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行き倒れていた美青年を助けたら、記憶喪失の王子様でした。……いや、顔が良すぎて生活に支障が出るんですけど!  作者: マサッチ


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第2章:招かれざる『観光客』たち

前回までのあらすじ:


16世紀風の下町で慎ましく暮らすリナは、

ある雨の日、道端に行き倒れていた「泥だらけの男」を拾う。


家で汚れを落としてみると、

現れたのは宝石のような青い瞳を持つ絶世の美男子だった。


しかも彼は、自分の名前すら思い出せない記憶喪失で……。

1.泥を落としたら、そこは別世界でした


 肩を貸して、雨の中を必死に歩くこと十分。

ようやくたどり着いた私の家は、下町の隅っこにある、古くて狭い一室だ。


「さあ、着いたわよ。……重かったぁ……」


玄関先に彼を座らせると、私はすぐに湯を沸かし、使い古したタオルを数枚用意した。

とにかく、まずはその泥だらけの顔と体をどうにかしないといけない。


「いい、ハル。ちょっと我慢してね」


私は温かいタオルで、まず彼の頬を慎重に拭った。

茶色い泥の下から現れたのは、雪のように白く、透き通った肌だった。


「……え」


思わず手が止まる。

拭えば拭うほど、隠されていた「造形美」が露わになっていく。

泥に隠れていた時は気づかなかったけれど、

彼の肌は毛穴一つ見当たらないほど滑らかで、

まるで最高級のシルクか、磨き上げられた大理石のようだ。


「……髪も、洗わないとね」


次に、濡れて顔に張り付いていた髪を、丁寧に拭き上げた。

すると、泥でくすんでいた髪が、窓から差し込むわずかなランプの光を反射して、

プラチナブロンドのような輝きを取り戻した。


「リナ……? どうしたんだ。私の顔に、まだ汚れが残っているのか?」


ふいに、彼が首をかしげて私を覗き込んできた。

濡れた長い睫毛が、ぱちぱちと瞬く。

その瞳は、洗われたことで深みを増し、まるで南洋の海を閉じ込めた宝石のようだ。


「……っ」


私は思わず、手に持っていたタオルを彼の顔にバサッとかぶせた。


「わ、わっ!? リナ、苦しいのだが……」


「黙って! 汚れじゃなくて、光が残ってるのよ!」


「光……?」


心臓が、耳元でうるさいくらいに鳴っている。

さっきまで「道端の死体(仮)」だったはずの男が、泥を落とした瞬間、

まぶしくて直視できないほどの「絶世の美男子」に変貌してしまったのだ。


ボロボロのマントを脱がせ、

亡き父の古いシャツを貸して着替えさせると、さらに惨状は加速した。

首元の開いた、何の変哲もない綿のシャツ。

なのに、彼が着ると、まるで王宮で誂えた最高級の装束に見えてしまう。


「あー、もう……。ねえ、ハル。あんた、本当に何者なのよ」


「……申し訳ない。やはり、思い出せないんだ。ただ……」


ハルは自分の細長い指先を見つめ、どこか寂しげに微笑んだ。


「君が私を綺麗にしてくれたこと、とても温かかった。

それだけは、覚えているよ」


その微笑みが、これまた凶器のような威力だった。

私は確信した。

この男をこのまま私の家に置いておくのは、爆弾を抱えて寝るより危険だ、と。


「……明日から、外出する時は必ず顔を隠してよね。

 いい? これ、絶対の約束だからね!」


私の必死の忠告に、ハルは不思議そうに「わかった」と頷いた。

しかし、そんな約束が、後に押し寄せる「近所の女子軍団」の前でいかに無力かを、

この時の私はまだ知る由もなかった。





2.「嘘でしょ……」帰宅したら我が家が聖地巡礼の地になっていた件


 ――次の日。  


私の懸念は、最悪の形で現実となった。


「いい、ハル。絶対に、絶対にその顔を外に見せちゃダメだからね!

