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第4話 ゴジラ


映画紹介


公開年:1954年

監督:本多猪四郎

主演:宝田明


太平洋を航行する船が、正体不明の光と炎に包まれて沈没する。


やがて姿を現したのは、水爆実験によって太古の眠りから目覚めた巨大生物、ゴジラだった。


海から東京へ上陸し、街を破壊していく怪獣と、それを止めようとする人々を描いた怪獣映画。

「今日は牛ではないのか?」


ゼウスはテーブルを見るなり言った。


「今日はサバ。魚だ」


「なぜだ?」


「海の映画だから」


「海はポセイドンの領分だぞ」


「兄弟だろ」


「奴の領分のものを私へ食わせるのか」


「世界の魚を全部ポセイドンの私物にするな」


テーブルには、焼き魚弁当と味噌汁が置いてある。


ゼウスは不満そうに蓋を開けた。


「竜の末の方がいい」


「フライドチキンと比べるな」


「もてなしが後退している」


「次は白飯だけにするぞ」


ゼウスは黙って魚を食べた。


「どう?」


「悪くない」


「神様が食わず嫌いすんなよ」


俺はテレビをつけた。


「今日は『ゴジラ』」


「ゴジラとは何だ」


「怪獣」


「竜か」


「竜ではないと思う。巨大な怪物」


「人間は大きな獣に様々な名をつける」


「怪獣王って呼ばれることもあるぞ」


ゼウスの箸が止まった。


「怪物の王か」


「そう」


姿勢を正す。


「王が王を見るのだな」


「お前、本当に分かりやすいな」


再生ボタンを押した。


     *


暗い海を船が進んでいる。


船員たちが働き、楽器を弾いていた。


次の瞬間、海が白く光る。


炎。


爆発。


船は沈んだ。


「なぜ色がない」


「昔の映画だからな」


「昔の人間は色を見なかったのか」


「見てたよ。映像に色がないだけ。技術とか予算の問題だ」


ゼウスは画面を見た。


「冥府の影のようだな」


「始まってすぐ不吉にするな」


救助へ向かった船も、同じ光に包まれて沈んだ。


「海が怒っているのか?」


「まだ原因は分からない」


「ポセイドンなら、船だけでは済まぬ」


「もっとひどいの?」


「島ごと沈める」


「兄弟そろって加減を知らないな」


     *


大戸島。


島の老人が、昔から海に住む怪物の名を口にする。


ゴジラ。


魚が取れなくなると、人を食うという。


「古い名があるのか」


「島の伝説らしい」


「ならば、昔に見た者がいたのだな」


「本当にいたとは限らないけどな」


「老人の警告を笑う者は、たいてい悲劇に見舞われるぞ」


「神話の見方をするな。…現代劇でもだいたいそうなるけど」


嵐の夜。


巨大な足音が島を進む。


家が押し潰され、人々が逃げ惑う。


ゼウスは静かに画面を見ていた。


     *


翌日、調査団が島へ入る。


巨大な足跡。


放射能。


絶滅した生物の痕跡。


人々が山を見上げる。


山の向こうから、巨大な頭が姿を現した。


ゴジラ。


ゼウスが身を乗り出す。


「大きいな。よい面構えだ」


ゴジラが咆哮する。


金属が軋むような、獣とも機械ともつかない声。


ゼウスの顔が明るくなった。


「声も良いな。威厳がある。王を名乗るのを認めよう」


「王として見るなよ。それに名乗ってない」


「怪物の王なのだろう?」


「今のところは、でかい生き物が顔を出しただけだぞ」


「王は顔を出すだけで人を走らせるものだ」


「嫌な王だな」


ゴジラは再び山の向こうへ消えた。


「む、もう終わりか」


「まだ始まったばかりだよ」


     *


東京では、ゴジラについての説明が行われていた。


太古から生きていた巨大生物。


海底に潜んでいたが、水爆実験によって住処を追われた。


「スイバクとは何だ?」


「人間が作った、とても強い爆弾」


「雷か」


「お前の雷より被害は大きいかもな」


ゼウスが俺を見る。


「人間が?」


「人間が」


「どういう理屈だ?」


「核融合。小さな太陽を作るようなものだ」


箸が止まった。


「太陽を海へ入れたのか?」


「そんな感じ」


「ポセイドンの海で?」


「そこを気にするの?」


「人間は恐れを知らないな。相手はポセイドンだぞ?」


