第34話 スパイダーマン
※本編では映画の結末を含むネタバレがあります。
映画紹介
公開年:2002年
監督:サム・ライミ
主演:トビー・マグワイア
気弱な高校生ピーター・パーカーは、研究所で一匹の蜘蛛に噛まれる。翌朝、彼の身体には大きな変化が起きていた。突然手に入れた力を自分の望みのために使おうとするピーターだったが、一つの悲劇を境に、その力が持つ意味と向き合い始める。
俺はサンドイッチとリンゴ、カップに入った赤いゼリーをテーブルへ並べた。
その横へ、牛乳の代わりに缶のミルクサワーを置く。
ゼウスが缶を持ち上げた。
「これは酒か?」
「乳酸系のサワー。どうせ牛乳を出しても、酒はないのかって言うだろ」
「牛の乳も魅力的だが、宴ならば酒だ」
「最近、本当に遠慮がなくなったな」
ゼウスは缶を開け、一口飲んだ。
「よい。乳と酒、どちらも供物にできる。スキタイ人は牝馬の乳から酒を作ったが、牛の乳で作るならば、私はこれを選ぶ」
「紀元前の遊牧民を引き合いに出されたら、現代の飲料メーカーも困惑するわ」
ゼウスはもう一口飲み、サンドイッチを手に取った。
「今日の物語は何だ?」
「『スパイダーマン』」
「蜘蛛の男か。人なのか、蜘蛛なのか?」
「見てろ」
俺は再生ボタンを押した。
*
高校生のピーター・パーカーは、写真を撮ることが好きな、おとなしい少年だった。
両親はおらず、叔父のベンと叔母のメイに育てられている。幼い頃から隣に住むメリー・ジェーンへ思いを寄せているが、まともに声をかけることもできない。
学校の見学で訪れた研究所には、遺伝子を組み替えられた蜘蛛が並んでいた。
そのうち一匹が展示ケースから消えている。
蜘蛛は天井から糸を垂らし、写真を撮っていたピーターの手へ降りた。
手の甲を噛む。
ピーターは手を振り、赤くなった場所を見た。
ゼウスが眉を寄せた。
「噛まれたぞ」
「見れば分かる」
「毒を持っておらぬのか?」
「さてな」
蜘蛛は糸を伝い、天井の影へ消えた。
家へ帰ったピーターは熱を出した。
食事も取らず、自分の部屋へ上がる。そのまま床へ倒れ、動かなくなった。
「毒を持っていたではないか。この若者は死ぬのか?」
「まあ見てろって」
*
同じ夜、ピーターの親友ハリーの父、ノーマン・オズボーンは会社の研究室にいた。
軍へ提供するため、人間の筋力や反射速度を高める薬を開発している。
だが実験動物には、攻撃性の増大や狂気に近い症状が確認されていた。
研究員は人体実験を止めようとした。
軍との契約を失う期限が迫る中、ノーマンは自分の身体で薬を試すと決めた。
ゼウスが頷いた。
「配下へ危険を負わせず、長が先に試すか」
「周りは止めてるけどな」
「己の作った物ならば、己が受けるのは道理だ」
「思想としては分かるけど治験としては最悪」
ノーマンの身体が装置へ固定された。
薬が注入され、緑色のガスが室内を満たす。
心拍が止まった。
研究員が慌てて装置を開ける。
ノーマンは突然目を開き、研究員の首をつかんだ。
翌朝、研究員は死体で見つかった。
*
朝になり、ピーターが目を覚ました。
眼鏡をかけなくても、部屋の端まで見える。
鏡の前で服を脱ぐと、痩せていた身体には筋肉がついていた。
ゼウスが画面へ顔を近づける。
「こちらの若者も変わっておるぞ」
「昨日は熱を出してただけだったのにな」
学校では、メリー・ジェーンが足を滑らせた。
ピーターは彼女の身体を抱き止め、宙へ飛んだ盆も片手で受け止める。
サンドイッチ、リンゴ、牛乳、ゼリーが、すべて盆へ戻った。
ゼウスは画面とテーブルを見比べた。
「このために、この食事を用意したのか」
「ああ。牛乳だけミルクサワーにした」
