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9/19

第9話 バック・トゥ・ザ・フューチャー


映画紹介


公開年:1985年


監督:ロバート・ゼメキス


主演:マイケル・J・フォックス


高校生のマーティ・マクフライは、親友である科学者ドク・ブラウンが発明したタイムマシンに乗り、誤って三十年前の世界へ飛ばされてしまう。


未来へ戻る方法を探す中、マーティは若き日の両親と出会う。しかし、彼の介入によって二人が結ばれるはずだった出来事が変わり、自分自身が生まれない可能性が生じてしまう。


消えかけた家族の未来と自分自身を守るため、マーティは時代を越えた冒険へ挑む。


「今日は何を見るのだ?」


夕飯を並べていると、ゼウスが箱を覗き込んできた。


「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』」


「未来へ戻る?」


「そういう意味」


「まだ来ていない場所へ、どうやって戻るのだ?」


「それを今から見るんだよ」


俺は箱を開けた。


「今日はピザ」


「知っている。ヘルメスが持ってきた」


「神がピザのデリバリーしてんのか」


ゼウスは一切れ持ち上げた。


溶けたチーズが長く伸びる。


「食物が抵抗するな」


「神々の王がチーズに負けるな」


ゼウスはチーズを指で切り、一口食べた。


「牛の乳が使われている」


「お前の食事判定、それだけなのか」


「重要だ」


俺はテレビをつけた。


「タイムマシンの話だ」


「時間を渡るのか。誰の許しを得た?」


「許可制じゃない」


「時を支配する神はおらぬのか?」


「お前が知らないなら俺も知らん」


「ならば人間が勝手に触れてよいものではない」


「結局そこに戻るのか」


俺は映画を再生した。


     *


画面には大量の時計と、複雑な装置が並んでいた。


高校生のマーティが巨大なスピーカーへギターをつなぐ。


音を鳴らした瞬間、轟音とともに吹き飛ばされた。


ゼウスが笑った。


「音で人を飛ばしたぞ」


「出力を上げすぎたんだよ」


「この少年も賢者の弟子か?」


「年の離れた友人だな」


     *


深夜の駐車場。


大型車の中から、銀色の車が現れた。


「これが時間を渡る乗り物か」


車の扉が上へ開く。


「扉が翼になったぞ」


「格好いいだろ」


「飛べぬのに翼を付けたのか」


「扉だよ」


科学者のドクは、愛犬アインシュタインを車へ乗せた。


「なぜ犬を乗せる?」


「最初の実験だから」


「捕虜か罪人を使えばよい」


「人権意識皆無か」


「失敗しても犬は失われぬ」


デロリアンが加速する。


閃光とともに車が消え、地面には炎の跡だけが残った。


しばらくして、犬を乗せたデロリアンが再び現れる。


犬は無事だった。


ゼウスが頷いた。


「時を越えたのは、この賢者ではない。犬だ」


「最初の時間旅行者だな」


「もっと敬え」


「犬を?」


「人間より先に時を越えたのだぞ」


     *


突然、武装した男たちが現れ、ドクを撃った。


マーティは銃撃から逃れるためにデロリアンへ乗り込み、そのまま一九五五年へ飛ばされる。


「行き先も決めずに時を越えたのか」


「逃げるので精一杯だったんだよ」


「英雄の旅立ちとしては雑だな」


「本人は英雄になる気もない」


マーティは三十年前の町を歩き、若い頃の父ジョージを発見する。


ジョージは木の上から、向かいの家を双眼鏡で覗いていた。


ゼウスが眉を寄せた。


「何をしている?」


「のぞき。お前もやったろ?」


「覚えておらんな」


「嘘つけ全知全能」


ジョージは木から落ち、道路へ飛び出した。


本来ならジョージが車にはねられ、若き日のロレインと出会うはずだった。


だがマーティが代わりに車にはねられてしまう。