「ゴジラで勘弁してくれ」


「勘弁するかは、あの怪物の働きによる」


画面には、ゴジラの焼けただれたような皮膚が映る。


ゼウスは少しだけ表情を変えた。


「これは、元からこの姿なのか?」


「分からない」


「火で焼かれたようにも見える」


「水爆の影響は受けてるんじゃなかったかな」


ゼウスは黙って画面へ戻った。


「人間は、強い火を作るのが好きだな」


「文明は火から始まったとも言えるからな」


「プロメテウスが与えた」


「知ってる。それでお前が罰したんだろ」


「話を急ぐな」


「有名だから知ってるし、火の話の度にそれ語られても困る」


     *


ゴジラを研究すべきか。


公表すべきか。


殺すべきか。


人々は会議を続ける。


「皆、よく話すな」


「大事な問題だから」


「怪物は待ってくれるのか」


「待たないだろうな」


「ならば、話しながら槍を用意せよ」


「槍でどうにかなる大きさじゃない」


「では、もっと大きな槍を作れ」


「発想が単純なんだよ」


「大きな怪物には大きな槍だ」


     *


片目を眼帯で覆った科学者、芹沢大助が現れる。


ゼウスがすぐに反応した。


「キュクロープスか」


「ああ、サイクロプスの事か?片目なだけだよ。小さいだろ」


「何者だ?」


「研究者」


「武器を研究するのか?」


「決めつけるな」


「キュクロープスは私の雷霆を作ったぞ」


「お前が作ったんじゃないの?」


「私が使う」


「製作者の功績を取るな」


「ポセイドンの三叉槍も作った」


「兄弟そろって外注かよ」


「ハデスの兜もだ」


「三兄弟、装備全部もらいものじゃねえか」


ゼウスがこちらを睨んだ。


「使う者が重要だ」


「職人にも礼を言えよ」


「キュクロープスには、雷霆を手にした時の私の歓喜を見せた」


「それを礼だと思ってるのが怖い」


     *


芹沢は恵美子を研究室へ入れる。


水槽。


魚。


小さな装置が水へ沈む。


次の瞬間、魚たちが苦しみ、骨だけになる。


オキシジェン・デストロイヤー。


水中の酸素を破壊し、生物を崩壊させる装置。


ゼウスが箸を置いた。


「魚が死んだ」


「そうだな」


ゼウスは水槽を見つめた。


「嫌な武器だ」


「お前の雷より?」


「雷は打った後に死体が残る」


「比較の仕方が怖い」


「これは、命が生きる場所そのものを消している」


「酸素を破壊してるんだ」


「息を奪うのか」


ゼウスは芹沢を見る。


「片目の男は、これを恐れているだな」


「悪用されると思ってる」


「ならば、なぜ作った?」


「最初から武器を作るつもりではなかったんだろ」


「人間は、作った後で用途を考えるのか」


「そういうこともある」


「危ういな」


     *


芹沢は装置の使用を拒む。


一度存在を知られれば、必ず兵器にされる。


資料を破棄しても、自分が生きていれば秘密を奪われるかもしれない。


「自分も信用しておらぬのか」


「拷問されたら話すかもしれないって」


「己の弱さまで考えているのだな」


「立派だろ?」


「賢い」


ゼウスは芹沢を見た。


「自分を大きく見積もらない人間は信用できる」


「ギリシャ神話って真逆のやつが多いもんな」


     *


ゴジラが東京へ接近する。


高圧電流を流す鉄塔。


大砲。


戦車。


「雷の柵か」


「電気だよ」


「私の雷を細くして流している」


「お前の所有物じゃない」


「私の方が先だ」


「特許でも取る気か」


「トッキョとは何だ」


「発明した人の権利」


「ならば、雷は私のものだな」


「申請してないから無理」


「なぜ神が人間へ申請せねばならん」


「逆にしたら面倒な書類が山ほど来るぞ」


ゼウスは少し考えた。


「ヘルメスに任せる」


「最悪の上司だ」


     *


ゴジラが東京へ上陸する。


「来たぞ」


ゼウスが身を乗り出した。


高圧電流を受けても止まらない。


大砲も戦車も通じない。


巨大な足が家を踏み潰す。


列車を咥え、放り投げる。


「強い」


「楽しそうだな」


その口から白い熱線が吐き出される。


鉄塔が溶け、街が燃えた。


ゼウスの笑顔が消えた。


「火を吐いたぞ?」