ゼウスは満足そうに缶を持ち上げた。
「よい選びだ。物語の食事を楽しみながら、酒も飲める」
「お前なら牛乳より、こっちを選ぶと思ったからな」
「私をよく分かっているではないか」
「毎回、酒を要求されてればな」
ピーターへ拳が飛んだ。
後ろから殴られても、身体が動く前に危険を感じ取る。
相手の拳を避け、宙へ跳び、軽く押しただけで何メートルも吹き飛ばした。
「半神のようだ。蜘蛛の毒の影響か?」
「神話の物差ししかないのか」
家へ戻ったピーターは壁へ手をつけた。
指先から細い毛が伸び、身体が壁へ張りつく。
そのまま建物を登った。
屋根へ上がったピーターは、手首を前へ突き出した。
空を飛ぶヒーローの決め台詞らしいものを叫び、指の形を変え、何度も腕を振る。
何も出ない。
ゼウスが首を傾げた。
「誰に命じておるのだ?」
「本人も分かってないんだろ」
「授けた神の名も知らず、力だけ使おうとしているのか」
「だから神じゃないって」
ピーターが偶然、指を折り曲げた。
手首から白い糸が飛び出し、向かいの建物へ貼りついた。
「出たぞ」
「呪文、全部いらなかったな」
何度か試すうち、ピーターは狙った場所へ糸を飛ばせるようになった。
ゼウスが身を乗り出した。
「蜘蛛の糸まで出せる。人の姿を残したまま、蜘蛛の性質だけを得たのか」
ゼウスはピーターの手から伸びる糸を見た。
「あの蜘蛛は、どの神が遣わした? もしや、姿を変えた神か?」
「神じゃなくて、科学が作った蜘蛛だよ」
「人の手で作った蜘蛛が、噛んだ者へ力を授けたのか」
「たしかに結果だけ見れば神話なんだよな」
ゼウスは少し考えた。
「ならば、我が聖鳥にも神を噛ませてみるか」
「EXCUSE ME?」
「何か起こるやもしれぬ。まずは私が試そう」
「それ、犬鷲の方が神を噛んだ罪で、呪われたり罰を受けたりしないか?」
ゼウスの顔から興奮が消えた。
「それは困る」
「聖鳥は大事なんだな」
ゼウスは俺を見た。
「人間、お前はどうだ。望むなら犬鷲を寄越すぞ」
「絶対にやめろ。 望んでない。何一つ望んでない」
「空を飛べるようになるかもしれぬぞ」
「本当にそうなるかもしれないからやめろ。人間辞めさせる気か」
「蜘蛛の男より、鷲の男の方が勇ましいぞ」
「名前の問題じゃねえよ」
ピーターは糸へぶら下がり、屋根から飛び出した。
壁へ激突した。
次は洗濯物へ突っ込んだ。
ゼウスが腕を組んだ。
「飛べても、最初はああなるようだな」
「なおさら嫌だよ」
「鷲ならもっと上手く飛べる」
それでもピーターは繰り返し、少しずつ身体と糸を扱えるようになっていった。
「アラクネは人から蜘蛛へ変えられたが、こちらは人のまま蜘蛛になったか」
「処罰で人を動物にするの、ほんと良くないと思うぞ」
「私ではない。アテナに言え」
「お前はやってないのか?」
「リュカオンを狼へ変えたことはある」
「お前もやってんじゃねえか」
「神々へ人肉を供した男だぞ。相応しい罰だ」
「思ってたより罪に相応しい罰だった」
一方、ノーマンには研究員を殺した記憶がなかった。
だが軍が別の会社の兵器を採用しようとした夜、緑色の鎧をまとった何者かが試験場を襲った。
飛行する兵器へ乗り、爆弾で人と機械を吹き飛ばす。
ノーマンが次に目を覚ました時、また何も覚えていなかった。
「こちらは、薬とともに狂気まで得たか」
「本人には何をしたか分かってない」
「アテーに心を奪われた者のようだな」
「誰だよ?」
「人の判断を曇らせ、破滅へ進ませる迷妄だ。神も英雄も、取り憑かれれば己の手で家を壊す」
「科学の薬から神話の災いを出してくるな」
*