ゼウスがピザを置いた。


「今、父の場所を奪ったな」


「助けた結果な」


「運命の糸へ自分を結んだぞ」


「切れたというか、絡まった」


「モイライが怒る」


「誰だっけそれ?」


「人間の運命を紡ぐ三柱の女神だ。糸を紡いでいる横から、未来の人間が結び目を作った」


「かなり悪質な邪魔だな」


マーティが目を覚ますと、若き日の母ロレインが彼を見つめていた。


事情を知らないロレインは、見知らぬ少年であるマーティへ強い関心を示す。


ゼウスが真顔になった。


「これはまずい」


「分かるか」


「神々では珍しくない」


「お前ら基準で考えるな」


「だから、人間には禁忌なのであろう」


「妙に理解が早いな」


「秩序を破った時の面倒さは知っている」


「経験者は語る」


ゼウスがこちらを見た。


「何か言ったか?」


「ピザ冷めるぞ」


     *


マーティは若いドクを訪ね、発明の着想を得た時の話を証拠にして、自分が未来から来たと信じさせた。


ドクは黒板へ図を描き、マーティの介入によって未来が変わり始めていると説明する。


「長い」


「必要な説明だ。我慢しろ」


「アテナなら、ここから例を三つ加える」


「ドクより長いのか」


「本人は簡潔に話したと思っている」


「会わせちゃ駄目な二人だな」


両親が結ばれなければ、マーティも兄姉も生まれない。


家族写真から、兄の姿が少しずつ消え始めた。


ゼウスが身を乗り出した。


「消えるのか」


「両親をくっつけないと、全員消える」


「モイライの糸がほどけている」


「自分で自分の両親をくっつけるの、嫌な仕事だよな」


「英雄は時に、非常に面倒な仕事を任される」


「本人の存在まで懸かってるけどな」


「ヘラクレスがした糞の掃除よりはましだ」


「ヘラクレスそんな事もやってんの?」


     *


マーティはジョージへ、ロレインを誘うよう説得する。


だがジョージは、失敗する理由ばかりを並べた。


「臆病者だ」


「慎重とも言える」


ゼウスが首を振った。


「慎重な者は、危険を調べた後に進む。この男は進まぬ理由を探している」


言葉だけではジョージを動かせない。


そこでマーティは防護服を着て、眠っている父の部屋へ侵入した。


音楽を大音量で聞かせ、宇宙人を名乗ってロレインを誘うよう命じる。


ゼウスが顔をしかめた。


「神託を偽造したのか」


「宇宙人だよ」


「光る衣を着て、空から来た者を名乗り、人間へ命じている」


「だから宇宙人」


「新しい神ではないか」


「その理屈で神を増やすな」


ジョージは完全に信じ込んだ。


ゼウスは笑いながらピザを取った。


「信仰心の強い男だ」


「宇宙人を信じてるだけだ」


     *


学校のダンスパーティー。


ジョージはロレインを助けるため、待ち合わせの車へ向かった。


しかし、そこにいたのはマーティではなく、ロレインへ無理やり迫るビフだった。


ジョージの足が止まる。


ビフに突き飛ばされ、地面へ倒れる。


それでもジョージは立ち上がった。


「恐れているな」


「うん」


「それでも前へ出た」


ビフが拳を振り上げる。


ジョージも拳を握った。


一撃。


ビフが地面へ倒れる。


ゼウスが深く頷いた。


「今、英雄になった」


「一発殴っただけだぞ」


「恐れより、守るものを選んだ」


ジョージは自分の拳を見ていた。


まだ手が震えている。


     *


ジョージとロレインはダンス会場へ入った。


だが、二人が結ばれるはずの瞬間が遅れ、マーティの身体が消え始める。


「腕が消えたぞ。演奏していてよいのか?」


「今は演奏しないと両親が踊れない」


「忙しい英雄譚だな」


マーティは消えかけた手でギターを弾き続ける。


ジョージは勇気を出してロレインを取り戻した。


二人が口づけを交わす。


