第5話 ゴーン・ガール
映画紹介
公開年:2014年
監督:デヴィッド・フィンチャー
主演:ベン・アフレック、ロザムンド・パイク
結婚五周年の朝、ニック・ダンの妻エイミーが突然姿を消す。
争った跡が残る家。過熱する報道。
捜査が進むにつれて、世間の疑いは夫であるニックへ向けられていく。
失踪した妻と、疑われる夫。
完璧に見えた夫婦の裏側を描いたミステリー映画。
三日、ゼウスは来なかった。
来ないなら来ないでいい。
神々の王がいない生活は、非常に平穏だった。
四日目の夜、ソファの前にゼウスが立っていた。
「来るなら連絡しろよ」
「鷲を送れば良かったか?」
「それ神託だろ。送られても困る。なんかあった?」
ゼウスは少し嫌そうな顔をした。
「ヘラに詰められていた」
「……何を?」
「お前が私の隠し子ではないかと疑っている」
「おい」
「違うと伝えた」
「ちゃんと強く否定したんだろうな」
「愛人でもないと伝えた」
「当たり前だろ!」
「ヘラだぞ」
「それで納得した?」
「たぶんしていない」
「だろうな。お前、世界一有名なそっち系の前科持ちだしな」
「否定はできぬ」
ゼウスはソファへ座った。
妙に疲れている。
神々の王にも家庭の問題はあるらしい。
だいたい本人が原因だが。
「今日は、お前よりヘラに見せたい映画だ」
「ヘラに?」
「見終わったら、内容を伝えろ」
ゼウスが警戒した。
「何を見せるつもりだ?」
「夫婦の映画」
少し身を引いた。
「人間よ。それは本当にヘラに伝えてよいものか」
「俺の安全のために伝えろ。正しく伝えればお前のためにもなるはずだ」
テーブルにはコーヒーとドーナツを置いてある。
ゼウスはドーナツを見た。
「牛ではないのか」
「夫婦の話に牛は重い」
「どういう理屈だ」
「特にない。甘いものは嫌いじゃないだろ」
「悪くはない」
「ヘラへの土産にする?」
ゼウスの手が止まった。
「やめろ」
「なんで」
「突然土産など渡せば、何か隠していると思われる」
「普段から渡してないからだろ」
「今から始めれば、さらに疑われる」
「もう詰んでるな」
俺は配信画面を開いた。
「『ゴーン・ガール』」
「消えた女か」
「妻が消える」
ゼウスは画面を見た。
「ヘラの教えに近い映画だったと伝えればよいのか?」
「まだ見てないだろ」
「先に言い方を決めておきたい」
「必死だな」
「誰のためだと思っている?」
「お前のためでもあるだろ」
再生ボタンを押した。
*
映画は、妻の頭へ触れる夫の声から始まった。
美しい妻。
穏やかな映像。
だが、夫の言葉は妙に不穏だった。
「妻の頭を割りたいと言っているぞ」
「比喩だよ」
「よくない比喩だ。私にこれをヘラに伝えろと言うのか」
「まず見ろ。あとこれ仲のいい夫婦映画ではないからな」
「ヘラに伝えるため、仲の悪い夫婦を見るのか。自分が言ってる事を理解してるのか」
「今回は俺を信じて黙って見ろ」
「むう」
結婚五周年の朝。
ニックは妹のいるバーへ行く。
その後、家へ戻る。
妻がいない。
部屋には争った跡があった。
「消えたな」
「タイトル通り」
「この夫は、あまり驚いておらぬ」
「驚いてるんだろうけど、そう見えない」
ニックは警察を呼ぶ。
質問へ答える。
記者の前で、笑うべきではないところで妙な笑顔を見せる。
ゼウスが眉を寄せた。
「今する顔ではない」
「本人もどう振る舞えばいいか分かってないんだよ」
「妻が消えた夫の顔くらい考えておくものだ」
「いや、考えておかないと思うぞ」
「夫とは難しい役なのだ」
「役じゃないだろ」
「だが、人前では役になる」
「本当に心配するって選択肢はないんだな」
