第39話 ターミネーター
※本編では映画の結末を含むネタバレがあります。
映画紹介
公開年:1984年
監督:ジェームズ・キャメロン
主演:アーノルド・シュワルツェネッガー、リンダ・ハミルトン
一九八四年のロサンゼルス。平凡なウェイトレス、サラ・コナーは、未来から来た殺人機械に命を狙われる。彼女を守るために現れた兵士カイルは、まだ生まれていないサラの息子が、人類の未来を左右する存在だと告げる。
俺はハンバーグとフレンチフライを二皿、テーブルに置いた。
横には缶のコーラサワーを置いた。
ゼウスはハンバーグを一切れ口に入れた。
「美味い」
「ダイナーっぽい飯にした。映画で女が働いてる店に合わせてな」
ゼウスはしばらくハンバーグを噛んだ。
「美味い」
「映画に出てくるのは普通のコーラだけど最近、お前が酒じゃないと文句を言うからサワーにしたぞ」
ゼウスがコーラサワーの缶を持ち上げた。
「本来は酒ではないのか?何本ある?」
「二本。もう一本は冷蔵庫だ」
「一人一本か。足りぬ」
「二本とも飲んでいいぞ。俺は普通のコーラでいい」
「なぜだ?」
「最近、誰かのせいで毎晩のように酒を飲んでるからな」
「身体を労わるのはよいことだ」
「飲酒の原因が言うな」
俺はリモコンを取った。
「今日の映画は『ターミネーター』」
「終わらせる者か。物騒な名だ」
「ギリシャ神話の神がそれ言うのか」
俺は再生ボタンを押した。
*
荒廃した大地を、巨大な機械が進んでいた。
金属の車輪が、人間の頭蓋骨を踏み砕く。
空には飛行兵器が浮かび、地上へ光を放っている。
画面に、二〇二九年のロサンゼルスと表示された。
「未来の戦か」
「そうだな」
「人は、機械に敗れたのか?」
「そこから話が始まる」
時代は一九八四年に戻った。
夜のロサンゼルスに雷のような光が走る。
何もなかった場所に、裸の男が現れた。
男は立ち上がり、街を見下ろす。
肩から腕、胸、背中まで、身体を覆う筋肉が膨れ上がっていた。
ゼウスが身を乗り出した。
「なんと見事な身体だ」
「反応すると思った」
「どれほどの鍛錬を、どのように積めば人の身体がこうなるのだ」
「元ボディビルダーの世界チャンピオンなんだよ。筋肉を大きくして、形を見せるために鍛えてる」
「戦や競技のためではないのか?」
「肉体そのものを見せる競技だな」
ゼウスは男の身体を見た。
「己の身体を、彫像のように作ったのか」
「そういう理解でいいと思う。ただこの俳優の話であって、映画の役はまた別だ」
「人が自ら彫刻になるとは面白い。皆が見る話だ。立派な体にこしたことはない。この男が機械と戦う英雄だな」
「肉体審査だけで採用するなよ」
裸の男は、出会った若者たちに服を渡せと要求した。
拒まれると、一人を殴り殺し、別の男から衣服を奪う。
「英雄ではなく人殺しか」
「服も奪ったな」
「では盗賊だ」
再び光が走った。
今度は、先ほどの男よりも小さな身体の男が現れた。
彼は警察から逃げ、路地で服と靴を盗んだ。
「こちらは殺しはしてないが盗人か」
「今のところ、人を殺す盗人と殺さない盗人だな」
「英雄はいつ出る?そもそもなんで裸なのだ?」
「まあ見てろよ」
*
サラ・コナーは、食堂でウェイトレスとして働いていた。
客の注文を取り違え、フレンチフライを別の席に置く。
慌てて皿を運び直すと、今度は子供からエプロンのポケットにアイスクリームを入れられた。
ゼウスが画面と自分の皿を見比べた。
「この芋は、間違えて置いた物か?」
「なんで自宅で間違えてフライドポテト置くんだよ」
サラは汚れたエプロンを見て、深く息を吐いた。
「この女が戦うのか?」
「まだ何も知らない」
「食事を運ぶだけで苦戦しておるぞ」
「平凡な人間なんだよ」
「未来の戦と、何の関係がある?」
「見てろって」
裸で現れた巨漢は、電話帳でサラ・コナーという名を探していた。
