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行き倒れていた美青年を助けたら、記憶喪失の王子様でした。……いや、顔が良すぎて生活に支障が出るんですけど!  作者: マサッチ


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3/6

第3章:私が働いている間に、記憶喪失の男が下町のカリスマになっていた件

前回までのあらすじ:


 泥を落としたハルの姿は、まさに「顔面国宝級」。


下町の治安を揺るがすと確信したリナは、

必死に彼の外出を禁じ、シーツを被せて隠蔽工作を図る。


しかし、美青年の噂は一瞬で広まり、

リナの家には女性たちが押し寄せる「聖地巡礼」状態に!


さらには近所の住民に彼氏と勘違いされて揶揄われ、

リナに惚れている幼馴染のカズトまでが嫉妬に燃えて、

薪割り勝負を挑んでくる始末。


本人の無自覚な魅力によって、

リナの平穏な日常は音を立てて崩れていく――。


1.留守番のはずの王子様(仮)が、勝手に下町の視察に出かけていた件


 「いい、ハル。私は今から洗濯の仕事に行ってくるから。

 絶対に、絶対に外に出ちゃダメよ。分かった?」

 

私は朝一番で、ハルに念を押し、共同洗衣場へと向かった。


……しかし、ハルは正直すぎた。


「分かった」とは言ったものの、

彼は「リナが困るから顔を見せてはいけない」とは理解したが、

「家から一歩も出てはいけない」という言葉の裏にある危険までは

理解していなかったのだ。


 リナが出かけて数時間。

ハルは言われた通り、深めのフードを被り、顔を隠して外へと踏み出した。


初めて見る、下町の光景。(……ここは、こんなにも……)


ハルの目に映ったのは、剥げかかった壁、穴の空いた屋根、

そして泥遊びをする痩せた子供たちの姿。


彼の失われた記憶のどこかにある「整った風景」とはあまりに違う、

質素でみすぼらしい街の様子に、ハルは胸の奥が痛むのを感じていた。





2.役人の横暴を止めようとしたら、羽交い締めにされた件


 市場の隅で、怒号が響いた。


「おい! 今月分の場所代が足りねえぞ!

 払えないなら、その荷台ごと没収だ!」


 横柄な役人が、老婆の露店を蹴りつけていた。

ハルの体は、考えるよりも先に動いた。


「待て。彼女は十分に払っているはずだ。その徴収は不当ではないか?」


 凛とした、威圧感のある声。


役人が振り返り、剣の柄に手をかけたその瞬間――。


「バカ、やめろ! 死にてえのか!」


横から飛び出してきたパン屋の息子のテオと、肉屋のヨハンさんが、

ハルの左右から飛びついて羽交い締めにし、路地裏へ引きずり込んだ。


「ハル! お前、リナに言われてねえのか!

 役人に楯突くのは自殺行為だぞ!」


「だが、テオ。あの女性は困っていた」


「……っ、そりゃそうだが、俺たちはこうやって耐えて生きてるんだよ!」


 テオの悔しそうな顔を見て、ハルは悟った。

ここでは、正論だけでは誰も救えないのだということを。





3.気がついたら、下町の「なんでも屋」になっていた件


 ハルは、力で解決するのをやめた。


その代わり、自分にできることを探し始めた。

ヨハンさんの店で、壊れた肉切り包丁の柄を鮮やかに修理し、

テオの店の歪んでいたパン焼き窯の空気調整を完璧に行い、

リナの友人・ミナの洗濯仕事を手伝っては、

驚異的な効率化のアドバイスを送った。


切れ味の悪い安物のナイフを持たせても、

不格好で凸凹のジャガイモが、

彼の手にかかるとまるで芸術品のようにツルツルになる。


床を掃かせれば、まるで宮廷の舞踏でも踊っているかのような

優雅な身のこなしで、埃一つ残さない。


決して顔は見せないが、

彼が通った後は、なぜかみんなの暮らしが少しだけ良くなる。


「おいハル、これ余ったパンだ。持ってけ!」


「ハルさん、この前のお礼に。このリンゴ、甘いわよ」


 数日のうちに、ハルは下町の男たちからは「頼れる相棒」として、

女性たちからは「謎の親切な青年」として、絶大な信頼を得ていた。





4.【驚愕】ハルが街中のアイドルになっていた件


 「よし、今日は私も休みだし、ハルの服を買いに行きましょうか。

  ……絶対、フードは取っちゃダメよ」


 翌日、私はハルを厳重にガードしながら市場へと繰り出した。

ところが、一歩街へ出た途端、異変に気付く。


「よっ! ハル! 昨日のあれ、助かったぜ!」


「ハルくん、今日のお昼、うちの煮込み食べていかない?」


「ハルさん! お花、ありがとうございました!」


 すれ違う人、すれ違う人が、深々とフードを被った怪しいはずの男に、

親しげに声をかけていくのだ。


「……え、ええ!? ちょっと、何、これ!?

 なんでみんな、ハルの名前を知ってるのよ!」


私がびっくりして腰を抜かさんばかりになっている横で、

ハルはフードの奥で小さく、困ったように笑った。


「リナ。この街の人たちは、とても温かいな」


「そういう問題じゃないわよ!

 ……っていうか、あんた、私がいない間に一体何をしたのよ!?」


リナの混乱をよそに、下町はかつてないほどの活気に満ち溢れていた。





5.【不穏】漆黒の「死神」が嗅ぎ回っている件


 オブシディアン・クロウズ


そんな賑わいの、すぐ裏路地。

陽の当たらない湿った空気の中に、場違いなほど冷たい殺気が漂っていた。


「……目撃情報は間違いないのか」


漆黒の外套に身を包んだ男が、影から市場をじっと見つめていた。

その襟元には、禍々しいカラスの羽を模した銀の紋章。


国家転覆を企てる、暗殺部隊

『オブシディアン・クロウズ(黒蝕のこくしょくのカラス)』だ。


「間違いありません。下町の住人どもが、

 正体不明の『親切な青年』の話で持ちきりです。

 銀色の髪を隠し、誰の家でも器用に修理して回る。

 ……そんな男、この国に一人しかおりません。」


「ふん。記憶を失い、ドブネズミに身を落としたか。

 ……王子の目の前で、絶望を味合わせてやるのも一興だろうな」


ハルの「目立ちすぎた親切」が、皮肉にも最悪の敵を呼び寄せてしまった。

リナたちの背後を、影が音もなく滑り出した。


第4章へ続く…


第4章あらすじ:【絶体絶命】暗殺組織・オブシディアン・クロウズの強襲


下町のアパートで

暗殺部隊『オブシディアン・クロウズ』の強襲を受けた

リナとハル。


丸腰のハルは高度な王宮格闘術で敵を圧倒するが、

リナが庇われた際に負傷し流血。

その血を見た瞬間、ハルの脳裏に、

同じ組織に妹が自分を庇って殺された

凄惨な記憶がフラッシュバックする。


青い瞳から光が消え、冷酷な戦闘マシーンとして覚醒したハルは、

圧倒的な力で暗殺者を蹂躙・撃退。


記憶を取り戻した彼は、

自分が第一王子であることをリナに明かし、

これ以上彼女を危険に晒さないため、あまりにも残酷な別れを告げる……

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