「放射熱線」


ゴジラが進むたび、家が倒れ、人が逃げる。


「先ほどまでは喜んでたのに」


「強き王を見るのは楽しい」


「うん」


「大きな竜に町を焼かれるのは見るのは楽しくない」


「切り替えが早いな」


「町の外で戦うべきだ」


「怪獣映画だからな。街を壊してなんぼだよ」


「怪物に壊させるために、町を建てたのか?」


「逆だけど、特撮映画の解釈としては正しい」


「お前はたまに意味のわからない事を言うな」


「お互い様だ」


     *


燃える街。


逃げ遅れた母親が、子供たちを抱きしめる。


もうすぐ父親のところへ行けると言い聞かせていた。


ゼウスが静かになる。


「父は死んでいるのか」


「戦争で、たぶん」


「そうか」


背後で炎が迫る。


「ゴジラが嫌いになった?」


「それとこれは別だ」


「別?」


「災いとなるなら止めねばならぬ」


ゼウスは画面を見たまま言った。


「そして竜が人の町へ来れば災いになる」


     *


ゴジラが放送塔へ近づく。


記者たちは、怪物が目前に迫っても実況を続けていた。


「なぜ逃げぬ」


「仕事だから」


「何の仕事だ」


「出来事を伝える」


「伝令か。死ねば伝えられぬぞ」


「その通りなんだけどな」


塔が倒れる。


「愚かだ」


「かもしれない」


「だが、嫌いではない」


「褒めてる?」


「愚かだが使命を果たそうとした」


     *


ゴジラは海へ戻る。


東京には焼け跡と負傷者が残された。


人々は、芹沢の装置ならゴジラを倒せると訴える。


だが芹沢は拒む。


一度使えば、世界中が同じ武器を求める。


「使えば竜を倒せるのだろう。ならば使え」


「さっき嫌な武器だって言っただろ」


「町をもう一度焼かせるのか」


「でも、この武器が広まればもっと大勢死ぬ」


ゼウスは黙った。


「面倒だな」


「神ならどうする?」


「雷を打つ」


「参考にならねえ」


「では大きな槍を――」


「それもない」


「人間は何も持っておらぬな」


「逆だ。持ってるから困ってるんだよ」


     *


少女たちの歌を聞き、芹沢は決意する。


オキシジェン・デストロイヤーを一度だけ使う。


研究資料はすべて燃やす。


数式も、設計図も、積み重ねてきた研究も、炎の中へ消えていく。


「自分が作った知を、自分で殺したのか」


「誰にも作れないようにな」


「惜しくはないのか」


「惜しいだろうな」


ゼウスはしばらく炎を見ていた。


「ならば、これは供物だ」


「供物?」


「自分が最も大切にしたものを差し出した」


「誰に?」


「今、生きている人間へだ」


     *


船が海へ出る。


芹沢と尾形は潜水服を着て、ゴジラのいる海底へ潜った。


「ポセイドンの領分で終わるか」


「ポセイドンに断った方がいい?」


「私は関わらぬ」


「兄弟だろ。避けるな」


「兄弟だからこそ、避ける時がある」


海底にゴジラがいる。


芹沢は装置を作動させた。


白い泡が広がり、ゴジラの体が崩れ始める。


「死ぬのか」


「うん」


芹沢は尾形の命綱を切り、海上へ戻した。


次に、自分の命綱を切る。


酸素の管も切断した。


「何をした?」


「自分も戻らないつもりだ」


「なぜだ?」


「装置の作り方が頭に残ってるから」


ゼウスは芹沢を見た。


「秘密ごと沈むのか」


「そう」


ゴジラが苦しみ、芹沢も海底へ沈んでいく。


「片目の男は、怪物を殺す武器を作った」


「うん」


「だから、その武器を作れる自身も消したのだな?」


「そういうことだ」


     *


ゴジラが最後の咆哮を上げる。


その体は骨となり、海の中で崩れていった。


芹沢も戻らない。


海だけが残る。


「片目の男は立派だった」


「ゼウスが人間を褒めるの、珍しいな」


「自分の作った刃を、自分の命で閉じた」


「うん」


「かなり上等な人間だ」


「微妙に上からだな」


「私は神々の王だぞ」


山根博士は、水爆実験が続けば、また別のゴジラが現れるかもしれないと語る。


ゼウスが俺を見る。


「まだ海へ太陽を捨てるのか」


「この後も実験は続いた」


「怪物がもう一頭出るぞ」


「現実には出てない」


「出なければよいのか?」


