第35話 ポリスアカデミー
※本編では映画の結末を含むネタバレがあります。
映画紹介
公開年:1984年
監督:ヒュー・ウィルソン
主演:スティーヴ・グッテンバーグ
市長の方針により、年齢や性別、体格を問わず志願者を受け入れることになった警察学校。そこへ、口の悪い問題児マホーニー、声帯模写を得意とするジョーンズ、巨漢のハイタワー、銃器を愛するタックルベリーら、個性の強い訓練生たちが集まってくる。彼らを追い出そうとする教官との対立を、下品な悪戯と騒動で描くコメディー。
テーブルの中央へ、大きな耐熱皿を置いた。
焼けたチーズの下には、牡蠣とほうれん草、マカロニが入っている。横にはガーリックトーストと、葉物だけの簡単なサラダを添えた。
ゼウスは、グラタンから牡蠣を一つすくった。
「牡蠣を、乳とともに焼いたのか」
「牛乳とチーズな」
「海と牧場を一つの皿へ入れたのだな」
「そう言うと壮大な料理に聞こえるな」
俺は冷やしておいた辛口の白ワインをグラスへ注いだ。
「今日の映画は『ポリスアカデミー』」
「法の番人を育てる場所か」
「だいたいあってる」
ゼウスはもう一つ牡蠣を取った。
俺は再生ボタンを押した。
*
市長が、警察学校の採用方針を変えた。
年齢や性別、身長、体重にかかわらず、志願する者を受け入れる。発表を聞いた市民たちが、警察学校へ押し寄せた。
集まった顔ぶれは、揃って警官らしくない。
銃器を大量に身につけたタックルベリー。小さな声でしか話せないフックス。大柄で物静かなハイタワー。周囲で事故を起こし続けるファックラー。
気弱なバーバラは、写真店の小屋で働いていた。町の男たちにからかわれ、小屋ごと川へ落とされても、警察官になると言い返すことしかできなかった。
警察署では、ジョーンズが機関銃の音を口から響かせた。
居合わせた警官たちが机の陰へ飛び込む。
ゼウスが手を止めた。
「今の音を、この男が出したのか?」
「声帯模写。人の声や機械の音を真似するんだ」
「音だけか?姿は変えられぬのだな」
「お前、張り合ってるのか?」
ゼウスはジョーンズを見ながらワインを飲んだ。
「私は姿も声も変えられる」
「神が人間相手に本気で勝とうとするな」
一方、駐車場で働くマホーニーは、横柄な客の車を壊したために逮捕された。
亡くなった父親の友人である警察官から、刑務所へ行くか、警察学校へ入るかを選ばされる。
マホーニーは警察学校を選んだ。
ただし、自分から辞めることは許されない。退学させられるため、初日から問題を起こすつもりでいた。
「なぜ法を破る者を、法の番人にする?」
「本人もなる気はない。追い出されるのを待ってる」
警察学校へ到着したマホーニーは、訓練生たちを眺めながら歩いた。
気弱なバーバラが荷物を運んでいる。二人の訓練生、コープランドとブランクスは、彼を見つけて早くも笑いものにしていた。
マホーニーはバーバラへ普通に声をかけた。
「この男は侮辱には加わらぬか」
「あいつらの味方にはなりたくないんだろ」
「それにしても、この太った男は情けない。侮辱されても言い返さぬとは」
「全員がそれをできるわけじゃない」
訓練生たちは体育館へ集められた。
格闘訓練を担当するキャラハンが、バーバラを前へ呼ぶ。
背が高く、胸を張り、男たちを見下ろしながら命令した。
全力で殴れと言われたバーバラは、恐る恐る拳を出した。
キャラハンはその腕を取り、バーバラの体を床へ転がした。
ゼウスが身を乗り出した。
「この女はアマゾネスではないのか?」
「アメリカ人だよ」
「それは生まれた土地であろう。アマゾネスではないのか?」
「違うし、それ侮辱と取られてもおかしくないからな」
「アマゾネスは確かに畏怖されており、蛮族ではあるが、ヘラクレスやアキレウスとも戦った誇りある戦士だぞ」
「蛮族がまず女性に使う言葉じゃねえよ。あと、画面に近づきすぎ」
キャラハンが、次の相手を呼んだ。
「一度、手合わせしてみたいものだ」
「下心だろ」
「違う。純粋に、強い相手だからだ。パンクラチオンなら、優れた競技者になる。拳も組み技も使える」
