お義姉さまとエドモンド
サリラ様と会ういつもの部屋ではない、格下の部屋に初めて通された。
そこに待っていたのは……
「お義姉……さま?」
ええと、なんて表現すればいいのかしら。
むっちりとした身体をパツパツのドレスに押し込んで、乱れた髪もそのままに、表情をなくしてうつむいている女性……これが、本当に華奢で可憐だったお義姉さま?
「おいおい、ヘンリエッタ。わざわざ迎えに来てやった恋人を無視するのかい?そんな手練手管も愛しいけれどね」
こっちは相変わらずである。
アホでからっぽのエドモンドだ。
「お二人は結婚なさったのかしら?」
「したよ。そして、君の字が書かれた化粧水をファーリアが見つけてね。ヘンリエッタの化粧水はハポン国でもずいぶんと知られているよ。何本も買った」
化粧水と整髪料の瓶のラベルには私の男文字と女文字を組み合わせて紋章にしたものを書いている。
装飾の点でも効果的だし、その文字に魔術が掛けられているから、ラベルを張るとより美容効果が上がることに気づいて、一つ一つ手書きにしている。
製作も色々と大変なのよ。
ラベルがないのはその分お安く売っている。
ラベルが貼っている化粧水を何本も買うのは、お義父様の家としても王族としても贅沢だ。元悪役令嬢が言う言葉じゃないけど。
「お義姉様の肌や髪はそれにしては荒れているけれど」
「それはファーリア用じゃなかったからね」
では、愛人たちにでも与えたのだろうか。
それにしても、紋章にされた女文字から私にたどり着くなんて、さすがは賢い私のお義姉さまである。
「美容家ヘンリエッタは羽振りがいいそうじゃないか。君の化粧水や整髪料をちょっと分けてもらうついでにメーユ王国観光としゃれこんだのさ。君も僕との夜が恋しい頃だろう?」
エドモンドの言葉を聞くたびにお義姉様の肩がびく、びくと震える。
この繊細なお義姉様になんて下衆な言葉を聞かせるのだろう。
今までもこのようにお義姉さまをいたぶってきたのか。
そもそも「化粧水や整髪料をちょっと」とタダでもらおうなんて根性がさもしい。
私はキャリンに目で合図した。
「お義姉さま、今夜はうちに泊まっていらして。今のお義姉さまには休養が必要みたい」
キャリンがお義姉さまにそっと手を差し伸べ、椅子から立ち上がらせる。
だいぶ体型が変わっているのに、コトリとも音は鳴らなかった。
やっぱりお義姉さまは私の理想の一つである。
「じゃあ、僕らは街へと繰り出そうか?あの頃のように……」
というバカな言葉を最後まで言わせずに私は金色のペンダントをエドモンドの足元に投げつけた。
バアン!
という派手な音がしてサリラ様の家の床が砕け散る。
戦場のマッドサイエンティスト、ヘンリ直伝の魔術具の一つだ。
あの樹齢300年のテーブルがなくてよかった。
万が一当たっていたら弁償しきれないよ。
部屋の外からサリラ家の使用人たちがバタバタと駆けつける。
「この方はエドモンド様。ハポン国の王族なのだけれど、今、ちょっと心が乱れておいでなの。こんな風に暴れてしまうくらい」
私が使用人に伝えると、呆然としていたエドモンドがやっと我に返る。
「お前、一体なにを考えて……」
「ハポン国のサーファという貴族に連絡して、引き取ってもらいたいわ。私の義弟なの。できるかしら?」
「可能だと思いますよ、ヘンリエッタ様」
有能な執事が請け負う。ああ、心強い。信頼って大事なのね。
「至急お願いします。あと、エドモンドの隔離をお願いできるかしら?暴漢と同じ扱いで構わないから」
エドモンドはハッキリ言って王族の中でも邪魔者あつかいのポジションにいた。可哀相だとあの頃は少し思っていたけれど、多少手荒く扱っても文句は言われないだろうし、なによりお義姉さまをこんな状態にした上に私とどうこうできるなんて思いやがって、こいつには世間を少しお教えした方がいいみたいよ。
「それでは、私たちはこれで……」
叫ぶエドモンドを残し、私たち3人はサリラ家を今度こそ後にしたのである。