ピーターが力を使って最初に手に入れようとしたのは、メリー・ジェーンへ見せるための車だった。
新聞で賞金付きの格闘試合を見つけ、覆面をかぶって出場することに決めた。
ベンは、図書館へ行くと言うピーターを車で送った。
ベンは車の中でピーターを諭していた。
最近の変化に戸惑う甥へ、大いなる力には大いなる責任が伴うと伝える。
ピーターは、父親のように振る舞うなと反発して車を降りた。
ゼウスが頷いた。
「力を持つ者ほど、その使い道を問われる。当然の話だ」
俺はゼウスを見た。
「何だ」
「お前が当然って言うと、この言葉の信用が急に落ちるな」
「なぜだ?」
「神話を見ろ」
「私は神々の王として責任を果たしておる」
「雷で家電を壊した時にも思い出せよ」
ピーターは車を降り、そのまま格闘会場へ向かった。
覆面をかぶり、賞金付きの試合へ出場する。
ピーターは「ヒューマン・スパイダー」と名乗るが、リングアナウンサーが勝手に「アメイジング・スパイダーマン」へ変える。
「名を変えられたぞ」
「ヒューマン・スパイダーよりはいいだろ」
「本人の許しもなく英雄の名を決めるのか?」
「しかも、その名前で一生やってくことになる。しかし、お前、プロレス好きそうだよな」
「観衆の前で力と技を競い、勝者には財が与えられるのであろう。嫌う理由がない」
「古代ギリシャと相性良すぎるな」
だが興行主は約束した賞金を払わなかった。
直後、強盗が売上金を奪って逃げる。
ピーターは目の前を通り過ぎる強盗を止めなかった。
自分を騙した興行主へ仕返しをしたつもりだった。
「力を持ちながら、見逃したか」
「金を払わなかった相手を助ける義理はないってことだろ」
「盗人を止めるのに、その男への義理は関係ない」
「ピーターの頭の中では「興行主を助けない」なんだけど、実際にやってるのは「強盗を止めない」なんだよな」
その夜、ベンが路上で撃たれた。
車を奪った犯人を、ピーターは追いかけた。
壁を登り、屋根を飛び越え、倉庫へ逃げ込んだ男を追い詰める。
顔を見たピーターの動きが止まった。
格闘会場で、自分が見逃した強盗だった。
男は足を滑らせ、窓から落ちた。
ゼウスは画面を見たまま口を開いた。
「己を侮った男へ報いるため、盗人を見逃した。その盗人が、家へ死を運んできたか」
「ピーターが殺したわけじゃない」
「だが、止められた。力を使わぬことも、この男が選んだのだ」
警察が到着する。
ピーターは壁を登り、誰にも見つからない場所で泣いた。
*
ピーターは赤と青の服を作り、顔を隠した。
街で強盗を捕らえ、人を助け、ビルの間を糸で飛び回る。
人々は彼をスパイダーマンと呼び始めた。
だが新聞社の社主は、スパイダーマンを覆面の危険人物として紙面に載せた。
ピーターは自分で撮ったスパイダーマンの写真を売り、わずかな金を受け取る。
「己の働きを撮った絵を売り、ようやく日々の糧を得るのか」
「ヒーローとしては無給だからな」
「空を飛ぶ男も褒美を求めなかったが、あちらには家も仕事もあった。この若者は、人を救うほど自分の暮らしが削られているぞ」
「新聞には悪人扱いされてるしな」
「財も名誉も得られぬ。なぜ続ける?」
その頃、ノーマンは会社の役員たちから、自分が作った会社を追い出されようとしていた。
鏡に映った自分の姿が、ノーマンへ話しかける。
研究員を殺し、軍の試験場を襲ったのは、薬によって生まれたもう一人の人格だった。
ノーマンは緑色の仮面と鎧を身につけ、グリーン・ゴブリンとして役員たちを襲った。
街の祭りへ爆弾を投げ込み、巻き込まれたメリー・ジェーンをスパイダーマンが助ける。
「力を得た二人が、同じ場所へ来たか」
「片方は助けに。片方は殺しに」