「言い訳が具体的すぎて逆に信じられん」
「私は技を見て申しておる」
「じゃあ、なんでさっきから顔が嬉しそうなんだよ?」
「優れた戦士を見れば嬉しくもなる」
「便利だな、戦士って言葉」
キャラハンは、次に出てきた訓練生も床へ投げた。
ゼウスが満足そうに頷く。
「やはり手合わせしたい」
「もう黙って見てろ」
訓練を任されたハリスは、志願者を育てるつもりがなかった。
警官にふさわしくないと見なした者へ厳しい訓練を課し、自分から去らせようとしている。
体力のない者は走れず、障害物を越えられない者は泥へ落ちた。ハリスは失敗する者を怒鳴り、笑い、全員の前で恥をかかせた。
「厳しい訓練が必要であるのはわかる」
「まあな。警官になってから、できませんじゃ困る」
「だが、この男は教えておらぬな」
「落とす相手を探してるだけだからな」
「できぬことをできるようにするのが訓練ではないのか?」
「ハリスが欲しいのは、最初から自分の言うことを聞ける奴だけだよ」
「ならばやっているのは訓練ではなく、選別だな」
マホーニーは、退学になるためにハリスへ悪戯を繰り返した。
だがハリスは、簡単には彼を追い出さない。代わりにコープランドとブランクスを班長へ任命し、マホーニーたちを監視させた。
やがて訓練生たちは、教官に隠れて酒を飲むために集まった。
コープランドとブランクスが、その場所を探し回る。マホーニーは二人へ、別の店の住所を教えた。
二人が扉を開ける。
店の中では、革の服を着た髭の男たちが踊っていた。
店名は、ブルーオイスター。
ゼウスがグラタンを見た。
「それで牡蠣か」
「名前だけで決めた」
「雑な決定だが料理は悪くなかった」
「一言余計なんだよ」
「それはお互い様だ」
コープランドとブランクスが引き返そうとすると、店の男たちが二人を囲んだ。
軽快な曲が始まり、男たちは二人の手を取って踊りへ加える。
ゼウスが頷いた。
「よい集会所ではないか」
「どこを見てそう思ったんだよ?」
「同じ装束の男たちが集まり、初めて来た者まで踊りへ迎えている」
「二人とも明らかに嫌がってるぞ」
「踊りを知らぬ者が、初めから喜べるものか。だから手を取って教えてやっているのだろう」
「ダンス教室じゃねえんだよ。…でも、事実だけ並べるとそうなるな」
「なら、それは事実であろう」
「改めて見ると、こいつらが勝手にビビってるだけで歓迎ムードのバーだな。ドレスコード徹底してるのに一見さんに、そこも求めてないし」
「別の見方があったのか?」
「お前は古代の偏見の時点で危ういんだから、現代のまで身につける必要はない」
「私は偏った見方などした事はないぞ」
「ついさっきアマゾネスを蛮族呼ばわりしたろ」
男たちは、コープランドとブランクスを一人ずつ相手にして踊っている。
ゼウスが眉を寄せた。
「しかし、なぜ二人だけで踊る?」
「疑問に思うのはそこかよ」
「皆で輪を作ればよいではないか」
「踊りの文化が違うんだよ」
「せっかく大勢いるのに勿体無い」
コープランドたちは、マホーニーへの仕返しを始めた。
バーバラの部屋へ女を忍び込ませ、ハリスの検査を受けさせる。マホーニーは女を隠して連れ出そうとしたが、講堂で逃げ場を失った。
女とともに、演台の下へ潜り込む。
その演台の前へ、校長のラサールが立った。
話していたラサールの顔が、途中で変わる。
ゼウスが動きを止めた。
ラサールは一度言葉を詰まらせ、それでも訓練生たちへの話を続けた。
ゼウスが吹き出した。
「お前、こういうの好きなんだな」
「喜劇とはこういうものだ」
「急に伝統芸能の顔をするなよ」
「大勢へ立派な話をしながら、演台の下では女に――」
「説明しなくていい」
「何も知らぬ者たちは、高尚な話を聞いているつもりでおる」
「分かったから」
ゼウスは声を上げて笑った。
「権威ある男と性の笑いは、昔からよく合う」
「知りたくなかった古代ギリシャの伝統だな」
「アリストファネスならもっと露骨にやるぞ」
「誰だよ」
*
訓練は続いた。
