ハッピイエンド
サリラ家の樹齢300年の一枚板の大きなテーブルに、私、サーファ、お義姉さま、キャリンが並んで座り、向こう側にサリラ様がゆったりと座っている。
(何を言われるのだろう?いやな感じはしないけれど……)
そわそわと落ち着かない私たちに、サリラ様が話し始めた。
「我が家には無茶な客が来ることもあってね、特別な部屋を作っているの。映像と音声を記録できる魔術具を常に作動させているのよ」
それがどうしたというのだろう。
「エドモンドは見るからにその『無茶』な客だったわ。最初に通した部屋も、押し込めていた小部屋も、その特別室だったのよ」
ざっ、と全員の顔が青ざめる。
特に床!あれがばれたのはまずい。
「別に床くらいいいのよ。あの男はずいぶんと悪いことをしていたみたいだし、賠償金ならハポン国に請求するわ」
「エドモンドは王族を離れていて、お金を用意できないかと……」
「どこかで働かせればいいじゃない」
なんてことないような口調で言うが、あの、遊ぶしか能のないエドモンドにできるだろうか。
首くくって死ぬのではないか。
「生き汚いから殺しても死なないわ」
お義姉さまはだいぶ変わられた。キャリンの影響を受けすぎである。
「まだ生かしておくのかぁ」
残念そうに言わないで、サーファ!
「ああ、ヘンリエッタの義弟のサーファはあなたなのね。文官として期待されていると聞いたわ」
何でもお見通しである。
「ヘンリエッタは家を離れたのでもう義弟ではありません。結婚するので夫になります」
はきはきとサーファは言う。
サリラ様が「あらまぁ、私の知らないこともあるのね」と口元を抑え、お義姉さまとキャリンが微笑み、私が叫ぶ。
「そんな約束してないわ!」
「じゃあ、まず婚約をしなくっちゃ」
「違う!」
私が再び叫び、サーファが戸惑う。
サリラ様がサーファに向かって、「覚えておきなさい」と諭した。
「まずはヘンリエッタの好きそうなものを贈って、デートに誘うのよ」
大商人サリラ様に真っ向から意見することもできず、私は口を閉じ、サーファは「なるほど」などと言っている。
「手をつないで街を二人で歩いて、自分がヘンリエッタのどんなところを好きか、ちゃんと伝えるのよ。手順を踏まなくては」
まるで子か孫に教えるかのように言うサリラ様。
深くうなずくサーファ。
「わたくしが多少男文字を覚えてきたし、紋様のラベルは全部書けるから時間ができるわ。今日の帰りにでも行ってらっしゃい」
お義姉さまが微笑み、キャリンがうなずく……!
こんな風に言われるなんて、恥ずかしくて死んでしまう……!
「それでは、今日はこの辺で。来ていただいてありがとう、必ずデートをするのよ」
最後は私とサーファに命じてサリラ様が部屋を出て行った。
音を立てずにすっと椅子から立ち上がると、サーファが改めて私を見た。
「格好だけじゃなく、ふるまいもきれいにできるんだな」
「余計な世話よ!」
「褒めたのに」
叱られた犬のようにしゅんとしている。
どうやって接しろというのか。
そもそもこの義弟はこんな性格だったっけ?
記憶が混濁する年には私はまだ早いのよ。
「反抗期だった義弟が突然変異してしまった」
思わず口走ると、サーファは面白そうに言う。
「いやじゃないだろう?それより街に行こうよ。手をつないで」
返事も聞かずに指を絡めて歩き出す。
「いいわねぇ、今日の仕事が終わったら、私もファーリアを乗せてどこかに行きましょう」
キャリンがお義姉さまを誘って、お義姉さまが嬉しそうに微笑んだ。
……のを見ていたら手をぐいっと引かれた。
「デートをするんだ」
飼い主を散歩に連れ出す犬のような確固たる意志を感じる。
つないだ手が熱く汗ばんでいるのに気づいた。
「いいわ、行きましょう。揚げ餅を買ってあげるわ」
赤い顔をしたサーファを見上げて言うと、
「その目の角度は計算されていてずるい」
と返してきた。
そういえばそんなことをしていた時もあったわね。
「まあ、街をぶらっとしましょうよ」
私たちは花ざかりの街へ繰り出したのである。
【了】




