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19/22

第19話 ウォッチメン

映画紹介


公開年:2009年

監督:ザック・スナイダー

主演:ジャッキー・アール・ヘイリー


1985年のアメリカ。かつてマスクをつけて犯罪と戦った者たちは、政府に認められた一部を除き活動を禁じられていた。そんな中、元ヒーローのコメディアンが何者かに殺される。事件を調べ始めたロールシャッハは、仮面をつけた者たちを狙う陰謀の存在を疑う。

「今日は『ウォッチメン』」


「見張る者たち、か。何を見張る?」


「そこまで聞くな。見てりゃ分かる」


テーブルにはチリドッグ、ポークビーンズ、コーラを並べた。


ゼウスがチリドッグを覗き込む。


「犬を食わせる気か」


「犬じゃない。パンにソーセージを挟んで、肉のソースをかけた料理」


「ならば犬と呼ぶな」


「それはアメリカに言え」


ゼウスは隣の皿を見る。


「これは?」


「ポークビーンズ。豚肉と豆を煮たやつ」


「これは名の通りだな」


「食う前から料理の信用を査定するな」


俺は映画を再生した。


     *


体格のいい老人が、高層マンションの一室でテレビを見ている。


部屋へ侵入した何者かが、老人へ襲いかかった。


二人は家具を壊しながら争い、老人は窓を破って地上へ落ちる。


「死んだか」


「三十階から落ちて生きてたら、そっちが本編になる」


「この老人が見張る者か?」


「さあな」


映画は数十年前へ飛び、仮面をつけた者たちの歴史を映し始めた。


銀行強盗を捕らえ、戦争へ参加し、政治家と並ぶヒーローたち。


やがて世代が変わり、社会から非難され、その活動を禁じられていく。


「最初の殺人から何年前へ戻った」


「五十年くらい」


「では、今は誰を見ている」


「仮面の連中の歴史。年代は下に出てる」


「人を覚える前に時代を変えるな」


「三時間あるんだ。置いていかれるぞ」


映像は再び1985年へ戻った。


警察は、殺された老人をエドワード・ブレイクと呼んでいる。


その夜、ロールシャッハが現場へ忍び込んだ。


「顔が落ち着かぬ」


「そう言うマスクだ」


「墨を水へ落としたようだ」


部屋を調べ、クローゼットの奥に隠された区画を見つける。


中には武器、写真、黒い革の衣装。


壁には、コメディアンと呼ばれた仮面の男の記事が飾られていた。


「死んだ老人は喜劇役者を名乗っていたのか」


「らしいな」


「一度も笑わせずに死んだぞ」


「殺人現場に笑いを求めるな」


     *


ロールシャッハは、かつて相棒だったナイトオウルの家へ向かう。


ナイトオウルが帰宅すると、壊された扉の奥でロールシャッハが缶詰の豆を食べていた。


ゼウスがポークビーンズの皿を指す。


「墨の男も豆を食っている」


「勝手に人の家へ入ってな」


「客人へ食事を出すのは主人の役目だ」


「鍵を壊して先に食ってたら客じゃない」


「盗人か」


「殺人事件を持ち込む豆泥棒かな。今のところ」


「もっと悪いではないか」


ロールシャッハは、コメディアンの血が付いたバッジをナイトオウルへ見せた。


誰かが、かつて仮面をつけていた者たちを狙っている。


だがナイトオウルは、ロールシャッハの考えすぎだと答える。


「梟の男は戻らぬのか」


「引退して太ったしな」


「鎧を大きく作れ」


「お前の解決策、毎回大きくしろだよな」


ロールシャッハは、オジマンディアスやドクター・マンハッタンのもとへも警告に向かう。


オジマンディアスは正体を公表し、かつての名を商品にして財を築いていた。


「英雄の姿を人形や箱へ印して売るのか」


「古代ギリシャでもお前の像とか売ってたんじゃないの?」


「もちろん売られていた。だが露店や祭でだ。この男がやってることは神殿で売るようなものだ」


「今だと本人の許可なく勝手に売る方のがダメだけどな」


「神殿は商売の場所ではない。今は違うのか?」


「……その質問には答えない」