同じ名前の女性の住所を順番に訪ね、射殺していく。
ニュースでは、二人のサラ・コナーが殺されたと報じられた。
「顔も知らぬのか?」
「名前と住んでる町しか分からないんだ」
「ならば、同じ名の女をすべて殺すつもりか」
「そうなるな」
ゼウスの眉が寄った。
「敵を見分ける知恵すらなく、無関係な者まで殺すのか」
「神話も不透明な神託で動いたりするだろ」
「荒い情報と神託を並べるな。神託は、それも含め運命なのだ」
「都合のいい解釈に聞こえる」
男は武器店を訪れた。
店内にある銃を次々と選び、弾薬も揃える。
未来の武器があるかと尋ね、店主から今ある物しか売れないと答えられた。
最後に弾を装填し、店主を射殺した。
「武具と命の両方を奪うのか。体は立派なのに人格は最悪だ」
「……人格ね」
サラは、自分と同じ名前の女性が殺されていることを知った。
部屋へ戻らず、人の多い店に入る。
警察へ連絡し、迎えを待つことにした。
だが店内には、電話帳で彼女を探していた巨漢が入ってきていた。
さらに、服を盗んだもう一人の男もサラを見ている。
巨漢は銃を抜き、サラに向けた。
発砲する直前、もう一人の男が彼を撃った。
何発も銃弾を受け、巨漢の身体が倒れる。
服を盗んだ男は、サラの腕をつかんだ。
自分と一緒に来なければ死ぬと告げる。
「二人とも同じ女を追っておったが一人は殺すため。もう一人は守るためだったか」
「ようやく分かったな」
「だが、名も名乗らず女を引きずっておるぞ」
「説明してる暇がないんだろ」
床に倒れていた巨漢が起き上がった。
「死なぬのか?」
さらに銃弾を受けても、男は歩みを止めない。
「人間じゃない」
「では、あの身体は何だ?」
「人間に見せるための皮だよ。中身は機械」
「肉と血を、武具の上に被せたのか」
「お前が英雄だと思ったのは、殺人用の人形だったわけだ」
ゼウスは立ち上がる男を見た。
「ならば、身体の小さい男が戦士か」
「ああ」
「この戦士ではあの大きな体相手には心許ない」
「助けに来た奴が頼もしそうに見えないからこの映画はいいんだよ」
*
サラを助けた男は、カイル・リースと名乗った。
彼は未来から来た兵士だった。
サラを追う男は、機械が人間を殺すために作ったターミネーターだという。
金属の骨格を生きた細胞で覆い、人間の姿に似せている。
カイルは未来で起きたことを話した。
人間は、軍の防衛をスカイネットというコンピューターに任せた。
スカイネットは自ら考える力を得ると、人間を脅威と判断した。
核兵器を使って都市を焼き、生き残った人々にも機械を差し向けた。
ゼウスの表情が険しくなる。
「戦の判断と武具のすべてを、機械に委ねたのか」
「人間より速く判断できると思ったんだろ」
「速さを知恵と思ったか」
未来の人類は、ジョン・コナーという男の指揮によって反撃した。
機械軍は敗北する直前、時間を遡る装置を使った。
ジョンが生まれる前に母親を殺すため、ターミネーターを一九八四年に送り込んだ。
ジョンもまた、母親を守るためにカイルを過去へ送った。
「まだ生まれておらぬ子を殺すため、母を狙ったのか」
「ジョンが生まれなければ、未来の抵抗軍も作られない」
「子を討てぬから、時を遡って母を討つ。機械も卑怯な戦を考えるものだな」
「向こうに名誉はないからな」
ゼウスが腕を組んだ。
「だが、過去を変えれば、送り込んだ機械自身はどうなる?」
「俺にも分からん」
「役に立たぬな」
「時間移動を理解してる会社員を求めるな」
「しかしまだ生まれぬ英雄を守る話か」
警察はサラとカイルを保護した。
だが未来から来た機械の話を信じず、カイルを精神に異常のある男として拘束する。
警察署には、多くの武装した警官がいた。
サラは、ここなら安全だと告げられた。
「砦に入り、兵も揃ったか」
「相手は一人だしな」
