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第3話 ジュラシック・パーク

映画紹介


公開年:1993年

監督:スティーヴン・スピルバーグ

主演:サム・ニール


大富豪ジョン・ハモンドは、最新の遺伝子技術によって、絶滅した恐竜を現代へ蘇らせた。


孤島に巨大な施設を築き、生きた恐竜を見せるテーマパークを開こうとするが、内部の裏切りによって管理システムが停止する。


檻から解き放たれた恐竜たちと、島に取り残された人々の一夜を描いたSFアドベンチャー。

「今日は牛がよい」


ゼウスは部屋に現れるなり言った。


「挨拶くらいしろよ」


「人間よ」


「それは呼びかけだろ」


「今日は牛がよい」


「人の話を聞け」


テーブルの上には焼肉弁当が二つある。


ゼウスは袋の中を見て、満足そうにうなずいた。


「よい主人になったな」


「前回うるさかったから用意したんだよ」


「客の望みを先に知る。成長したではないか」


「勝手に俺の成長物語を始めるな」


俺はテレビをつけた。


「今日は『ジュラシック・パーク』」


「ジュラシックとは何だ?」


「ものすごく昔。人間がいなかった時代」


「ではパークとは何だ?」


「公園とか広場」


ゼウスの箸が止まった。


「人間がいないなら誰の広場だ?」


「恐竜」


「竜か」


「神話の竜とは違う。昔いた大きな生き物だ」


「それを広場へ集めたのか」


「客に見せるためにな」


ゼウスが俺を見る。


「すでに面倒なことをしているぞ」


「始まる前から決めつけるな」


再生ボタンを押した。


     *


暗い夜。


大勢の作業員が、巨大な檻を運んでいる。


中から低い唸り声が響き、何かが鉄の壁へぶつかった。


檻の固定が外れ、作業員の一人が引きずり込まれる。


「これを客へ見せるのか?」


「その予定」


ゼウスは焼肉を口へ運んだ。


「もっと頑丈な檻を作らないと駄目だな」


「その感想で済むんだ」


「獣が強いなら、囲いを強くする。当然だろう」


     *


古生物学者アラン・グラントとエリー・サトラーは、地中から恐竜の化石を掘り出していた。


ゼウスが少し興味を示す。


「死んだ竜の骨か」


「恐竜の研究者だよ」


「骨から姿や暮らしを読むのだな」


「そう」


「骨を読む者は昔からいる」


「占いとは違うぞ」


「この者たちも、見たことのない獣を骨から語っている」


「科学だから」


「違いを説明せよ」


「映画を見ろ」


「説明から逃げるな人間」


そこへジョン・ハモンドが現れる。


白い服。


白い髭。


杖を持った陽気な老人。


グラントたちへ、自分が作った施設を見てほしいと頼む。


「この老人は王か」


「金持ち。会社の経営者」


「またカイシャか」


「今度は牛じゃなく恐竜を扱う会社だ」


「カイシャは竜も配るのか」


「配らない。島へ客を呼ぶ」


「見世物小屋の主人か」


「規模はかなり大きいけどな」


「生きた怪物を見せ物にする者は、昔もいた」


「ギリシャ神話でもそんな話あるんだな」


「大抵は逃げられていたな」


「神話使ってネタバレすんのやめろ」


     *


ハモンドは専門家たちに加え、孫のレックスとティムも島へ招く。


「子供も連れていくのか」


「孫だな」


「安全だと思っているのだな」


「そうだろうな」


「最初の檻は破られていたぞ」


「その恐竜とは種類が違うし、管理できると思ってるんだろ」


ゼウスは少し眉を寄せた。


「ならば、管理できるところを見せてもらおう」


     *


ヘリコプターが緑の島へ降りる。


一行は巨大な門をくぐり、森の中を車で進む。


「大きな門だ」


「テーマパークだからな」


「中にあるものより、先に客を驚かせるための門か」


「そういう効果はあるだろうな」


「神域の門は、入る者へ境を知らせる」


「ここも恐竜の世界との境目だな」


「客を中へ入れているが」


「そこが売りなんだよ」


やがて、一頭の巨大な生き物が姿を現す。


長い首。


巨大な体。


木の葉を食べながら、ゆっくりと歩くブラキオサウルス。


ゼウスは黙った。


「どうよ」


「なんと美しい竜だ」


予想していなかった答えだった。


「怪物扱いしないんだな」