ハイタワーは、車の運転ができなかった。
警官になるには運転試験を通らなければならない。大きな体を縮めるようにして、ハイタワーはマホーニーへ教えてほしいと頼んだ。
夜中にコープランドの車を持ち出し、ハイタワーを運転席へ座らせる。
ハイタワーがアクセルを踏んだ。
車は急発進し、道路へ飛び出す。
壁にぶつかり、別の車を避け、警察に追われながら町を走った。助手席のマホーニーは叫び続けている。
「大男は笑われることを恐れて頼めなかったのか。そして、この男は笑わなかった」
「マホーニーは権威はからかうけど、人の欠点を茶化したりしないんだよな」
ゼウスは笑った。
「しかし、操縦も教え方も下手だ」
「オシャカにすんの折り込みで車盗んでの深夜の路上教習だからな」
「だが、大男は笑っておる。良い顔だ」
ハイタワーは運転試験に合格した。
マホーニーは、自分のことのように喜んだ。
訓練中、フックスが車を動かした。
小さな声で謝りながら進み、コープランドの足をタイヤで踏む。
怒ったコープランドは、フックスに人種差別的な言葉を浴びせた。
ハイタワーの顔が変わる。
ゼウスが画面を見た。
「今の言葉は、どの民を侮ったものだ?」
「特定の国じゃない。人種全体に向けた差別だ」
「国も家系も異なる者を、肌の色だけで一つの民とするのか?」
「そういう雑なくくり方も差別の一部だよ」
「アイティオペスは神々をもてなす敬虔な民だぞ。肌の色が、なぜ侮りになる?」
「そこに大した理由なんかないんじゃないか」
「ポリスも家系も知らずにか」
「それはそれで面倒臭いけど、知ろうとしないための言葉なんじゃないかな」
ハイタワーが、コープランドの乗ったパトカーを持ち上げた。
ゼウスが立ち上がる。
「よいぞ!車を持ち上げた!」
ハイタワーは、そのまま車体をひっくり返す。
「よくやった。この大男は仲間の名誉を守った」
「それで退学になるけどな」
「侮辱した男は残るのか?」
「教官の手下みたいなもんだからな」
「法を守る者が、同じ隊の者を侮辱した。先に務めを捨てたのは、あの男であろう。むしろ大男は車一台で済ませた。分別がある」
「古代基準持ってくると話が悪化するからやめろ」
ハイタワーは警察学校を追い出された。
その後、コープランドとブランクスは、マホーニーを挑発した。マホーニーは手を出さない。
代わりに、これまで二人から笑われ続けていたバーバラが、コープランドを殴った。
「この太った男もようやく侮辱へ立ち向かったか」
「その呼び方も侮辱だからやめろ」
「名を覚えてなかっただけだ」
「それを雑なくくりって言うんだよ」
乱闘が始まった。
ハリスは、バーバラを退学させようとする。
マホーニーは、自分が始めたと名乗り出た。
「殴ったのは、あの気弱な男だぞ」
「マホーニーが自分のせいだって言ったんだよ」
「最初からこの場所を去りたがっていた。本人には都合がいいのか」
「初めはな」
マホーニーは、仲間たちを振り返った。
警察学校へ入った時とは違い、表情から笑いが消えている。
「今は、去りたくなかったか」
「たぶんな」
マホーニーは退学になった。
望んでいたはずの結果を得て、一人で警察学校を去った。
*
訓練生たちが町を巡回していた。
ファックラーは、走る車の中で林檎を食べている。
食べ終わった林檎を窓から投げると、道にいた男の頭へ当たった。
男は、近くにいた別の男が投げたと思い込む。
殴り合いが始まった。
止めに入った者まで巻き込まれ、店が壊され、通りの人々が暴れ始める。
ゼウスが立ち上がりかけた。
「こいつはエリスが化てるのか?」
「ただの訓練生だよ」
「林檎を投げ、争いを起こしたぞ」
「本人は気づいてないけどな」
「エリスは争わせるために黄金の林檎を投げた。この男は、何のために投げた?」
「食い終わったからじゃないか」
「目的もなく、災いを女神のように育てたのか」
「たちの悪い言い方だけど、こいつに関しては概ね合ってる」
騒ぎは通りから通りへ広がり、大規模な暴動になった。
原因を作ったファックラーは、何も知らず巡回を続けている。