マンハッタンは巨大な姿で研究を続けている。


全身が青く光り、手を触れずに巨大な装置を組み立てていた。


「この青いのは何だ」


「一人だけ本当に人間離れした力を持ってる」


「ほかの者は?」


「鍛えた人間」


ゼウスはロールシャッハとナイトオウルを思い出すように画面を見る。


「そもそも、なぜ裸なのだ」


「ギリシャ神話勢がそれ言う?」


「競技場なら構わぬ。よく鍛えられている」


「TPOがあったんだな」


マンハッタンは未来を見ることができる。


だが何らかの干渉によって、事件の先だけは見通せない。


ロールシャッハが食い下がると、マンハッタンは彼を施設の外へ移動させた。


ロールシャッハはすぐに扉へ戻る。


マンハッタンは、今度はさらに遠くへ飛ばした。


     *


コメディアンの葬儀が行われた。


棺を見つめる者たちの記憶を通して、彼の過去が映し出される。


場面は葬儀からベトナム戦争へ飛び、若いコメディアンとマンハッタンが現れた。


「喜劇役者が生きている」


「過去の回想だ」


「今度は誰の過去だ」


「マンハッタン」


「青い男か」


巨大なマンハッタンが戦場を歩き、兵士も戦車も一瞬で消していく。


その隣で、コメディアンは人間を殺し、戦争そのものを笑っていた。


「喜劇役者は戦を楽しんでいるな」


「世の中は全部冗談だと思ってる」


「ならば、なぜ国の命令に従う」


「給料が出るからじゃない?」


「思想より給与か」


「それをサラリーマンに言うなよ」


     *


マンハッタンはテレビ番組へ出演した。


記者たちは、彼の近くにいた人間が次々と癌になったと告げる。


会場の人間が後ずさり、質問が一斉に飛ぶ。


マンハッタンは何も答えず、その場から消えた。


次に映った時、彼は火星にいた。


赤い地面の上で、過去を思い返す。


かつて人間だったマンハッタンは、実験中の事故で肉体を失った。


循環器、骨格、筋肉。


数週間かけて自らの体を組み直し、青い姿で戻ってきた。


「死んだ者が、自分で体を作ったのか」


「そういうことらしい」


マンハッタンは火星の土から巨大な建造物を作り、遠く離れた地球を眺める。


ゼウスが頷いた。


「この青いのは神だな」


「神々の名簿へ入ったか」


「私が認めた。載ったのと同じだ」


「運営が雑だな」


「だが、なりたてだ。人間に恐れられた途端、地上を捨てた。人間の祈りと罵りを、まだ区別できておらぬ」


「ベテランならどうするんだ」


「罵った者へ雷を落とす」


「区別した結果がそれかよ」


     *


マンハッタンが地球を去った直後、オジマンディアスも暗殺者に襲われる。


彼は襲撃を生き延びた。


ロールシャッハの予想通り、仮面の者たちが狙われているように見える。


だがロールシャッハ自身は、かつての犯罪者の家で死体を発見し、警察に包囲された。


「墨の男が罠へ入ったぞ」


「殺人犯に仕立てられたんだ」


「他人へ警告して回った者が、一番不用心ではないか」


ロールシャッハは逃げ切れず、マスクを剥がされる。


その下から、小柄な中年男が現れた。


刑務所には、ロールシャッハが捕まえた犯罪者が何人もいた。


食堂で一人が刃物を抜く。


ロールシャッハは相手の腕を取り、熱した油を顔へ浴びせた。


囚人たちが一斉に下がる。


ロールシャッハは連行されながら、自分が囚人たちと一緒に閉じ込められたのではない。囚人たちが自分と同じ場所へ閉じ込められたのだと言い放つ。


ゼウスが腕を組む。


「牢まで自分の領地にしたか」


「半分くらい征服してるな」


「王の名は、こいつが名乗るべきではないか」


「刑務所で王を名乗ったら別の映画になるだろ」


「そっちの方が面白いだろう」


「映画が四時間になるぞ」


「この男は王ではない」


     *


マンハッタンと別れたシルク・スペクターは、引退していたナイトオウルのもとへ身を寄せる。


二人は再び衣装を身につけ、梟の形をした飛行船で夜の街へ出た。


「アテナの鳥を船にしたか」


