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20/30

第20話 ライオン・キング

映画紹介


公開年:1994年

監督:ロジャー・アラーズ、ロブ・ミンコフ

主演:マシュー・ブロデリック(声)


動物たちが暮らす広大な王国、プライド・ランド。


王ムファサのもとに、王子シンバが誕生する。誰もが未来の王を祝福する一方、王位を狙う叔父スカーは密かに陰謀を巡らせていた。


故郷を離れた若き獅子が、仲間との出会いを通して成長し、自らの進む道を見つけていく物語。

ゼウスは現れるなり、深いため息をついた。


「どうした」


「アレースが宴で、アポロンと席を争ってな」


「何で?」


「どちらが私の隣へ座るにふさわしい息子かと」


「お前が決めろよ」


「決める前に卓をひっくり返した」


「息子というより災害だな」


「アポロンも余計なことを言ったのだ」


「何て?」


「声の大きさと勇気を混同するな、と」


「正論じゃん」


「正論を言われたアレースが槍を抜いた」


ゼウスはもう一度ため息をついた。


「父というものは難しい」


「お前の場合は難易度を自分で上げてるだろ。まあ、今日見ようと思ってたのと合うかもな」


ゼウスが顔を上げた。


「何を見る?」


「『ライオン・キング』」


「獅子の王か。獣を治める話だな」


「だいたい合ってる」


「人間の王は出ぬのか?」


「一人も出ない」


俺は冷蔵庫から料理を出した。


厚切りのローストビーフ。カマンベールチーズ。葡萄。小さなパン。


赤ワインも開ける。


食後にはモンブランを用意してあった。


ゼウスはテーブルを見回した。


「今日は随分並べたな」


「王の話だから、それっぽくした」


「葡萄酒、肉、乳、果実。悪くない」


「全部合わせても外食一回分くらいだけどな」


「値段を言うな。宴が小さくなる」


ゼウスはローストビーフを一枚取った。


「牛だな」


「そこはいつも通りだな」


俺もグラスを持ち、映画を再生した。


     *


地平線から朝日が昇る。


歌声が響き、草原の動物たちが同じ場所を目指して歩き始めた。


象。麒麟。鳥。


ゼウスが目を細めた。


「待て。これは絵か?」


「アニメーション。絵を続けて動かしてる」


「人間は壁画まで歩かせるようになったか」


「壁画ではないけどな」


走る動物の群れを、ゼウスはしばらく見つめた。


「動きがよくできている」


「初めて見る割に冷静だな」


「ヘファイストスなら、青銅で同じものを作る」


「動く動物を?」


「人を殺す機能も付ける」


「映画に対抗して兵器を作るな」


     *


動物たちは巨大な岩場へ集まった。


岩の上には王ムファサと王妃サラビがいる。


ラフィキが王子シンバを抱き上げ、空へ掲げた。


歓声が上がる。


草原を埋めた動物たちが、一斉に頭を下げた。


「王の子を、民と天へ見せる儀式か」


「そういうことだろうな」


「神官もいる。手順がよい」


「猿だけどな」


「獣の国なのだろう。獅子が王なら、猿が神官でもよい」


ゼウスは頭を下げる群れを眺めた。


「ところで、あの鹿は帰りに食われぬのか?」


「ガゼルか?そこは考えるな」


「王子の誕生を祝いに来て、王族の夕食になるのか?」


「そうやって見る映画じゃない」


「獣に礼儀を求める方が無理ではないか」


「寓話だから成立するんだよ」


「イソップも狐や烏へ話をさせていたな」


「イソップって古代ギリシャ人だったのか?」


「知らなかったのか?」


「もっと雑に中世ヨーロッパだと思ってた」


「お前は人間の歴史を雑に扱うな」


「神に言われたくない」


     *


成長したシンバは、父と王国を歩いた。


動物たちは自然に道を開ける。


「獣達が道を開けている」


「王だからだろ」


「恐れている顔ではない」


「動物の顔で分かるのか?」


「絵であろう。人間が分かるように描いている」


「急にアニメを理解したな」


ムファサは、日の光が届く場所がすべて王国だと教える。


その外へ行ってはならないとも告げた。


「絶対行くだろうな」


「子供だからな」


「止められた子は行く」


「アレースも?」