「それは、違うと思う」


映画が終わった。


     *


「どうだった」


ゼウスは冷めた魚を食べ始めた。


「怪物の王はよかった」


「街を壊したぞ」


「それはよくない」


ゼウスは魚の骨を皿へ置いた。


「眠っていたところを起こされ、人間に討たれた。哀れだ」


「そうだな」


「だが、哀れだから町を焼いてよいとはならぬ」


「結構まともだな」


「私は常にまともだ」


     *


「片目の男は、星へ上げてもよいな」


「星?…おい、勝手に星座を増やそうとするな」


「よい死を見せた」


「やめろ。星座の場所はもう決まってる」


「私は聞いてないぞ。誰が決めた?」


「えっと国際天文学連合?」


ゼウスが眉を寄せる。


「何者だ?」


「天文学者の集まり」


「私の許可なく空を分けたのか」


「お前の空じゃない」


ゆっくりこちらを見る。


「今、何と言った」


「空はみんなのものだよ」


「私の雷が走る場所だぞ」


「所有権を主張するな」


「その天文学者どもを呼べ」


「何する気だ」


「片目の男を星へ上げる許可を出す」


「向こうはお前の許可を求めてない」


     *


ゼウスは少し考えた。


「片目の男座」


「そのまますぎる」


「武器を沈める者座」


「長い」


「注文が多い人間だ」


「そもそも作る前提で話すな」


「ゴジラも上げよう」


「なんで?」


「大きいからだ」


「さっきまで戒めとか言いそうな顔だったのに」


「大きな竜は空に似合う」


「理由が軽い」


「では、海より来たる災い座」


「重いし長い」


「踏む大竜座」


「雑」


「ゴジラ座」


「最初からそれでいいだろ」


ゼウスがうなずいた。


「決まりだ」


「決まってない」


「なぜだ」


「地上ですでに有名だから、それで十分」


「夜空でも有名にすればよい」


「毎晩東京が壊れるのを思い出したくない」


「ならば、咆哮だけ星にするか」


「どうやって見るんだよ」


     *


ゼウスは立ち上がった。


「次は牛を用意せよ」


「分かったよ」


「怪物の王を見るには牛が必要だった。魚では力が出ぬ」


「お前は見てただけだろ」


「王と王の対面だぞ」


「一方的な視聴だよ」


消える直前、ゼウスは振り返った。


「人間よ」


「何」


「ゴジラは本当に一頭しかいないのか」


「この映画ではな」


「まだいるかもしれぬのか」


「続編にはたくさん出る」


ゼウスの目が輝いた。


「今何と言った?」


「今のは忘れろ」


「次もゴジラにせよ」


「続けては見ない」


「なぜだ?」


「数が多いからだよ。毎日ゴジラは勘弁してくれ」


「毎日見れるほどあるのか?」


「子供みたいなリアクションするなよ」


「火はまた吐くのか?」


「帰れ」


ゼウスは不満そうな顔のまま消えた。


神々の王は、ゴジラを災いとして見送った。


だが、続編があると知った瞬間、それまでの話をほとんど忘れた。


挿絵(By みてみん)

神話メモ


■ポセイドン


海、地震、馬を司る神。ゼウス、ハデスの兄弟で、三叉の槍トリアイナを持つ。『オデュッセイア』では、息子ポリュフェモスを傷つけたオデュッセウスの帰国を長く妨害した。


■プロメテウスと火


プロメテウスは神々の火を盗み、人間へ与えた。火は人間へ調理、暖房、金属加工などの技術をもたらした一方、都市を焼く力にもなった。ゼウスはプロメテウスを岩山へ縛り、大鷲に肝臓を食わせる罰を与えた。


■キュクロープス


額に一つの目を持つ巨人。ヘシオドスの物語では優れた鍛冶師で、ゼウスの雷霆、ポセイドンの三叉槍、ハデスの姿を隠す兜を作った。『オデュッセイア』に登場する人食い巨人ポリュフェモスも、キュクロープスの一人である。


■ゼウスの雷霆


ゼウスを象徴する武器。雷霆はキュクロープスたちが作り、ティタン神族との戦いでゼウスへ与えたとされる。自然現象としての雷だけでなく、ゼウスが特定の相手へ下す罰としても描かれる。


■星座と神話


ギリシャ神話では、英雄、動物、怪物などが死後に星座となる物語が多い。星座になる理由は称賛だけではなく、悲劇や危険を後世へ残すための場合もある。

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