「ならば、ようやく休めるな」
ターミネーターは、傷ついた顔を自分で修理していた。
刃物で目の周囲の肉を切り取り、傷んだ眼球を外す。
その下から、赤く光る機械の目が現れた。
ゼウスが顔をしかめた。
「人の肉を着ておるだけか」
「その肉も生きてるらしい」
「人と武具の境がなくなっておるぞ」
「だから厄介なんだ」
「気に入らぬ」
*
ターミネーターは警察署を訪れ、サラに会わせろと求めた。
受付の警官に断られる。
ターミネーターは周囲を確認し、また戻ると言い残して外へ出た。
ゼウスが頷いた。
「戻ると誓ったな」
「嫌な予感しかしないけどな」
しばらくして、車が警察署の入口を突き破った。
「言葉どおり戻ったぞ」
「車で玄関を破るのは、入ってきたとは言わねえよ」
「だが、扉は通った」
「お前は参考にするなよ」
「私は扉など使わぬ」
「そっちも直せって言ってんだよ」
ターミネーターは警察官たちを撃ち殺し、署内を進んだ。
銃弾を浴びても止まらない。
警官たちは次々と倒れた。
ゼウスは2本目の缶を開けながら言った。
「砦も兵も、あれを止められないのか」
「相手が悪すぎる」
「武具が自ら歩いておるようなものだ」
拘束を抜けたカイルがサラを見つけた。
二人は警察署から逃げ出す。
ゼウスは息を吐いた。
「守る者がこの戦士一人になったな」
「最初盗人って呼んでたのにな」
*
カイルとサラは、人気のない場所に身を隠した。
カイルは、未来の戦場について話した。
人間に似せた機械は地下の避難所に入り込み、内側から人々を殺した。
犬だけが、機械と人間を見分けられたという。
「外見だけでは、誰にも見分けられぬのか」
「犬には分かる」
「犬は良い動物だ。オデュッセウスの犬も主人を見分けた」
「犬の良さについては同感だ」
カイルは、ジョンからサラの写真をもらったと話した。
古く、色褪せた写真だった。
そこに写るサラを何度も見ているうちに、会ったことのない彼女を愛するようになった。
ゼウスがカイルを見た。
「この男は、出会う前から守ると誓って来たのか」
「写真では知ってた」
「絵を愛していたのか」
「未来じゃ、写真の中にしかいないからな」
サラも、命を懸けて自分を守ったカイルに心を開いた。
二人は抱き合った。
「時を遡る婚姻か。面倒だな」
「まだ結婚はしてない」
「子を残すならば、同じようなものだ」
カイルは、身の回りにある薬品を使って爆弾を作った。
追ってくる機械と戦うため、残った材料を鞄に詰める。
ゼウスが手元を見た。
「武具まで己で作るのか」
「未来じゃ、あるもので戦うしかなかったんだろ」
「鍛冶師も工房もなく、兵が火を作る。よい戦士だ」
「最初に身体だけで選んだ男とは、ずいぶん評価が逆転したな」
「この男は、身体にないものをすべて行動で示した」
ターミネーターは、サラの母親の声を真似て電話に出た。
サラから居場所を聞き出し、二人が隠れる場所に向かう。
「声まで人に似せるのか」
「見た目だけじゃないらしい」
「人の信頼を使うために、人へ似せたのだな」
「言ったろ。厄介だって」
ゼウスは赤い目で周囲を探す機械を見た。
「理解するためじゃなく殺すために人を学んだか。知恵の使い道が、あまりにも狭い」
*
ターミネーターは車と大型のタンクローリーを奪い、二人を追った。
カイルは走る車から爆弾を投げる。
爆発でタンクローリーが横転した。
燃料に火が移り、ターミネーターを炎が包む。
サラは燃え上がる車体を見た。
「倒したか?」
「普通ならな」
「普通ではないことは、もう分かっておる」
炎の中から、人の形をした金属の骨格が立ち上がった。
肉も髪も失い、赤い目だけが光っている。
一歩ずつ、サラとカイルを追ってくる。
「これが中身か!タロースより細いが、姿は似ておる。青銅の巨人を人ほどの大きさにしたのか」