「特に行く。行って戦を始める」


「最悪だ」


     *


シンバは王になる日を楽しみにしていた。


歌いながら、自分が王になれば誰の命令も聞かず、好きなことができると宣言する。


ゼウスが俺を見た。


「急に歌うのだな」


「ミュージカルだから」


「芝居の途中で歌うのか」


「そういうジャンルの映画なんだよ」


シンバは動物たちの上を渡り歩き、高い場所へ立った。


「王になれば自由になれると思っているな」


「子供だから」


「王ほど勝手に動けぬ者もいないぞ」


「お前は結構勝手に動くけどな」


「私は神々の王だ」


「なら、もっと縛られるべきだろ」


ゼウスは答えず、最後まで歌を聞いた。


「面白い」


「気に入った?」


「皆で歌えば、誤った考えでも立派に聞こえる」


「嫌な見方するな。応用もするなよ」


     *


ムファサはシンバへ、王国の命が巡っていることを教えた。


獅子は草食動物を食べる。


だが獅子も死ねば土へ還り、草を育てる。


その草を、草食動物が食べる。


「王も死ねば草になるのか」


「そういう話だな」


「王が民を食い、最後には民へ返る。よくできた秩序だ」


「食い方が直接的だけどな」


「食う者も、食われる者も、同じ輪の中にいるのか」


ゼウスはムファサを見た。


「この王は、自分だけを秩序の外へ置かぬのだな」


「良い王だろ」


「今のところはな」


     *


叔父のスカーは、シンバを象の墓場へ誘導した。


近寄ってはならないと言われた場所だ。


シンバはナラを連れ、こっそり王国の外へ向かった。


「行ったな」


「行ったな」


「子はなぜ、行くなと言われた場所へ行く?」


「お前の息子を見れば分かるだろ」


「分からぬから困っている」


象の墓場で、二頭はハイエナに囲まれた。


逃げ道を失ったところへ、ムファサが飛び込んでくる。


ハイエナを追い払い、シンバたちを救った。


帰り道。


ムファサはシンバと二人きりになった。


「叱るか」


「当然だろ」


ムファサは、怖かったと認める。


だが勇敢であることは、自分から危険を探しに行くことではないと教えた。


ゼウスが腕を組んだ。


「聞いたか、アレース」


「ここにいないぞ」


「後で言う」


「本人に言う頃には忘れてそうだな」


「忘れぬ」


     *


夜。


ムファサはシンバと星空を見上げた。


偉大な王たちは、死んだ後も星となって子孫を見守る。


シンバが孤独を感じた時も、父と過去の王たちは空にいる。


ゼウスがパンをちぎる手を止めた。


「王は皆、星になるのか?」


「シンバへそう教えてるんだろ」


「詩人の言葉だな」


「違うのか?」


「人間や獣を星へ上げる話はある。だが、死んだ王をすべて空へ置いていたら、夜が王で埋まるぞ」


「嫌な空だな」


「死者の名を空へ置けば、子は見失わぬ。そのための話であろう」


「夢があるんだか、ないんだか」


「星にならずとも、教えた言葉は残る」


ゼウスはそう言って、ワインを飲んだ。


     *


スカーはハイエナを集めた。


緑色の光。


岩壁に伸びる影。


ハイエナたちが隊列を組み、スカーの歌に合わせて進んでいく。


ゼウスが少し身を乗り出した。


「この獅子はうまいな」


「歌が?」


「腹を空かせた者へ、敵と食物を同時に見せた」


スカーは自分へ従えば、ムファサのいない新しい時代が来ると約束する。


「従えば満たされると思わせている」


「王っぽい?」


「違う。扇動者だ」


「褒めてなかったのか」


「腕前は認める。王にはしたくない」


炎を背に、スカーの影が大きく伸びる。


「見せ方も心得ている」


「悪党だけどな」


「悪党が下手であるとは限らぬ」


     *


スカーの策略によって、峡谷へ大群が押し寄せた。


谷底に取り残されたシンバは、逃げる場所を失う。


ムファサは崖を駆け下りた。


群れをかき分け、息子を助ける。


だが、自らは崖へしがみついた。


その上にスカーが立つ。


ゼウスがグラスを置いた。


「兄を助けぬのか」


スカーはムファサの前脚へ爪を立てた。


そして、崖の下へ突き落とした。


俺もゼウスも口を開かなかった。


群れが去った後、シンバは父の亡骸へ近づく。