「あれは木を食っている」


「判断基準が素朴だな」


「美しく、大きく、穏やかだ。よい竜だ」


平原を歩く恐竜の群れを見ながら、ゼウスはしばらく黙っていた。


ハモンドは、驚く一行を満足そうに見ている。


「この老人は、これを見せたかったのだな」


「夢だったんだろうな」


「あれほどの竜ならば自慢したくもなる」


「意外とハモンドに優しいな」


     *


研究所では、恐竜を蘇らせた方法が説明される。


琥珀に閉じ込められた蚊。


蚊が吸った恐竜の血。


血から取り出したDNA。


足りない部分には、カエルの遺伝子を使った。


「血から竜を戻したのか」


「血の中に体を作る設計図みたいなものがある」


「足りぬところへ、別の獣を混ぜた?」


「カエル」


「竜にカエルを?」


「そう」


ゼウスが顔をしかめた。


「それは、同じ竜なのか」


「完全には同じじゃない」


「ならば新しい獣ではないか」


「いや。お前んとこの神話も、いろんな動物混ぜるだろうがよ」


「それよりも見ろ、生まれるぞ」


「説明から逃げるな神々の王」


卵が割れ、小さな恐竜が生まれる。


ハモンドは嬉しそうに、その誕生を見守っていた。


「生まれたな」


「うん」


「小さい」


「最初はな」


「これは誰が育てる」


「研究所の人たちだろ」


「客を食わぬよう教えるのか」


「そこは檻で何とかする」


パークの管理室。


大量の機械。


施設のシステムを一人で管理するデニス・ネドリー。


待遇に不満を持ち、秘密の取引を進めている。


「この男は何を任されている」


「扉、電気、檻、車、監視。島の設備を動かす仕組み」


「門と檻の鍵を、一人で持っているのか」


「そうなるな」


「なぜだ」


「さあ」


「老人は竜より先に、人を囲うべきだったな」


「急に経営者みたいなことを言うな」


「王は、蔵の鍵を持つ者を軽んじてはならぬ」


「ハモンドは王じゃない」


「だから人の扱いが下手なのか」


「王なら上手いとも限らないだろ」


「アガメムノンを、侮辱するのはやめよ」


ゼウスは焼肉を食べた。


「侮辱してんのお前だろ」


     *


ツアーが始まる。


自動運転の車。


雨。


期待していた恐竜は、なかなか姿を見せない。


「御者はいないのか」


「自動で動く」


「馬もいない」


「車だからな」


「誰の判断で止まる」


「コンピューター」


「それも、あの男が動かすのか」


「そう」


ゼウスが管理室のネドリーを見る。


「鍵を多く持つ者だな」


ネドリーは計画を実行した。


システムを止め、恐竜の胚を盗み、嵐の中を逃げる。


電気柵の電流が切れる。


車が止まる。


暗闇。


雨。


地面へ置かれた水の表面に、波紋が広がった。


「来るな」


「分かるの?」


「足音だ」


ティラノサウルスが姿を現す。


巨大な頭。


鋭い歯。


重い足音。


ゼウスは身を乗り出した。


「大きい」


「ティラノサウルス。恐竜の王とも呼ばれる」


「王か」


ティラノサウルスはフェンスを越え、車へ近づく。


ゼウスの顔が明るくなった。


「見ろ。王が檻を出たぞ」


「喜ぶなよ。子供もいるんだぞ」


「王を小さな囲いへ入れるからだ」


「ティラノサウルスを王権側へ置くな」


車が襲われる。


弁護士は一人で逃げ、トイレに隠れ、そのまま食われた。


「便所の男が食われた」


「わざわざ便所を強調するな」


「あれは何をする者だ」


「弁護士。法律や契約の専門家」


「法は竜の王を止めぬな」


「その通りすぎる」


     *



一方、ネドリーは盗んだ胚を抱え、嵐の中で道に迷う。


そこへ小型の恐竜が現れた。


ネドリーは笑い、追い払おうとする。


「小さいな」


「小さくても危ないぞ」


「サソリを小さいと侮って死んだ狩人がいたな」


「オリオンか、流石にそれは知ってる」


恐竜が首の飾りを広げ、毒液を吐く。


ネドリーは視界を失い、車の中で襲われた。


「門を開けた者が、外へ出た獣に食われたな」


「因果応報だな」


「だが、火種はあの男でも、薪を積んだのは老人だ」


「ハモンドか」


「鍵を一人へ集め、その者が裏切ることを考えなかった」


「さっきまで夢へ理解を示してたのに」