 窓に近寄るのも禁止!」


私は朝一番で、ハルに古いリネンのシーツを頭から被せながら厳命した。

昨夜、泥だらけだった彼の服を脱がせ、

代わりに着替えさせたのは亡き父の古いシャツだ。

仕立ては良いが、すっかり色褪せた麻の生地。

それでも、サイズが合わずにまくった袖口から覗く指先や、

ボタンの間から見える鎖骨の一片までもが、育ちの良さを隠しきれずに発光している。


昨日、泥を落として着替えを終えた瞬間に確信したのだ。

この顔は、中世の慎ましい下町の治安を乱す、禁制品の類だと。


「……? なぜだ、リナ。君は私を隠したいのか」


シーツの隙間から、宝石のような青い瞳が不思議そうに私を見上げる。  

無防備すぎる。

その無垢さが一番危険なのだ。


「いいから! とにかくダメ!……分かった?」


ぶっきらぼうにシーツの端を整え、私は共同洗衣場での洗濯へ向かった。


……そして、洗濯を終え、戻ってきた私はその光景に目眩を覚えた。


「……嘘でしょ」


私のボロ家の前に、人だかりができていた。

それも、ドレスを纏った娘から、農作業着のおばさん、

そして杖をついたおばあちゃんまで、ありとあらゆる年代の女性たちが、

まるで何かの聖地巡礼のように押し寄せているのだ。


「ちょっと、どういうこと!?」


「あ、リナ!遅いよ!」


人だかりの最前列で、私の友人のミナが、

興奮で顔を上気させながら手招きをしていた。

ミナは庶民らしいチュニックを着ている。


「な、何が起きてるの……?」


「何がって、あんた!リナの部屋に、

 絶世の美青年が居るっていう噂が、市場中に広まってるのよ!」


……私のガードは、ハルが少し窓の外を見ただけで、瞬時に崩壊していた。





3.【悲報】ハルの無自覚な一言で、私の弁明が秒で詰んだ件


 ……女性たちの『ハル見物観光』を、

なんとか「洗濯物を被せる」ことで押しとどめた(全然止まっていなかったが)。


 その日の午後。


私は、洗濯板と木桶を持って、ハルを連れて共同洗衣場へ降りた。

部屋に閉じ込めておくのも可哀想だし、少しは外の空気を吸わせようと思ったのだ。

下町の洗衣場は、石造りで、常に濁った水の匂いがしている。


……もちろん、ハルの顔には父の古いチュニックを深く被せ、

目は絶対に見せないようにした。


しかし、そのチュニックの上からでも分かるスタイルの良さと、

漏れ出るプラチナブロンドの輝きは、隠しきれていなかったらしい。


「おっ、リナ!いい男を連れてるじゃねえか!」


近所のおじさん、ヨハンさんが、

石畳の洗衣場で洗濯をしている私に声をかけてきた。

ヨハンさんは庶民らしいチュニックを着ている。

そのヨハンさんのニヤニヤした表情を見て、私の心臓が凍りつく。


「や、ヨハンさん……!」


「隠したって無駄だぜ!こんな綺麗な男、下町じゃ見たことねえ!

 ……お似合いだな、おい!」


ヨハンさんはハルの肩を叩き、私を見て揶揄う。

ハルはチュニックの下で、不思議そうに首を傾げている。


「ち、違うんです!彼氏じゃなくて、これは……!」


「拾ったんだろ?雨の中で。

 ……優しいリナちゃんのことだ、放っておけなかったんだろ?」


ヨハンさんは私の真っ赤になった顔を見て、さらにニヤニヤする。

ハルは、チュニックの下からヨハンさんを見上げ、純粋な青い瞳を覗かせながら言う。


「……拾った?そうか。リナが私を、拾ってくれたのか」


「ああっ、もうっ!ハル、喋らないで!」


私の否定は、ハルの無垢な発言によって、完全に打ち砕かれた。

ヨハンさんは爆笑し、

中世の下町の空に「リナに彼氏ができた!」という噂が、

娘たちの『ハル見物』の噂を上書きする勢いで広まっていった。





4.幼馴染が薪割り勝負を挑んだ結果、次元の違いを見せつけられた件


 そして、その日の夕暮れ。


精神的疲労がピークに達しようとしていた時。


「リナ! おい、リナ!……彼氏ができたって、どういうことだ!」


怒鳴り込んできたのは、隣のパン屋の息子で幼馴染のテオだった。

小麦粉のついたチュニックを着た彼は、

昔から私を「未来の婚約者候補」と勝手に呼んで追いかけてくる、

少し重たい存在だ。


「テオ……。噂を真に受けないで」


「噂じゃねえ!町中がその話で持ちきりだ!

 ……で、そいつが噂の『ハル』か!」


テオは私の後ろにいたハルを指差す。

ハルは首を傾げた。


「……ハル? そう、ハルだ。リナが名付けてくれた。君は、誰?」


「俺はテオ! リナの幼馴染で、世界で一番彼女に近い男だ!」


ハルは少し俯き、寂しげな瞳を見せる。


「……そうか。リナには、そんな人が居るのか」


 その儚い表情に、テオのライバル心がさらに爆発した。


「おい、そこのシーツ野郎! 俺と張り合おうってのか!

 よし、薪割りで勝負だ!」


無理やり斧を握らされたハルは、不思議そうに薪の前に立った。

夕暮れの赤い光が二人を照らす。


「うおおおおお!」


テオは必死に斧を振るい、

節だらけで斧を跳ね返すような硬い薪を、渾身の力でようやく割り落とした。


「……ふん、どうだ! 下町一の薪割りは、俺だ……!」


――その瞬間、ハルが動いた。


一撃。


重たい斧を羽のように軽く扱い、音もなく、薪を完璧な細さへと割り終えていた。

ハルは無垢な表情でテオを見つめる。


「……割れた。テオ、これでいいのか?」


「……う、嘘だろ」


卒倒寸前のテオを放置し、私は確信した。


ハルの美貌が引き起こす破壊力は、

生活のあらゆる面において、もはや兵器に近いのだと。。。



第3章に続く…


第3章あらすじ:私が働いている間に、記憶喪失の男が下町のカリスマになっていた件


リナが洗濯の仕事に追われる裏で、

留守番のはずのハルはこっそり街へ繰り出していた。


持ち前の「超ハイスペックな器用さ」と「天然な優しさ」を発揮し、

壊れた道具の修理や家事の手伝いを通して、

瞬く間に下町の人々の心を掴んでいくハル。


ある日、リナがハルを連れて外出すると、

街中の人々から親しげに声をかけられるハルの姿に愕然とする。


リナが知らない間に、

彼は「顔を隠した謎の聖者」として下町のカリスマになっていたのだ。


しかし、その「目立ちすぎた噂」が、

王都から放たれた冷酷な暗殺部隊を呼び寄せることになり——。

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