「まだ気づいておらぬのか?」
「たぶんな」
「これほど無自覚に災いを広げる人間を、私は知らぬ」
「お前の一族をよく思い出してから言え」
ゼウスは座り直した。
「似た者が多すぎて、誰のことか分からぬ」
「そこは否定しろよ」
警察学校の訓練生たちにも、出動命令が下った。
彼らは暴動の中心とは知らず、現場へ送り込まれる。
退学したマホーニーも、仲間たちと合流した。
「もう訓練生ではないのに、なぜ来た?」
「仲間が行くからだろ」
「命令も受けておらぬぞ」
「だから来なくていいって考える奴なら、最初からバーバラの代わりに退学してなんじゃないか?」
ジョーンズは、口から機関銃の音を響かせた。
暴徒たちが驚き、道を空ける。
「見事だ。姿を変えず、音だけで敵を退けた。使う場所も正しい」
「やっと認めたか」
「だが、私ならば雷鳴も加えられる」
「まだ勝負は終わってなかったのかよ」
別の通りで、バーバラは家具を運び出している男たちを見つけた。
警察学校へ来る前、写真店の小屋ごと彼を川へ落とした連中だった。
男たちはバーバラを見て、以前と同じように笑った。銃を撃てるはずがないと決めつけ、彼を囲む。
バーバラは銃を使わず、一人ずつ制圧した。
「最初は、何もできなかった男が一人で全員を倒したか」
「一番警官に向いてないように見えたんだけどな」
「入った時にできなかったことが、今はできる。それが訓練であろう」
バーバラは男たちへ、家具を元の部屋へ戻せと命じた。
倒れた男が、自分たちの家具だと答える。
バーバラは短く謝り、その場を離れた。
「盗みではなかったのか?」
「そこは間違えた」
「判断の訓練は、まだ必要だな」
「成長だけで立派に締める気はないんだよ、この映画」
暴動から逃げるコープランドとブランクスは、近くの建物へ飛び込んだ。
扉の向こうから、聞き覚えのある曲が流れる。
ブルーオイスターだった。
革の服を着た男たちが、二人を迎える。
ゼウスが満足そうに頷いた。
「また教わることができたな」
「踊りの復習に来たんじゃない」
「よい師は、何度でも同じ動きを教えるものだ」
「教育論としては正しいのが腹立つ」
一方、コープランドとブランクスが持っていた拳銃は、暴徒の一人に奪われた。
男はハリスを人質にして、建物の屋上へ連れていく。
マホーニーが追った。
「自分を追い出した男だぞ」
「だからって、撃たれていい理由にはならないだろ」
「侮辱を忘れたのか?」
「忘れてなくても、人命救助とは別だ」
マホーニーは屋上へ出た。
隙を見てハリスを助けようとするが、犯人に気づかれる。銃を向けられ、マホーニーも膝をついた。
犯人を倒すことはできない。
今度は、マホーニーが人質になった。
「この男には、戦う力がないな」
「ないな」
「それでも来たか」
「警官になるって、そういうことなんじゃないか」
階段から、大きな影が現れた。
退学したはずのハイタワーだった。
犯人は、ハイタワーを仲間だと思った。
ハイタワーは近づき、一撃で犯人を階段の下へ殴り落とす。
倒れた犯人の前へ、フックスが立った。
いつもの小さな声ではない。
腹の底から響く声で命令し、犯人へ手錠をかけた。
ゼウスが腕を組んだ。
「敵を倒したのは大男か。そして捕らえたのは、小さな声しか出せぬと思われていた女だな」
「全員、ハリスたちが警官に向いてないと思ってた人だ」
「型を教えるのが訓練だ。入る前から同じ形の者だけを望むなら、教官はいらぬ」
「80年代のアホコメディなのに骨格がかなり真っ当なんだよな」
ハイタワーはマホーニーへ手を差し出した。
マホーニーは、その手をつかんで立ち上がった。
*
警察学校の卒業式が行われた。
退学になったマホーニーとハイタワーも復学を認められ、二人はハリスの命を救った功績を表彰された。
壇上へ立ったマホーニーを見て、ゼウスが首を傾げた。
「敵を倒した大男だけではなく、この男も表彰されるのか」
「ハリスを助けようとして、自分も人質になったからな」
「身代わりになった勇気への褒美か?」