「夢と、鍵の数は別だ」


     *


翌朝。


グラントと子供たちは、森の中で恐竜の卵を見つける。


パークの恐竜はすべて雌で、繁殖しないはずだった。


だが、卵がある。


「女だけにしたのか」


「そう」


「それで増えぬと思った?」


「普通は増えないだろ」


「カエルを混ぜたのだろう」


「一部のカエルは性別を変えるらしい」


ゼウスが鼻を鳴らした。


「ならば増える」


「納得が早いな」


「神々は獣にも雨にも変わる。女から男程度で驚くな」


「神話を基準にするな」


「テイレシアスは両方を経験した」


「誰だよ」


「予言者だ」


「予言者だって言われてもな。とりあえず、そいつ職業と属性の関係性はないな」


「ヘラに目を潰されて不憫だったのでな。私が予言の力を授けたのだ」


「目を潰された?何があったんだよ」


「……色々だ」


「今の間は何だよ」


     *


停電によって冷凍設備が止まり、アイスクリームが溶けている。


ハモンドはアイスを食べながら、まだ自分の夢を語っていた。


次は失敗しない。


もっと管理を徹底すれば、作り直せる。


ゼウスの顔が険しくなる。


「まだ開くつもりか」


「夢を諦めきれないんだろ」


「客が死んで、孫は森を逃げている」


「うん」


「それでも、次はうまくやると言うのか?」


「本人は恐竜を愛してるからな」


「愛していることと、正しく扱えることは別だ」


俺はゼウスを見る。


「女性関係で有名な神が言う?」


ゼウスは黙った。


「おい」


「うるさいぞ人間。今は話に集中しておる」


「おい」


「私は少なくとも、檻へ入れて客に見せたりはせぬ」


「その言い訳がもうアウトなんだよ」


     *


電力を戻すため、エリーたちは施設へ向かう。


そこにはヴェロキラプトルがいた。


小型で俊敏。


群れで連携し、人間を待ち伏せする。


「よい兵だ。知恵もあるな」


「人を食うぞ」


ラプトルは扉を開け、建物の中まで追ってくる。


ゼウスが嫌そうな顔をした。


「手が使えるのか」


「扉も開ける」


「では、門の意味がない」


「今さらそこ?」


「竜は外にいなければならぬ」


「作った奴に言えよ」


     *


レックスとティムは厨房へ逃げ込む。


金属の調理器具。


反射する扉。


小さな音。


二人は息を殺し、ラプトルの動きを見ながら逃げ道を探す。


「利口な子たちだ。ここで騒げば死ぬとわかっている」


「ほんとな。子供の頃は気付かなかったけど、大人になって見ると違って見えるんだよな」


「大人は騒ぎ、子供は静かにしている。この子らに任せた方が、この惨事は起こらなかったのではないか」


「……俺もそう思う」


     *


一行はパークのロビーへ追い詰められる。


二頭のラプトル。


逃げ場はない。


そこへ、ティラノサウルスが現れた。


ラプトルへ噛みつき、巨大な尾で吹き飛ばす。


ゼウスが立ち上がった。


「王が来た」


「やっぱり気に入ってるだろ」


「兵を退けたぞ!」


「たまたま恐竜同士で争っただけだよ」


ティラノサウルスが吠える。


その背後で、巨大な垂れ幕が落ちた。


ゼウスは満足そうにうなずいた。


「よい声だ」


「そこ?」


「雷には劣るが、悪くない」


「恐竜と張り合うな」


     *


生き残った者たちは、ヘリコプターで島を去る。


ハモンドは、杖の先に埋め込まれた琥珀を見つめていた。


かつて夢の始まりだったものを握りながら、島を諦める。


「ようやく門を閉じたか」


映画が終わった。


俺はテレビを消した。


     *


「どうだった?」


「愚かな話だったが面白かった」


「ならよかった」


「愚かな老人が、竜を死から戻し、粗末な檻へ入れ、鍵を一人へ預けた」


「まとめるとひどいな」


「だが竜は美しかった」


ゼウスは空の弁当を見る。


「牛もよかったぞ」


「映画と同じ列に置くな」


     *


冷蔵庫からフライドチキンを出す。


電子レンジへ入れようとして、手が止まった。


ゼウスが見ている。


「それは使えるのか」


「買い直したからな」


「雷に耐えるか」


「試すなよ」


「確認は必要だろう」


「今度壊したら弁償だからな」


「ベンショウとは何だ」