*
警察の捜索が始まった。
家の周囲へ記者が集まる。
テレビでは、事件について話す者が増えていく。
ニックが何を言ったか。
どんな顔をしたか。
妻を愛していたのか。
殺したのではないか。
「皆、この男を見ている」
「国中がな」
「まだ罪は決まっておらぬのだろう」
「決まってない」
「ならば、なぜ罪人のように扱う」
「怪しいから」
「顔を用意しなかったからだな」
「それ以外でも言動とか、状況とか」
ゼウスはテレビへ映るニックを見る。
同じ笑顔が、何度も繰り返されている。
「この顔を何度見せる」
「印象に残るからな」
「一度の笑顔が、何度も罪になるのか」
「編集されて流れるとそうなる」
「便利な術だな」
「術じゃない」
「同じものを繰り返し見せ、人の心へ形を作る」
「それは否定できない」
「この男は、法廷より先に広場へ立たされているのか」
「現代の広場はテレビなんだよ」
「顔の見えぬ民まで石を投げるのだな」
「言葉の石だけどな」
「石より軽いから、何度でも投げる」
ゼウスはドーナツを食べた。
「甘い」
「世間を裁きながらドーナツ食うなよ」
「私は見ているだけだ」
「さっきニックの顔が悪いって言っただろ」
「それは事実だ」
*
エイミーの日記が見つかる。
出会い。
恋愛。
結婚。
互いに魅力的な自分を演じていた日々。
やがて生活は崩れ始める。
「最初は仲がよかったのだな」
「そうだな」
「なぜ変わった」
「仕事を失ったり、親の世話で引っ越したり、色々ある」
「夫婦は、宴の後が長いからな」
「結婚式だけで終わらないからな」
日記の中では、ニックが少しずつ不機嫌になり、エイミーは夫を恐れるようになっていく。
「この夫は嫌な男だな」
「今のところは」
「殴るなら壁ではなく敵を殴れ」
「その発想もどうなんだ。敵って誰だよ」
さらに、ニックの浮気が明らかになる。
若い女。
秘密の関係。
ゼウスがドーナツを置いた。
「妻を裏切ったのか」
「そう」
「駄目だな」
「お前が言うな世界選手権優勝」
「人間の夫なら、妻を侮るな」
「神ならいいのか」
「よくはない」
「お」
「非常に面倒になる」
「最低だこの神」
「私と比べるな。この男は遥かに愚かだ」
「どこが?」
「若い女を、自分の妹が出入りする場所へ連れてきている」
「隠し方の話をするな」
「隠せぬなら、するな」
「最初から浮気するなと言え」
「浮気するな」
「俺じゃなく、自分に言え」
*
日記の内容。
家に残された血痕。
買った覚えのない高額な品。
ニックに不利なものが、次々と見つかっていく。
「これは、かなり怪しいな」
「ニックが?」
「他に誰がいる」
「妻を殺したと思う?」
「分からぬ」
「珍しく慎重だな」
「顔は悪い。浮気もした。嘘もついている」
「うん」
「だが、それだけで妻を殺したとは限らぬ」
「ちゃんと分けるんだ」
「浮気の罪と殺人の罪は別だろう」
「急に裁判官みたいだな」
「私は秩序を司る」
「家庭内の秩序は?」
ゼウスはコーヒーを飲んだ。
「それはヘラの領分だ」
*
エイミーが生きていることが明らかになる。
車を運転しながら、自分の計画を語る。
血を残した。
日記を書いた。
金を動かした。
夫が疑われるよう、証拠を一つずつ配置した。
ゼウスは完全に黙った。
「どうした」
「生きているぞ」
「うん」
「自分で消えたのか」
「うん」
「夫を殺人犯にするために?」
「そう」
「……怖いな」
「普通の反応が出た」
画面の中で、エイミーは計画を説明し続ける。
ニックがどんな顔をするか。
世間が何を信じるか。
テレビがどう騒ぐか。
すべて読んでいた。