マーティの身体が元へ戻った。


ゼウスはピザを持ったまま息を吐いた。


     *


落雷の時刻が迫る。


ドクは時計台の上で、外れたケーブルをつなぎ直す。地上ではマーティがデロリアンを走らせていた。


雷鳴が響いた。


ゼウスが顔を上げる。


「来るぞ」


「分かるのか?」


「雷だぞ」


「そりゃそうか。第一人者だ」


ドクがケーブルをつないだ。


時計台へ稲妻が落ちる。


電流がケーブルを走り、デロリアンを光で包んだ。


車は炎の跡を残して消える。


ゼウスが立ち上がった。


「見事! 雷が時を破った!」


「お前が落としたわけじゃないぞ」


「だが雷だ」


「自然現象だよ」


「この賢者は雷霆の使い方を知っている」


「雷霆じゃない」


「細かいことを言うな」


     *


マーティは元の時代へ戻り、撃たれたドクのもとへ急いだ。


しかし、ドクは防弾具を身につけていた。


マーティが過去に残した警告の手紙を、ドクは読んでいたのだ。


「未来を知ることを拒んだのではなかったか?」


「最後には読んだ」


「トロイアの者たちより賢いな」


「誰の話?」


「滅亡を予言しても信じてもらえなかったカサンドラだ」


「比較対象がひどい」


     *


自宅へ戻ると、家族の暮らしは変わっていた。


父ジョージは自信を持ち、作家として成功している。


かつて彼を苦しめたビフは、今ではジョージに頭が上がらない。


ゼウスが嬉しそうに笑った。


「一度立った男は、その後も立ち続けたか」


「一発で人生が変わったな」


「拳ではない。前へ出たことだ」


ゼウスは残っていたピザを持ち上げた。


チーズはすっかり固まっている。


「時を弄ぶ話は好まぬ」


「やっぱり」


「だが、自分の家を守って帰った。良き少年だ」


「母には好かれたけどな」


「それは本人の罪ではない」


映画はエンディングに入った。


未来へ行ったはずのドクが、再びデロリアンで現れる。


マーティとジェニファーを乗せ、今度は未来へ飛び立った。


ゼウスが画面を見て固まった。


「未来へ戻った直後に、また未来へ行くのか?」


「そうなんだよ」


「続きがあるのか?」


「ある」


「いつ見る?」


「また今度な」


「今度ではない。未来で何が起きた?」


「それを話したら面白くないだろ」


「ならば今見せよ」


「一応、この一本で終わってるんだよ」


「終わっておらぬ!」


「子供か!」


その日は何とか帰した。


翌日、ゼウスは前日と同じ時刻に現れた。


結局、二日かけてパート3まで見せられた。


挿絵(By みてみん)

神話メモ


◾️モイライ


人間の運命を司る三柱の女神。クロトが生命の糸を紡ぎ、ラケシスがその長さや割り当てを定め、アトロポスが糸を切るとされる。人間の寿命や運命を決める存在であり、神々でさえその決定へ自由に逆らえないとされる場合がある。


◾️アテナ


知恵、戦略、工芸などを司る女神。ゼウスの頭から武装した姿で生まれたとされる。英雄へ知恵や武具を授ける守護者でもあり、ペルセウス、ヘラクレス、オデュッセウスなどを助けた。力だけでなく、計画と技術によって困難を解決する神として知られる。


◾️カサンドラ


トロイア王プリアモスの娘。アポロンから予言の力を与えられたが、彼の求愛を拒んだため、正しい予言をしても誰にも信じてもらえない呪いを受けたとされる。トロイアの滅亡や木馬の危険を予言したが、人々は彼女の警告を受け入れなかった。


◾️アポロンと予言


アポロンは音楽、弓術、疫病、治癒、予言などを司る神。デルポイの神託所はアポロンの聖地として特に有名で、巫女ピュティアを通して神託が告げられた。神託は必ずしも分かりやすい言葉で示されるとは限らず、受け取った人間の解釈によって悲劇を招く物語も多い。

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