身体を揺する。


何度も呼びかける。


ムファサは動かなかった。


     *


スカーは、ムファサが死んだのはシンバのせいだと思わせた。


罪を知られたくなければ逃げろと言う。


シンバは王国を去った。


「子に、父を殺したと思わせるか」


ゼウスの声が低くなった。


「自分で殺しておいてな」


「子供へ背負わせる罪ではない」


「戻れなくなるな」


「ああ」


画面の向こうで、シンバは一人で荒野を歩き続けた。


     *


倒れたシンバを、ティモンとプンバァが見つけた。


水を飲ませ、住む場所へ連れていく。


食べ物まで分け与えた。


「素性も知らぬ子を助け、食事を与え、家へ入れた」


「お前の好きなやつ?」


「クセニアだ。奇妙な二匹だが、客人の扱いを知っている」


「虫を食わせてるけどな」


「その土地の食物であろう。もてなしとは、あるものを分けることだ」


二匹は、過去を悩まず気楽に生きる考え方を教えた。


歌が始まる。


ゼウスは首を傾げた。


「また歌ったぞ」


「もう慣れただろ」


「歌は嫌いではない。だが、この言葉は王子へ教えてよいのか?」


「今は王子じゃなく、行き倒れの子供だからな」


ゼウスは歌う三匹を見た。


「生き延びるためなら、よい歌だ」


「王になるには?」


「足りぬ」


     *


時が流れ、シンバは大人になった。


何の責任も負わず、ティモンとプンバァと暮らしている。


ある日、腹を空かせたナラがプンバァへ襲いかかった。


シンバが飛び込み、二頭は争う。


やがて互いの正体に気づいた。


「友を食おうとしたぞ」


「ナラは事情を知らないから」


「獅子と猪の友情は維持が難しいな」


「腹が減るたびに友情に危機が訪れるからな」


ナラは、スカーが治める王国が荒れ果てていると伝えた。


シンバこそ本当の王だと説得する。


だがシンバは、自分には帰れないと言った。


ゼウスが眉を寄せた。


「もう子供ではないぞ」


「それでも、自分が父を殺したと思ってる」


ゼウスは短く息を吐いた。


「叔父の言葉が、まだ首へ巻きついているのか」


     *


ラフィキがシンバの前へ現れた。


意味の分からない言葉を投げ、突然杖で頭を叩く。


もう一度叩こうとした杖を、今度はシンバが避けた。


ラフィキは笑う。


過去は変えられない。


だが、そこから逃げるか、学ぶかは選べる。


ゼウスが笑った。


「良い老人だ」


「棒で殴っただけに見えるぞ」


「棒の方が学びが早い」


「現代の教育者に怒られるぞ」


     *


ラフィキに導かれ、シンバは水面を覗いた。


最初に見えたのは自分の顔だった。


やがて水が揺れ、その中へムファサの面影が重なる。


雲が開き、空に父の姿が現れた。


ムファサはシンバへ、自分が何者なのか思い出せと告げる。


シンバは空を見上げた。


ゼウスも黙って見ていた。


ムファサの姿は消える。


それでもシンバは、もう顔を伏せなかった。


「死んでも、父の言葉は残ったか」


「シンバが覚えてたんだろうな」


「ならば、よく教えていたのだ」


シンバは走り出した。


ゼウスが頷く。


「帰る顔になったな」


     *


プライド・ランドは荒れ果てていた。


草は枯れ、獲物もいない。


サラビは、食料を求めて群れを移すべきだとスカーへ訴える。


だがスカーは、自分に逆らうことを許さない。


サラビがムファサとは違うと言うと、スカーは彼女を殴り倒した。


ゼウスの顔が変わった。


「民が飢えているぞ」


「狩る獲物が残ってないんだ」


「それでも王座から動かぬのか」


「自分の王座しか考えてないんだろ」


「王座を守るため、国を食い潰したか。王冠へしがみついた獣だ」


「元から獣だけどな」


ゼウスはこちらを見た。


「今はそういう話ではない」


「お前に言われると腹立つ」


     *


シンバはスカーの前へ姿を現した。


スカーは、ムファサの死を再びシンバの罪として責める。


追い詰められたシンバの耳元で、自分がムファサを殺したのだと囁いた。


シンバの動きが止まる。


次の瞬間、スカーへ飛びかかった。


「ようやく真実を知ったな」


「長かったな」