「ならば、蜘蛛はやはり神の祝福だったのだな」
「だから科学だって」
後日、グリーン・ゴブリンはスパイダーマンを捕らえ、共に手を組もうと誘った。
力を持つ者は、やがて普通の人間から恐れられる。ならば弱い者に仕えるのではなく、その上に立てばよい。
ゼウスは腕を組んだ。
「力を持つ者が、弱い者の上に立つ。考え自体は分かる」
「分かったらダメだろ」
「だが、あの男は民を守らず、恐れさせている。王ではない」
「毎回そこは厳しいな」
「力を示すだけなら、怪物にもできる」
スパイダーマンは誘いを断った。
*
ピーターたちは、メイおばさんの用意した感謝祭の食事へ集まった。
食卓には、大きく焼けた七面鳥が置かれている。
マッシュポテトや野菜、ソースの皿も並んでいた。
ゼウスが画面と自分の皿を見比べた。
サンドイッチは、もう半分しか残っていない。
「食事は話に合わせたと言ったな。なぜ、こちらにしなかった!」
「七面鳥焼くわけねえだろ!」
「焼け!」
「まず売ってねえよ! 売ってても、こんなでかい物を焼くオーブンがねえよ!」
「探したのか?」
「探すまでもない」
「ならば、ないとは言い切れぬ」
ピーターは食事へ遅れてきた。
その直前まで、火事の建物でグリーン・ゴブリンと戦っていたため、腕には傷が残っている。
ノーマンは、その傷を見た。
グリーン・ゴブリンがスパイダーマンへつけた傷と、同じ場所だった。
ノーマンの目がピーターへ向く。
「気づいたぞ」
「みたいだな」
「この食事へ遅れたことで、正体が知られたのか」
「あと傷だな」
ピーターがメリー・ジェーンへ思いを寄せていると知ったノーマンは、グリーン・ゴブリンとして彼の大切な者を狙い始めた。
メイおばさんを襲い、病院へ送る。
最後には、メリー・ジェーンと子供たちを乗せた乗り物を橋から吊り下げた。
グリーン・ゴブリンは、スパイダーマンへどちらか一方を選べと迫る。
そして、同時に手を放した。
「どちらを救うか選ばせるのか」
「片方を選べば、もう片方が死ぬ」
ピーターは先にメリー・ジェーンを受け止めた。
もう片方の腕から糸を放ち、落下する乗り物もつかむ。
ゼウスが身を乗り出した。
「選ばぬか」
「両方助けるつもりだ」
「怪物の定めた二つの道を、力で壊したな」
「トロッコ問題を筋力と蜘蛛糸で破壊したな」
橋にいた人々も、スパイダーマンに加勢した。
グリーン・ゴブリンは退き、ピーターを廃墟へ連れ込んだ。
二人は殴り合った。
仮面を外したグリーン・ゴブリンの顔を見て、ピーターは動きを止める。
ノーマンは正気へ戻ったふりをして、助けを求めた。
その背後では、飛行する兵器がピーターを狙っている。
「騙しておるぞ」
「ピーターは気づいてない」
兵器が飛んだ。
直前に危険を感じたピーターは、身体をかわした。
刃はそのままノーマンの身体を貫いた。
「己の武具で死んだか」
「最後まで力の使い方を間違えたな」
「他者を殺すために操った武器が、その欺瞞ごと本人へ戻る。まさしく自ら招いた破滅だ」
死の間際、ノーマンはピーターへ、息子のハリーには何も言わないでほしいと頼んだ。
ピーターはノーマンの遺体を家へ運んだ。
そこへハリーが現れる。
父の遺体と、その前に立つスパイダーマンを見た。
葬儀で、ハリーは父を殺したスパイダーマンへ復讐すると誓った。
「息子ならば、父の仇を討とうとするのは当然だ」
「事情を確認しろ。自分の武器で死んだんだぞ」
「息子は見ておらぬ」
「だから先に調べろって言ってんだよ」
*
葬儀の後、メリー・ジェーンはピーターへ思いを告げた。
ピーターも、ずっと彼女を思っていた。
だが自分のそばにいれば、また敵に狙われる。