「同じものを買って返すこと」


「カイシャへ命じればよいのか」


「お前が金を払うんだよ」


「神は金を持たぬ」


「じゃあ絶対壊すな」


チキンを温め、テーブルへ置く。


「何の肉だ」


「鶏」


「鳥か」


「そういえば、鳥は恐竜の子孫みたいなものらしいぞ」


ゼウスの手が止まった。


「これは竜の末か」


「かなり雑に言えばな」


ゼウスはチキンを持ち上げ、様々な角度から眺めた。


「小さい」


「鶏だからな」


「先ほどの王と同じ一族か」


「遠い親戚みたいなものだよ」


「人間は、竜の末へ衣をつけ、油で煮て食うのか」


「食わないの?」


「そうは言っておらん」


ゼウスは一口食べた。


「竜の末はどう?」


「悪くない」


「さっき美しいって言ってたぞ」


「見る竜と食う竜は別だ」


「判断が早いな」


     *


ゼウスは三つ目のチキンを取った。


「人間よ」


「何」


「神官になれば、これを供物として認めてもよい」


「前回も断った」


「聞いた上で、また勧めている」


「一番面倒なやつだな」


「毎日、牛と竜の末を供えよ」


「食費が高い」


「ヨシノヤがある」


「神殿の供物をチェーン店で済ませるな」


「同じ味を国中へ届ける力がある」


「変なとこだけ理解が早い」


ゼウスは少し考えた。


「では、神官でなくともよい。竜番になれ」


「もっと嫌だ」


「まだ説明しておらぬ」


「名前だけで嫌だ」


「小さい竜だ」


「毒を吐くかもしれない」


「よく学んだな」


「今日の映画でな」


「では、知恵の回る兵を三頭ほど」


「それラプトルのことだろ?人を食うじゃねーか」


「お前が教えよ。客を食うな、と」


「自分でやれよ」


「私は王だぞ。それは竜番であるお前の仕事だ」


「既成事実のように話すな」


     *


最後のチキンを食べると、ゼウスは立ち上がった。


「次も牛でよい」


「次は知らん」


「竜の末でもよいぞ」


「鶏って言え」


ゼウスは少し機嫌がよさそうだった。


「人間よ」


「何」


「あの王は、本当にもういないのか」


「ティラノサウルス?」


「そうだ」


「絶滅したよ」


「そうか」


珍しく、少し残念そうだった。


「見たかった?」


「空の下で見れば、さぞ美しかろう」


「食われるぞ」


「私を誰だと思っている」


「神々の王」


「ならば問題ない」


「恐竜へ雷を落とすなよ」


「先に噛まれれば別だ」


「絶対に会わせたくないな」


「人間は一度戻したのだろう」


「映画だって。お前、ハモンドより危ないぞ」


ゼウスは答えずに消えた。


神々の王は、絶滅した命を戻す人間を愚かだと言った。


その直後に、ティラノサウルスを戻せと言った。


挿絵(By みてみん)



神話メモ


■アガメムノン


ミケーネ王であり、ギリシャ連合軍の総大将としてトロイア戦争を率いた英雄。優れた地位と軍勢を持ちながら、人心をつかむことは得意ではなかった。

戦利品の女性ブリセイスをめぐって英雄アキレウスと対立し、最強の戦士を戦場から離脱させてしまうなど、部下との関係で大きな失敗を重ねている。


■アスクレピオス


アポロンの子とされる医術の神。優れた医術によって死者まで蘇らせたため、生と死の秩序を乱すとしてゼウスの雷霆を受けたという伝承がある。


■死者を蘇らせること


ギリシャ神話では、死者を地上へ戻す行為は、世界の秩序に関わる重大なものとされた。オルフェウスが妻エウリュディケを冥界から連れ戻そうとした物語も、その代表例である。


■クセニア


古代ギリシャにおける客人歓待の慣習。主人は客へ食事、寝床、保護を与え、客も主人の家と財産を尊重することを求められた。ゼウスはゼウス・クセニオスとして、この掟を守護した。


■テイレシアス


テーバイの予言者。伝承では、男性と女性の両方の姿を経験したとされる。後にゼウスとヘラが男女の快楽について争った際、その判定を求められた。


■ギリシャ神話の竜


ギリシャ神話には、巨大な蛇や竜として描かれる怪物が多く登場する。デルポイのピュトン、黄金の林檎を守るラドン、黄金の羊毛を守る竜などが知られる。神域、宝、土地の境界を守る存在として現れることが多い。

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