「タロースってヘパイストスが作った人形だっけ?」
「そうだ。クレタ島を守り、近づく船へ岩を投げた。だが、あれは守るための人形だ」
「古代版自律防衛システムか。こっちは一人の女を殺すためだけに歩いてる」
ターミネーターは炎の中を進んだ。
「ヘパイストスは知恵を持つ黄金の乙女も作った。だが、人を殺す命令だけを与えた人形は作るまい」
「作れはすんのか。ギリシャ神話勢すごいな」
「技があることと、何を作るかは別だ」
「技術者倫理で古代に負けたか」
サラとカイルは、稼働中の工場に逃げ込んだ。
カイルは鉄の棒でターミネーターを殴ったが金属の身体には、ほとんど効かない。
反撃を受け、床に倒れる。
それでも最後の爆弾をターミネーターの身体に押し込み、サラから引き離した。
爆発が工場内を揺らした。
カイルは動かなくなった。
ターミネーターの下半身も吹き飛んだ。
サラの脚には金属片が刺さり、立ち上がれない。
「戦士が死んだか」
「サラを守ってな」
サラはカイルの名を呼んだ。
返事はない。
その背後で、金属の腕が動いた。
上半身だけになったターミネーターが、腕を使って床を這ってくる。
ゼウスが画面を指した。
「まだ来るのか!脚もなくなったのに腕だけで追ってきておる!」
「サラを殺すまで止まらない」
「執念ではない。勇気も怒りもなく、ただ命令だけが残っておる」
「だから怖いんだよな」
「厄介な物を作ったものだ」
サラは負傷した脚を引きずり、工場の奥に逃げた。
ターミネーターは鉄格子を押し曲げ、手を伸ばす。
サラは機械の中に身体を滑り込ませた。
ターミネーターが後を追う。
その身体がプレス機の下に入った。
サラは鉄格子を閉め、操作盤に手を伸ばした。
押し潰される前に、ターミネーターの手がサラの首をつかもうとする。
サラはスイッチを押した。
鉄の板が下がり、ターミネーターの頭と胸を押し潰していく。
赤い目が消えた。
ゼウスは画面を見たまま言った。
「食堂で注文を間違えていた女が、未来の殺人人形を倒したか」
「一般人だったのにな」
「逃げ、守られ、愛した男を失い、そして最後は己の手で終わらせた。英雄の母、いや、この女も英雄であったか」
*
月日が過ぎた。
サラはカイルの子を宿していた。
まだ生まれていない息子、ジョンに向けて、未来で聞かせるための声を録音している。
カイルが父親だと伝えるべきか。
もし伝えれば、ジョンは実の父親だと知りながら、カイルを過去に送り出すことになる。
だが送らなければ、ジョン自身が生まれない。
ゼウスが腕を組んだ。
「未来の息子が、この男を父にするため過去へ送ったのか」
「カイル本人は、父親になるって知らなかったけどな」
「機械は子が生まれる前に母を殺そうとし、人は母を守るため父を送った」
「その二人からジョンが生まれる」
「運命を変えようとして、運命を作っておるではないか」
「最初から決まってたと思うか?」
ゼウスは少し考えた。
「分からぬ。だが、逃れようと選んだ道も、モイライの糸の内に見える」
旅の途中、少年がサラの写真を撮った。
サラは写真を買い取る。
そこには、遠くを見る彼女の姿が写っていた。
カイルが未来で持っていた写真と同じものだった。
「この写真か」
「ああ。未来のジョンがカイルに渡す」
「この男は、己の子を宿した女の姿を、子から受け取ったのか」
「そうなるな」
「時間とは、本当に面倒なものだな」
空に黒い雲が広がっていた。
嵐が来ると告げられたサラは、分かっていると答える。
車を走らせ、雲の下へ進んでいく。
エンドロールが始まった。
*
ゼウスが二本目の空き缶を振った。
「もう一本ないのか?」
「最初に二本だと言っただろ」
「未来から持ってくればよい」
「酒のために時間を遡るな」
「飲む前の私から一本受け取るだけだ」
「それを飲んだら、今のお前が飲んだ二本目はどうなるんだよ」