「父の仇だけではない。奪われた国も取り戻さねばならぬ」


獅子とハイエナの戦いが始まった。


雨のない空の下で、炎が広がる。


シンバはスカーを崖際へ追い詰めた。


それでも殺さず、自分がされたように王国から去れと命じる。


「生かすのか」


「最後の機会だな」


スカーは従うふりをした。


灰をシンバの顔へ投げつけ、再び襲いかかる。


ゼウスがため息をついた。


「変わらぬな」


「最初から最後までな」


「家を壊し、自分の逃げ道も壊したか」


最後の争いで、スカーは崖の下へ落ちた。


     *


雨が降り始めた。


炎が消える。


シンバはプライド・ロックを登った。


頂上に立ち、王国へ向かって吠える。


動物たちがその声へ応えた。


ゼウスはゆっくりと頷いた。


「今は王だ」


「何が変わった?」


「血筋だけではない。一度逃げた場所へ、自分で帰ってきた」


やがて土地には緑が戻った。


獲物も戻り、王国に新しい命が生まれる。


ラフィキはシンバとナラの子を抱き上げた。


冒頭と同じように、空へ掲げる。


動物たちが一斉に頭を下げた。


映画はそこで終わった。


     *


照明をつけた。


ゼウスは空になった皿を眺める。


「どうだった?」


「良い王の話だった」


「シンバ?」


「その父もだ」


「スカーは?」


「歌のうまい簒奪者だ」


「歌のうまさは、最後まで評価するんだな」


「悪党にも学ぶべきものはある」


俺は食後のモンブランを出した。


ゼウスは山型の栗クリームを眺めた。


「山をイメージした菓子だ」


「よい形だ。オリュンポスか?」


「別の山だな」


「では王の山ではない」


「雰囲気だよ」


ゼウスは一口食べた。


「うまい」


「判断が甘味に屈したな」


     *


モンブランを食べ終えると、ゼウスは立ち上がった。


「帰る。アレースと話す」


「映画の受け売りか?」


「勇敢と喧嘩好きは違うと教える」


「ムファサみたいに?」


「私は神々の王だ。獅子に父親の務めを教わってはおらぬ」


「教わってたじゃん」


「参考にしただけだ」


ゼウスは腕を組んだ。


「まず、宴の卓をひっくり返した理由から聞く」


「最初にそこを聞けよ」


「それから勇気について教える」


「雲の中から話しかけるなよ」


「なぜだ?あれは良い演出だった。私の偉大さが伝わる」


「やっぱり、やろうとしてたか。普通に会って話せ」


ゼウスは少し考えた。


「父とは面倒だな」


「雲の中から話しかける方が面倒だろ」


ゼウスは嫌そうな顔をしたまま、夜の空へ帰っていった。


挿絵(By みてみん)

神話メモ


◾️アレース


戦争を司る神。ゼウスとヘラの子とされ、戦場における激情、流血、混乱を象徴する。勇猛である一方、感情のまま戦いへ飛び込み、傷を負って退く姿も描かれる。知略や規律を重んじる女神アテナとは、対照的な戦神として扱われることが多い。


◾️イソップ寓話


古代ギリシャで成立したとされる寓話群。伝説的な語り手イソップの名と結びつけられている。狐、狼、獅子、烏などの動物が人間の言葉を話し、その行動を通して欲望、傲慢、知恵、愚かさなどを描く。短い物語によって教訓を伝える文学として広く受け継がれた。


◾️クセニア


古代ギリシャにおける客人歓待の慣習。主人は訪れた者へ食事、寝床、保護を与え、客人も主人へ敬意を払うことを求められた。旅人が神の変装である可能性も考えられ、客人を粗末に扱う行為は神々への不敬とされた。ゼウスはゼウス・クセニオスの名で、この掟を守護した。


◾️王権と継承


ギリシャ神話では、王位の継承をめぐる親子や兄弟の争いが数多く語られる。ウラノス、クロノス、ゼウスの間でも支配権が奪われ、世代が交代した。王には家系や力だけでなく、共同体の秩序を守り、民へ公正な分配を行い、神々との関係を保つ役割が求められた。


◾️星座となった人物


ギリシャ神話には、神、人間、動物が死後や物語の終わりに星座へ変えられる伝承がある。英雄ヘラクレス、医神アスクレピオス、狩人オリオンなどが星と結びつけられた。星座となることは、人物の功績や悲劇を天空へ残し、その名を後世へ伝える表現でもあった。

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