「それだけじゃないと思う」
ゼウスは黙って、マホーニーを見た。
「この男には、他の者のような技も力もない。だが力ある者にへつらわず、嫌う者の命と守った」
「本人は、そんな立派な顔してないけどな」
「立派な顔をする者ではなく、立派に振る舞った者を選んだのであろう」
マホーニーは、列に並ぶ仲間たちを見た。
ハイタワー、ジョーンズ、フックス、タックルベリー、バーバラ。
入学した時には、誰も警官に向いていないと思われていた者たちだ。
「この男が、皆へ力を与えたわけではない」
「元から本人たちの力だよ」
「だが、誰の弱さも笑わなかった。仲間を小さく扱わなかった」
「それで皆が、あいつの隣に残ったのかもな」
ゼウスは少し考えた。
「アテナが気に入るであろうな」
「規則破って悪戯ばかりしてる奴だぞ」
「トロイアの木馬も、言い方を変えれば大がかりな悪戯だ」
「大がかりで済ませるな。国が滅亡してる」
「異なる力を持つ者を一つの隊にする。己の武功を求めず、都市を守るために動く」
「その言い方だと、すごい警察向きの男に聞こえるな」
「アテナは規律を守るだけの者より、規律が何を守るためにあるかを知る者を好む」
マホーニーが、表彰への言葉を述べるために演台へ立った。
話し始めた彼の顔が、途中で止まる。
演台の下には、ラサールが用意したあの女がいた。
仕返しに気づいたマホーニーは、声を震わせながら話を続ける。
ゼウスが再び笑い出した。
「よい学長ではないか。受けた悪戯を、よりよい形で返した」
「教育者として評価する部分じゃない」
「互いに笑える形で報復したのだからよいではないか」
「古代人、セクハラ研修で死ぬほど怒られそう」
エンドロールが始まった。
*
ゼウスは、耐熱皿に残った焦げたチーズをフォークで剥がした。
「青い牡蠣の店はこの国にはないのか?」
「ない。アメリカにもない。映画の中だけの店だ」
「残念だ。初めての者にも踊りを教える、よい店だった」
「お前が行ったら、別の意味で事件になる」
「同じ装束を用意する必要があるな」
「革の服を買おうとするな。似合いすぎるからやめろ」
「髭は今のままでよいか?」
「あの店はないって言ってるだろ。具体的に準備を始めるな」
ゼウスは白ワインを飲み干し、最後の牡蠣を口へ入れた。
神々の王はブルーオイスターが映画の中にしか存在しない事を残念がっていた。
神話メモ
◾️アテナ・ポリアス
アテナ・ポリアスは、「都市のアテナ」を意味する呼称である。アテナは戦いの女神であると同時に、都市の秩序や防衛、技術、知恵を守る女神でもあった。個人の腕力よりも、策略や統率、共同体を守るための判断と深く結びついている。
◾️アマゾネス
ギリシャ神話に登場する女性戦士の民。弓や槍、馬術に優れ、ヘラクレスやテセウス、アキレウスらと戦った。ギリシャ人にとっては、遠方に住む強力な異民族であると同時に、英雄が越えるべき相手として描かれた。
◾️アイティオペス
古代ギリシャ人が、世界の遠方に住む人々として語った民。叙事詩では神々を手厚くもてなす敬虔な人々として描かれ、ゼウスやポセイドンらが彼らの宴や犠牲に参加する。現代の人種区分と、そのまま対応する概念ではない。
◾️エリスの黄金の林檎
争いの女神エリスは、神々の婚礼へ招かれなかったことに怒り、「最も美しい女神へ」と記した黄金の林檎を宴席へ投げ入れた。ヘラ、アテナ、アフロディーテが所有を争い、パリスの審判を経て、トロイア戦争へつながったとされる。
◾️古代ギリシャ喜劇
古代ギリシャの喜劇では、政治家や知識人、神々までが笑いの対象になった。性的な冗談や排泄、放屁、誇張された身体表現も多く、権威ある者を下品な状況へ落とす笑いが盛んに用いられた。
◾️古代ギリシャの名誉と侮辱
古代ギリシャでは、他者から認められる名誉が、英雄や戦士の社会的な立場と強く結びついていた。正当な功績を認めないことや、公衆の前で相手を侮辱することは重大な争いの原因となる。叙事詩でも、傷つけられた名誉への怒りが戦いや報復を引き起こしている。




