を指先で拭うと、逃げ場をなくすように深く抱き寄せ、耳元で甘く囁いた。


「——さあ、参謀殿。妹君からの許可も出たことだ。俺の重すぎる愛を、覚悟して受け取ってもらおうか」


自分は三女の陰に隠れた裏方だと思い込んでいた参謀次女。


妹の心からの祝福と、一枚上手の男が数年越しに仕掛けた甘い執着に包まれながら、ヴィオラは照れ惑いながらも幸せそうに彼の胸の中に身を委ねるのだった。


ジュリアンは永らく思っていた想いを通わせた瞬間に入ってきたシルヴィアを、ヴィオラから見えない位置から邪魔者めと睨みつけた。


ただ彼女が自分の恩人であることも同時に思い起こす。

自分が隣国からタイミングよくいつも現れたのはシルヴィアがヴィオラお姉様が…と便りをくれていたから。


誰よりもヴィオラを想っているなら必ず姉を守ってくださいまし。隣国にいるからなんて言い訳は聞きませんわよ。と常に動向を知らせてくれていたから。


これからも必ず守り抜くという気持ちを視線に込めてシルヴィアを見ると当たり前でしてよと視線で返された。


そんな2人を見るようなんてなくヴィオラは、いつからシルヴィアに気持ちを知られていたのかしら。


参謀などと思い上がっていたけれど皆に今まで気取られていたのではないかしら…などと思いを巡らせつつそんな筈はないわ。


シルヴィアはいつも鋭いからだわなどと自分に言い聞かせるのに必死でしたもの冷静さは形を顰めている。


そんな姉を見てやっと姉様が幸せになれると確信してシルヴィアは屋敷をあとにしたのであった。

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