「別にアテナへ許可は取ってないぞ」


「神の聖鳥を勝手に使ったのか」


「火炎放射器も付いてる」


ゼウスが頷いた。


「許す」


「判断が軽いな」


二人は燃える建物を見つけると、中へ入り、取り残された住人たちを救い出した。


「梟の男は、なぜ今まで引退していた」


「仮面を禁止されたから」


「衣装がなければ人を助けられぬのか」


「人間には気合いを入れる手順が必要なんだよ」


「儀礼のようなものか」


「ヒーローにはぴっちりした服って儀礼が必要なんだ」


「効果があるならよい」


「お前、その辺は寛容と言うか、おおらかだよな」


二人は続けて、ロールシャッハを刑務所から救出しに向かった。


だが到着した時には、ロールシャッハを殺そうとした囚人たちの方が減っていた。


「梟の男は、墨の男を助けに来たのか」


「そうだな」


「囚人を助けに来たように見える」


「俺も今そう思った」


     *


刑務所を脱出した直後、マンハッタンが現れ、シルク・スペクターを火星へ連れていく。


ナイトオウルはロールシャッハと調査を続けた。


二人はオジマンディアスの会社へ忍び込み、事件に関係する企業の記録を見つける。


ナイトオウルは、オジマンディアスが心酔する古代エジプト王ラムセス二世の名を暗証番号として入力した。


扉が開く。


「世界で最も賢い男の鍵が、好きな王の名なのか?」


「そこは言うな。ファンも見ないようにしてる」


「お前なら何にする」


「お前には教えねえよ」


「私の名を使う事を許そう」


「パスワードって王の名をつけるもんじゃないからな?あとお前の名前は推測されやすい文字列そのものだ」


二人は、オジマンディアスがいる南極の基地へ向かった。


一方、火星ではマンハッタンが、過去も未来も同時に見えると話していた。


「先が見えるなら、恋人との口論くらい避けられないのか」


「見えるだけで変えられないんだと」


「役に立たぬ神託だな」


「本人は全部決まってると思ってる」


「モイライの糸を眺めるだけか。ならば本人がいなくてもよい」


「神としての存在意義を消すな」


シルク・スペクターは、コメディアンが自分の父親だったと知る。


憎み合った二人から彼女が生まれた。


その偶然を見たマンハッタンは、人間一人が存在すること自体に価値があると考え、地球へ戻る。


「父の名を知らぬ子か」


「お前はこの話に触るな」


「なぜだ」


「ギリシャ神話が告訴状もって起き上がってくるぞ」


ゼウスは少し考えた。


「そうする」


「懸命な判断だ、全知全能」


     *


ロールシャッハとナイトオウルは、南極の基地でオジマンディアスと対面する。


オジマンディアスは、コメディアンを殺し、自分への暗殺を演出し、ロールシャッハへ罪を着せ、マンハッタンの周囲にいた者を癌にして地球から追い払ったと認めた。


目的は核戦争を止めること。


マンハッタンの力を利用した装置で世界の主要都市を破壊し、人類へ共通の敵を作る。


「話している間に止めろ」


「俺に言うな。映画見ろ」


オジマンディアスは、ロールシャッハたちが来るまで計画を待つつもりなどなかった。


装置は三十五分前に作動させた。


すべては、彼が説明を始める前に終わっていた。


ゼウスは画面を見たまま動かなかった。


「……終わっていたのか」


「そういうこと」


「敵へ策を語る前に終えた。性格は最悪だが、手順は正しい」


「感心するな」


「感心はする。褒めてはおらぬ」


直後、ニューヨークを含む大都市が消滅した。


一千五百万人が死に、世界はマンハッタンが人類を攻撃したと信じる。


アメリカとソ連は争いを止め、共通の敵へ備え始めた。


「全人類を残した。数は合う」


「お前その辺の計算ほんと冷酷だよな」


「王に必要な計算だ。だが、この男には誰が王の秤を渡した」


「そこなんだよな」


「王はその重さを自分で背負う。この男は都市を焼き、青い神へ罪を着せ、自分は高い部屋に戻る。秤を盗んだ帳簿係だ」