「夫の顔まで使ったのか」
「ニックが人前で上手く振る舞えないのを知ってたからな」
「妻は夫の癖を知っている」
「夫婦だからな」
「急所まで知るのか」
「言い方が怖い」
「この女は、夫が自分で転ぶ場所を用意しただけだ」
「それが怖いんだよ」
ゼウスは画面へ顔を近づけた。
「先ほどの日記も嘘か」
「大部分は作った話だな」
「うまかった」
「褒めてる?」
「怖いと言っている」
「でも、見抜けなかったろ?」
「お前もだろう」
「俺は知ってた。これ見るの3回目だからな」
「卑怯者め」
*
エイミーは、自分の計画どおりに世間が動く様子を見る。
テレビではニックが責められている。
記者が騒ぐ。
人々が怒る。
「この女は、民を兵にしたのだな」
「兵?」
「自分では夫を追わぬ。民を怒らせ、夫へ向けた」
「武器は世論ってことか」
「セロンとは何だ」
「世間の意見」
「顔のない軍勢だな」
「命令はできないけど」
「怒る場所だけを示せば、勝手に走る」
「そういう面はある」
「便利だが、止められぬ軍だ」
エイミーはニックの浮気を責め、自分が夫の理想に合わせてきたことを語る。
「この女は夫を愛しているのか?」
「どうだろうな」
「愛していたのか?」
「それも分からない」
「夫を罰したいのは分かる」
「うん」
「だが、罰が大きすぎる」
「浮気に対して殺人犯の濡れ衣だからな」
「罪より大きな罰を与えれば、それは裁きではない」
「復讐?」
「そうだ」
*
ゼウスは画面を見ながら言った。
「メディアに似ている」
「人の名前?」
「夫のために父と祖国を裏切った女だ」
「重いな」
「その夫が、別の王女と結婚しようとした」
「最低じゃん」
「メディアは新しい妻と、その父を殺した」
「そこまでやる?」
「最後には、自分と夫の子まで殺した」
「最悪だな。自分の子でもあるのに?」
「夫の未来を残さぬためだ」
ゼウスはエイミーを見る。
「この女も、夫の未来を壊そうとしている」
「ニックの人生を殺す?」
「肉体を殺さず、名と家を殺す」
「結構似てるかもな」
「だが、メディアは神々の前で堂々とやった」
「それを評価するな」
「この女は隠れている」
「堂々としてればいいわけじゃない」
「神々の前での立ち振る舞いは大事だぞ」
*
ところが、エイミーは逃亡先で金を奪われる。
完璧だった計画が崩れ始める。
モーテルの部屋。
減っていく金。
頼れる者もいない。
ゼウスが少し笑った。
「人間は、細かいところから崩れるな」
「神は崩れない?」
「崩れる時は大きく崩れる。一緒に都市も崩れるし、戦も起こる」
「人間を巻き込むなよ。事故じゃなくて災害じゃねーか」
エイミーは昔の恋人デジーを頼る。
彼は大きな家へ迎え入れ、服や食事を与える。
だが、外出は監視されている。
「この男は親切なのか」
「どう見える?」
「分からぬ」
「お前、今日は本当に慎重だな」
「先ほど騙されたからな」
「学習が早い」
デジーは、エイミーを守ると言う。
だが同時に、自分の望む姿へ戻そうとしていた。
「客ではないな」
「何が?」
「客なら、帰る道を残す。この男は美しいものを家に置きたいだけだ」
「お前が言うと説得力がない」
「私は家へ置かぬ」
「もっと悪いだろ」
「家へ置けばヘラが怒る」
「理由も最悪だ」
*
一方、ニックは弁護士を雇う。
テレビへ出る方法を学ぶ。
どう座るか。
何を言うか。
どう笑うか。
「夫も顔を作り始めたな」
「生き残るために必要だからな」
「妻の舞台へ、ようやく役者として立ったのか」
「そんな感じだ」
テレビの前で、ニックは妻へ呼びかける。
自分の愚かさを認める。