ゼウスは空き缶を見た。
「時間とは面倒なものだな」
「面倒なのはお前の酒との付き合い方だよ」
俺は皿と空き缶を重ねた。
ゼウスが思い出したように口を開く。
「そうだ。人間よ」
「今度は何だ?」
「明日はアレースが来る」
俺は持ち上げかけた皿を置いた。
「なんでだよ」
「お前が招いた」
「ちょっと待て。俺は何もしてないぞ。お前が何か吹き込んだんだろ」
「以前、ヘラがここに来た時、菓子を渡したな」
「ああ」
「あの時、何と言ったか覚えておるか?」
「え?」
俺は少し考えた。
「……ご、ご家族でどうぞ」
「その言葉とともに神へ食物を渡す意味を、分かっておらなかったようだな」
「ただの手土産だぞ」
「神に捧げた食物を、何と呼ぶと思っておる?」
「……供物」
「父が入り浸っている家に母も招かれ、その母を通じて、家族で分ける供物まで贈られた。アレースからすれば、その人間に興味を持たぬ方がおかしい」
「入り浸ってる自覚はあるんだな」
「今はそこではない」
「俺が蒔いた種なのは分かったよ。でも、お前がしっかり引率しろよ」
「引率?」
「そうだ。それを褒美にしてくれ。アレースがこの部屋で暴れないよう、お前が見張る。それでいい」
ゼウスは目をそらした。
「私は明日、来られぬ」
「なんでだよ!」
「神々の王は忙しいのだ」
「嘘つけ! 毎日のようにここで映画見て酒飲んでるじゃねえか!」
「ぶ、無礼だぞ。人間には分からぬ、神々の王としての尊い務めがあるのだ」
「お前、アレースと一緒にいたくないだけだろ」
「とにかくだ。明日はアレースが来る。私からも色々と注意はしておく」
「まず丸腰で来るように言え。それが最低条件だ」
「伝えてはおく」
「約束しろよ」
ゼウスは立ち上がった。
「人間よ」
「なんだよ。まだあるのかよ」
ゼウスは俺の肩に手を置いた。
「案ずるな。お前ならば、きっと生き残れる」
「何を想定してるんだよ!」
雷の光が部屋を白く染めた。
光が消えた時には、ゼウスの姿もなくなっていた。
テーブルには、空になったコーラサワーの缶が二本残されている。
明日は生き残る事を第一目標にしないといけない来客が待っている。
神話メモ
◾️タロース
タロースは、クレタ島を守った青銅の巨人である。島の周囲を巡回し、近づく船へ岩を投げて侵入を防いだとされる。作り手についてはヘパイストスやダイダロスなど複数の伝承があり、身体を巡る一本の血管と、踵にある栓によって命を保っていた。
◾️ヘパイストスの自動人形
鍛冶神ヘパイストスは、自ら動く不思議な器物を作ったとされる。『イリアス』には、知性と言葉を備えて主人を支える黄金の乙女たちや、自動で神々の宴に進む三脚が登場する。神の技によって作られた器物は、単なる道具を超えた働きを見せた。
◾️オデュッセウスの犬アルゴス
アルゴスは、オデュッセウスがトロイア戦争へ出る前に飼っていた猟犬である。主人の不在中は顧みられず、老いて横たわっていた。二十年ぶりに帰還したオデュッセウスが乞食に変装していても正体を見抜き、耳を伏せて尾を振る。オデュッセウスは涙を隠し、アルゴスは主人の帰還を見届けた直後に息を引き取った。
◾️モイライ
モイライは、人間と神々の運命に関わる三柱の女神である。クロートーが生命の糸を紡ぎ、ラケシスが長さを定め、アトロポスが糸を断つとされる。ゼウスとの力関係には伝承による違いがあるが、定められた死や運命は、神であっても容易には覆せないものとして語られた。
◾️古代ギリシアの身体鍛錬
古代ギリシアの男性市民は、ギュムナシオンやパライストラで身体を鍛えた。競走、跳躍、円盤投げ、槍投げ、レスリングなどが行われ、競技だけでなく軍事訓練や市民教育とも結び付いていた。筋肉の大きさのみを競うのではなく、運動能力や均整の取れた身体が重視された。