ピーターは気持ちを隠し、友人でいると答えた。
ゼウスが眉を寄せた。
「財も名誉も得られず、愛する女まで遠ざけるのか」
「スパイダーマンでいるためにな」
「誰も命じておらぬぞ」
「自分で決めた」
ピーターはベンの言葉を思い出した。
大いなる力には、大いなる責任が伴う。
赤と青の姿が、ニューヨークのビルの間を飛んでいく。
エンドロールが始まった。
ゼウスは空になったミルクサワーの缶を置いた。
「結局、この蜘蛛の力は祝福だったのか?」
「蜘蛛が与えたのは、力だけだと思う」
ゼウスは画面へ目を向けた。
「祝福にしたのは、この男の選び方か」
「なら、呪いにもなった?」
「緑の男にとっては呪いだった」
*
俺が皿を重ねていると、ゼウスが言った。
「人間よ。お前への褒美を、炉にするか」
「何の話だ?」
「ヘラから命じられた褒美だ。今日のような鳥も焼ける」
「オーブンなら、もう持ってる。と言うか、お前が壊した時に買い直したオーブンレンジだ。買ったばかりだぞ」
「あの小さな箱ではない。ヘスティアへ言えば、立派なものを用意できるであろう」
「そもそも薪で焼くやつだろ?」
「当然だ。炉であろう」
「その時点で、この部屋じゃ無理。それに、どのくらいの大きさだ」
ゼウスが満足そうに頷いた。
「よい質問だ。私の名を使った褒美だ。牛を何頭も丸々焼ける――」
「却下」
「まだ最後まで言っておらぬぞ」
「俺の部屋よりでかいだろそれ」
「七面鳥も焼けるぞ」
「問題が七面鳥よりでかくなってんだよ」
ゼウスは部屋の隅にあるオーブンレンジを見た。
「やはり小さいな」
「買ったばかりだって言ってるだろ」
「牛は無理であろう?」
「牛を基準に家電を見るな」
「ならば、次は七面鳥を焼けるものにせよ」
「おい、壊す前提で話すな」
ゼウスは両手を広げ得意げな顔をした。
「大いなる神をもてなすには、大いなる炉がいる」
「その顔やめろ。ぜんぜん上手い事言ってないからな」
神々の王は、褒美を諦めていなかった。
俺の希望を聞くことだけは、今回も責任に含まれていないらしい。
翌日俺は、ネット通販で七面鳥を見つけたが、値段と重量を見てそっと閉じた。ゼウスにも黙っていようと決めた。
神話メモ
◾️アラクネ
アラクネは、織物の技に優れた女性である。女神アテナにも劣らないと自負し、織物の競技を行った末に蜘蛛へ変えられたとされる。最もよく知られる物語は、ローマの詩人オウィディウスが『変身物語』で伝えたものである。
◾️リュカオン
リュカオンは、アルカディアの王とされる人物である。ゼウスが神であるか試すため、人肉を料理へ混ぜて供した。怒ったゼウスはその家を雷で破壊し、リュカオンを狼へ変えたとされる。狼を意味するギリシャ語と結び付けて語られた。
◾️アテー
アテーは、人の判断を曇らせ、過ちや破滅へ導く迷妄を神格化した存在である。『イリアス』ではゼウスの娘とされ、ゼウス自身も欺かれたため、髪をつかんでオリュンポスから地上へ投げ落とした。神や英雄が理性を失い、自ら災いを招く状態とも結び付けられた。
◾️ヘスティア
ヘスティアは、炉と家庭、家を守る火を司る女神である。ゼウスの姉にあたり、争いを避け、処女神であり続けたとされる。家庭の炉だけでなく、都市共同体の公共の炉とも結び付き、供犠では最初と最後に捧げ物を受ける神として尊ばれた。
◾️スキタイ人と馬乳
スキタイ人は、黒海北方の草原地帯を中心に暮らした騎馬遊牧民である。家畜の肉や乳を利用し、とくに牝馬の乳を飲んだことで知られる。ヘロドトスは、搾った馬乳を木の容器へ入れて攪拌する工程を記しており、発酵させた馬乳酒に近い飲料も利用された。