戻ってきてほしいと語る。
その言葉を、エイミーが見ている。
「妻へ言っているのか、民へ言っているのか」
「両方だな」
「夫婦の話を国中へ聞かせるのか」
「ここまで来ると仕方ない」
「家の争いへ、互いに軍を呼んだようなものだな」
「テレビの世論だけどな」
「寝台から始まる内乱か」
「嫌な言い方だけど、合ってる」
ゼウスはドーナツを食べる。
「妻は喜んでいるぞ」
「ニックが、自分の期待した言葉を言ったからな」
「まだ夫を欲しいのか」
「らしい」
「殺人犯にしようとしたのに?」
「そう」
「人間の夫婦は複雑だな」
「お前の夫婦関係も大概だろ」
「だから分かる」
「分かるんだ」
「罰したいことと、手放すかは別だ」
「嫌な実感を込めるな」
*
エイミーはデジーを利用し、新しい物語を作る。
自分は誘拐され、閉じ込められていた。
夫のもとへ戻るため、命がけで逃げ出した。
その筋書きを完成させるため、デジーを殺す。
「殺したぞ」
「うん」
「血まみれで戻るために?」
「そう」
ゼウスは顔をしかめた。
「怖い女だ」
「妻が怖いと言ってる男の過去を調べたらだいたい全部自業自得なんだよな」
「やはり、この話をヘラに伝えたくない」
「なんで」
「参考にされると困る」
「ヘラの方が先に色々やってるだろ」
「さらに巧みになるかもしれぬ」
「……お前、帰らない方がいいんじゃないか」
「それはもっと怒らせる」
「本当に詰んでるな」
*
エイミーが戻ってくる。
血まみれで。
泣きながら。
大勢の記者が集まる中、ニックの胸へ倒れ込む。
世間は奇跡の生還を喜ぶ。
ニックは妻を抱きしめる。
抱きしめるしかない。
ゼウスは黙っていた。
「どうした」
「皆、喜んでいる」
「妻が生きて帰ったからな」
「誰も疑わぬのか」
「疑う人間もいるだろうけど、世間は話を信じた」
「最初は夫を罪人にした」
「うん」
「今度は妻を英雄にした」
「うん」
「同じ者たちが?」
「同じ世間だな」
ゼウスは眉を寄せた。
「民が欲しいのは、真実ではなく、分かりやすい物語か」
「悪い夫と、生還した妻だな」
「役が決まれば、中身はどうでもよいのだな」
「かなり嫌な見方だけどな」
画面では、カメラの前で夫婦が抱き合っている。
「この男は、もう妻を拒めぬ」
「拒んだら世間に責められる」
「家へ戻ったのに、檻へ入ったか」
「鍵はエイミーが持ってる」
「民も持っている」
「世間も?」
「妻を拒めば、再び夫へ石を投げる」
「そうなるな」
「顔の見えぬ門番が、家を囲っているのか」
「最悪の警備だな」
*
ニックは、エイミーがすべてを仕組んだと知っている。
エイミーも、ニックが知っていると分かっている。
それでも二人は並び、記者の前で笑う。
やがて、エイミーの妊娠が明らかになる。
「子を使うか」
「ニックを逃がさないためにな」
ゼウスの顔が険しくなる。
「それはよくない」
「そこは普通に怒るんだな」
「子は夫婦の鎖ではない」
「でも鎖になる」
「なるから使ってはならぬのだ」
画面の中で、ニックは残ることを選ぶ。
「妻を恐れながら逃げぬか」
「父親だからな」
ゼウスはしばらく黙った。
「この男は愚かで情けない夫だが、子を置いて逃げる父ではなかったか」
映画が終わった。
*
「どうだった」
「夫は愚かだ」
「うん」
「妻は恐ろしい」
「うん」
「民は騒がしい」
「うん」
「結婚せぬ方がよいのではないか?」
「それヘラの前で言うなよ。ヘラが何の神か思い出せ」
ゼウスは冷めたコーヒーを飲む。
「この話をヘラへ伝えればよいのか」
「頼む」
「何と伝えれば良い?」
「浮気はよくない」
「それだけか」
