これがざまぁというのだよ
サリラ家のごく粗末な部屋に、エドモンドが押し込められていた。
私は用意していた化粧水の瓶に筆を浸す。
「ファーリア!ヘンリエッタ!女!俺をどこまで侮辱する気だ!?」
「男女は関係ないわ、ただあんたがいやな奴なだけよ」
私が告げると同時にキャリンがエドモンドを抑え込んで口をこじ開け、ファーリアが用意していた自白剤を飲ませる。サーファが部屋の前に立って見張りをしてくれた。
エドモンドはしばらく抵抗していたが、魔獣の民の力に勝てるわけはなく、だらんと手足が力を失った。
焦点の定まらない目のエドモンドの服を脱がせ、私は次々と言葉をかけていく。
「今おつきあいしている人は何人?」
「12人。気まぐれに抱く女はもっといる」
ギョッとするサーファ以外は誰も顔色を変えない。
「今一番のお気に入りは誰?」
「妓女のヌーノだ。何でもやらせてくれるからな」
下衆い奴。
「本当に欲しい人は誰?」
「第2王女のサンディーヌだ。ああいう男も何も知らない女をいいようにしたい」
不敬罪である。
「してしまって後悔したことはある?」
「下男のベヌに手を出したのはまずかったな。美少年だったけれど、男は相性が合わない」
まあ、それは人それぞれね。
私はさらに魔力を言葉に乗せながら言う。
「さあ、今の私とあなたの言葉を繰り返して」
エドモンドがすらすらと二人の会話をなぞる。
私はそれと同時に化粧水を筆に含ませ、エドモンドの身体の真皮まで届くように魔力を込めながら男文字と女文字を混ぜた文様を書いていく。
この男は不潔で体をめったに洗わないし、この季節は乾燥して汗をかかないから化粧水は取れてしまわないだろう。
これが効いても効かなくてもいいの、その時はその時よ。
「さあ、エドモンド。もう眠りしましょう。楽しい旅は終わったわ。起きたら竜に乗ってハポン国に帰るのよ。ファーリアは行方不明で、サーファが迎えに来てくれた。愛しいヌーノが待っているわ」
最後の魔力を込めて私が歌うように囁くと、エドモンドはとろりと目を閉じた。
力を失って倒れる私をサーファが抱きとめる。
「ヘンリエッタ、無理をしたね」
「大丈夫よ、少し横になれば治るわ。それよりもキャリン、お義姉さま、帰りましょう。あとは任せたわよ、サーファ」
***
号外というか、大スキャンダルというか。
秒速、いや光速でその知らせはメーユ王国まで広がった。
ハポン国の王族主催の諸外国の来賓もあるパーティーで、突如奇声を発し、破廉恥な言葉を繰り返しながら自分の服をはぎ取り、女性たちを襲おうとしたある王族男性が捉えられたということ。
国の恥を諸外国にさらしたということで、王族から除籍され平民に落とされ、危険人物として一生捕らわれの身になったそうだ。
なんでも由緒ある貴族であった元妻を外国に棄ててきてしまった余罪もあるらしい。
はっはっは、お察しの通り、エドモンドの起こした事件よ。
「素晴らしいわ、ヘンリエッタ!」
お義姉さまがモフモフのキャリンに巻きつかれながら言う。
「一体何をしたの?」
問いかけるキャリンに私は悪役令嬢スマイルを浮かべた。
「催淫剤と興奮剤と自白剤の入った強力な魔力入りの酒を飲ませたのよ」
上手くいったものである。
化粧水は騒ぎで飛んで消えてしまっただろうが、いい仕事をしてくれた。
あの酒を飲んだら何があってもとにかく例のやりとりを繰り返すように文様に仕込んであったのだ。
化粧水の魔法が切れても自分が制御できなくなったエドモンドが、国際的に高貴な人々の前で醜態を演じたということ。
「いやあ、我ながら相変わらず悪役令嬢ね!」
えへっ、と笑ってみせる。
二人は心配そうに私を見ていた。
「ヘンリエッタ、一度は愛した人をおとしいれて、あなたは傷ついていないの?私にはキャリンがいるからいいけれど」
お義姉さまがいたわりのこもった声で言った。
「大丈夫よ!大した仲ではなかったし、お義姉さまも、キャリンも、サリラ様もボルフも何だったらコリャンだっているわ!」
「僕はその中には入っていないの?」
不満そうな声にふり向いてみんなびっくりする。
「サーファ!」
「何であなたがここに……」
私が問いかけると、サーファはムッとした顔になった。
「君が身体を捧げて僕の心を助けてくれたのに、僕には何もさせてくれないの?」
「えっ?えっ!」
二人がびっくりし、私は赤面する。
「なんでそんなことを言うの。第一私はあったかい人形だと思えと言ったはずよ!」
「人形だなんて思えるわけがないだろう!何度もあの夜を思い出して苦しかったんだ!」
ま、真面目な奴……!
「そんなに罪悪感を持たなくても大丈夫……」
「違う!」
サーファが怒ったように言う。
「他の奴と甘い夜を過ごしていたらどうしようって苦しかったんだ!」
ええと、何を言っているの?この子は!
「大丈夫よ、ヘンリエッタときたら不安になるくらい着飾るくせに色気がなくて」
「最近仕事が増えて寝る暇もなかったくらいなの」
口々にキャリンとお義姉さまが言いつのる。
慌てて私はサーファに言った。
「家はどうするの!私はハポン国に戻れないのよ!」
「それは大丈夫」
けろりとサーファが言う。
「君のお土産の酒を飲んだ父上と母上がなんだかすごく元気になって……なんと子どもを授かったんだ。家はその子に譲って僕がメーユ王国に来るよ」
ええー!……とすら言えないくらい私は言葉をなくし、お義姉さまとキャリンが口々に良かったわねと言っている。
違う、それはだめだ、真面目なサーファに道を踏み外させてはいけない。
「お金はどうするの?縁もゆかりもないメーユ王国でどうやって生きていくつもり?」
「母上にメーユの王宮で文官と騎士を定期的に募集していると聞いたから、特別に文官に打診したら入れてもらえたよ。ほら、僕って優秀だから」
あの時ヘンリエッタの悪事を暴いたみたいにさ、とサーファは笑う。
め、めまいがする……。
ふらっとよろめいた私をサーファが抱きとめた。
「また無理をしただろう?」
「……あなたに呆れたのよ!」
「僕が今度は君を助けるんだ」
「ちょっとは話を聞いてちょうだい!」
気づけば部屋には二人きりだ。
「お義姉さままで、私を見捨てるの?」
キャリンがひょこっと顔をのぞかせて、
「応援しているのよ」
と言う。
ぐいぐいと力まかせに私を抱きしめていたサーファが、私の言葉を聞いて身を離した。
「僕ではだめなの?」
……そんな不安そうな目で見ないで!
その時、家の扉を誰かが叩いた。