世界はマンハッタンを共通の敵とした。


「青いのをファルマコスにしたか」


「何それ」


「共同体の災いを一人へ背負わせ、外へ追い出す」


「あいつ、追い出される前から火星にいたぞ」


「手間まで省いたか」


     *


マンハッタンとシルク・スペクターは、破壊されたニューヨークへ戻る。


残された痕跡からオジマンディアスの仕業だと知り、南極へ向かった。


だが世界では、すでに国同士が争いを止めていた。


真実を明かせば、再び核戦争が始まるかもしれない。


ロールシャッハ以外は沈黙を選ぶ。


ロールシャッハは一人で基地を出た。


世界へ真実を知らせると言い張る彼を、マンハッタンが追う。


「青いのは、どうする」


「見てろ」


雪原で二人が向き合う。


青い光が走った。


ロールシャッハが消える。


それを見ていたナイトオウルが膝をついた。


ゼウスはコーラの瓶を置いた。


「青いのは、今初めて自分で人を裁いたな」


「最初がロールシャッハか」


「神は、最初の裁きで名が決まる」


マンハッタンは別の銀河へ向かうと言い残して去った。


場面は新聞社へ移る。


若い記者が、変わり者から届いた投書の束へ手を伸ばす。


その中には、ロールシャッハがコメディアン殺害からオジマンディアスを疑うまでの調査を書き残した日記があった。


「墨の男は先に送っていたのか」


「南極へ行く前にな」


「死体の山で作られた平和を壊すのか」


「かもしれないって話だ」

     *


映画が終わった。


ゼウスは残ったポークビーンズを食べた。


「誰が一番よかった?」


「梟の男だ」


「やっぱりそこか」


「良かったのではない。一番マシだった。女に狼藉をはたらかず、他の星に逃げず、死体の山を作らず、豆を盗まなかった」


「最後だけ評価基準がおかしい」


「豆泥棒は英雄がやることではない」


     *


俺は冷凍庫から、ガリガリ君のソーダ味を二本出した。


一本をゼウスへ渡す。


袋を見たゼウスが止まる。


「青いものは、もう見飽きたぞ」


「デザートだよ」


ゼウスも警戒しながら開け、一口かじる。


「冷たいな」


「アイスだからな」


食べ終わった後ゼウスは自分の棒をじっと見た。


「あたりと書いてあるぞ」


「マジ?さすがだな。引きが強い。それ出ると、もう一本同じのが貰えるんだよ」


「青い上に増えるのか」


「ガリガリくんをマンハッタンの象徴にしようとするな」


神々の王は、青い神より大事そうに当たり棒を持ち帰った。


挿絵(By みてみん)


神話メモ


◾️古代ギリシャの裸体競技


古代ギリシャの競技祭では、成人男性の競技者が裸体で参加する習慣があった。体へ油を塗って競技に臨み、鍛えられた肉体は美や徳の表現とも考えられた。運動場を指すギュムナシオンの名も、「裸」を意味するギュムノスに由来する。


◾️アテナと梟


アテナは知恵、戦略、工芸、都市の守護を司る女神。梟はアテナと結びついた鳥であり、アテナイの銀貨にも女神の横顔とともに刻まれた。夜間にも周囲を見る性質から、知恵や警戒を象徴する存在として知られる。


◾️モイライ


人間や神々の運命を司る三柱の女神。クロトは運命の糸を紡ぎ、ラケシスはその長さを割り当て、アトロポスは糸を断つとされた。ゼウスとモイライの力関係には異なる伝承があるが、神々も運命から完全には自由でないとする物語も多い。


◾️ファルマコス


共同体の穢れや災厄を特定の人物へ負わせ、都市の外へ追放する古代ギリシャの儀礼。疫病や飢饉などの危機に際して行われたとされる。選ばれた人物の扱いや、実際に殺害を伴ったかについては、都市や史料によって記述が異なる。


◾️オジマンディアス


古代エジプト王ラムセス二世の王名の一部が、ギリシャ語化されて伝わった名。ラムセス二世は長期にわたって統治し、巨大な神殿や像を各地へ残した。後世には、永遠を望んだ権力者と、やがて失われる栄華を象徴する名にもなった。

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