「それが一番安全だ」
「私は二時間以上見たのだぞ」
「夫婦の本質を語ると、お前が余計なことを言いそうなんだよ」
「最大の味方は、最大の敵になりうる」
「言うな」
「夫婦の争いを民へ渡すな」
「それも悪くないけど、愛人を隠せって意味に取られるかもしれん」
「では、何も言えぬではないか」
「元はお前のせいだ。浮気はよくない。それだけ言え」
ゼウスは納得していない。
「ヘラは、なぜ今さらそれを言うのかと疑うぞ」
「映画を見たからって言え」
「何の映画か聞かれる」
「夫が浮気して妻が消える話」
「妻が戻って夫を閉じ込めるところまで話すべきか」
「そこは様子を見ろ」
「難しいな」
「神々の王だろ。頑張れ」
*
ゼウスは残っていたドーナツを取った。
「甘い」
「疲れた?」
「夫婦の話は疲れる」
「普段の行いのせいだろ」
「映画のせいだ」
「映画は何もしてない」
ゼウスはドーナツを食べ終えた。
「人間よ」
「何」
「この女は星へ上げぬ」
「誰も頼んでない」
「夜空から夫を見張りそうだ」
「怖いな」
「それに、女を星へ上げるとヘラが怒る」
「でもお前、女を星へ上げてなかった?」
ゼウスの手が止まった。
「なぜ知っている」
「有名だから」
「その話をヘラの前でするな」
「普通は神と話をする機会はない。お前が特殊事例なんだよ」
「しかしヘラは、お前を知ったぞ」
「そうだった。……おい。おい、来ないよな?」
「断言はできぬ」
「しろ!神々の王だろ。禁止しろ」
*
ゼウスは立ち上がった。
「帰る」
「俺は隠し子でも愛人でもないって伝えろよ」
「分かっている」
「むしろ夫の教育へ協力した善良な人間だ」
「善良な?」
「そこは疑うな」
「お前は弱いくせに図太いな」
「生き残るためだよ」
「オデュッセウスに近い」
「知恵で生き残る英雄だろ」
「嘘と口の巧さで生き残る男だ」
「褒めてないな」
「だが生き残った」
「じゃあいいよ」
ゼウスは少しだけ笑った。
「では伝えておく」
「頼む」
「しばらく来なければ、また詰められていると思え」
「嫌な報告だな」
「帰りたくない」
「帰れよ」
嫌そうな顔のまま、ゼウスは消えた。
神々の王は、夫婦ホラーを妻へ報告しに帰った。
次に来るまで、何日かかるのかは分からない。
神話メモ
■ヘラ
結婚と家庭を司る女神で、ゼウスの妻。神々の女王でもある。ゼウスの数多くの浮気によって、愛人やその子へ怒りを向ける物語が多い。一方で、婚姻、正妻の地位、家の秩序を守る神として重要な役割を持つ。
■古代アテナイの民衆裁判
古典期のアテナイでは、多数の市民が陪審員となり、訴える側と訴えられた側の演説を聞いて投票した。現代の裁判官とは異なり、市民自身が都市の裁きを担っていた。
■名誉と名
古代ギリシャの英雄にとって、後世まで残る名声は非常に重要だった。肉体が死んだ後も、名と物語は残る。そのため、事実と異なる悪名を着せられることは、その人物が何者として記憶されるかを奪う行為にもなる。
■メディア
夫イアソンに裏切られたコルキスの王女。エウリピデスの悲劇では、夫の新しい妻とその父を殺し、さらに自分の子供たちまで手にかける。夫の肉体ではなく、家族と未来を奪う復讐として描かれる。
■カリスト
ゼウスに愛され、熊へ変えられた女性。後に空へ上げられ、おおぐま座になったとされる。誰が熊へ変えたのかなど、伝承には複数の形がある。
■オデュッセウス
トロイア戦争に参加したイタケの王。力よりも知恵、策略、弁舌、嘘を用いて困難を切り抜ける英雄として知られる。キュクロープスに自分の名を「誰でもない」と偽り、脱出した物語が有名。




