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追放された宮廷魔道具師、自作寝具で休んでいたら、王子の婚約者を寝取ってしまう  作者: 入月英一@書籍化


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第8話 剣聖×赤兎の極上毛布バフ=最速

 ダンジョンの地下二十層。  


 ここに君臨するエリアボス、『ドリーム・スパイダー』の部屋は、耳が痛くなるような静寂と、粘着質の白い糸に覆われた薄暗い空間だった。


 この巨大な蜘蛛は、何とも恐ろしい化け物だ。

 あの蜘蛛が、人間大か、それよりも少し大きいサイズだと言っただけで、その恐ろしさが伝わると思う。


 吐き出される糸に絡め取られれば、一巻の終わり。どんなに抗おうと抜け出すことは叶わず、頭から蜘蛛の餌食となり、むしゃむしゃと生きたまま齧られて死ぬことになる。


 唯一の攻略法とされるのが、火だった。


 蜘蛛糸は、火に弱い。なので、二十層のボスに挑むパーティは、高火力の火炎系魔法を使える魔法使いをパーティに入れるのが定石だった。


 が、俺たちのパーティに魔法使いはいない。いや、火を噴く魔道具を使い代替手段とすることも出来なくはないが、俺達にはそれができない理由があった。


 何せ、「糸」を燃やすわけにはいかなかったのだから。必要な素材を燃やしてしまっては、何のためにここまで来たのか分からない。


 普通なら絶望的な条件戦だが。

 しかし、俺もリリスも全く不安を感じていなかった。


「頼んだぞ、リリス」

「任せて、ユーイン。これが、極上ベッドを作ってもらうための、私の役割だもの。ちゃんと勤めを果たして見せるわ」


 リリスは何ら気負うことなく言ってのけた。頼もしい限りだ。

 と、そんなやり取りをしている間に、二十層のボスがお出ましになったらしい。


「リリス」

「うん……」


 ダンジョンの暗がりから現れたのは、案の定、巨大な蜘蛛だった、

 あちこちに張り巡らされた蜘蛛糸を伝う姿は、余りにおぞましい。いくつもある複眼《め》が、ぎょろりとこちらを向いた。


 エリアボスの威圧感に、ピリリと肌が粟立つ。

 巨大蜘蛛は、更に威嚇するように鳴き声を上げる。


 キシャアa……


 その鳴き声を、銀閃が黙らせた。

 哀れドリーム・スパイダーは、文字通り瞬殺され、細切れにされる。


 速いなんてモノじゃなかった。


 人類の最高峰、剣聖リリス。

 今の彼女の速さは、人の限界を超越していた。


 まだ地上にいた頃の、俺と出会う前の彼女では、こんな芸当はできなかっただろう。否、十八層までの彼女でも無理だ。しかし、今の彼女には、それができる。


【赤兎の極上毛布★★★】

 効果:リモコンを用いて、0.1℃単位でベッド内の温度を上げることが可能。また、この毛布で眠れば、目覚めてから16時間の間、「脱兎の加護」を付与。敏捷値が2倍に。



 そう、新たにベッドに組み込んだ神話級の寝具バフによる速度強化だ。


 脱兎の加護により、リリスの敏捷値は一時的に2倍。

 その踏み込みが、目にも留まらぬ速さと形容するのなら、彼女が振るう剣閃は最早何と形容すればいいのかも分からない。

 

 ドリーム・スパイダーにはご愁傷さまと言うしかない。相手が悪すぎた。


「どう? 約束通り、瞬殺したわよ、ユーイン」


 リリスは振り返ると、満面の笑みを浮かべた。


 あどけない笑顔も、瞬殺劇の後に見せられれば、ちょっと怖い。

 リリスを怒らせないように気を付けよう……。


「……ああ、ご苦労様。じゃあ早速、『ドリーム・スパイダーの極上絹糸』を探そうか」

「その辺の糸とは、別なんだよね?」


 リリスが天井、壁、足元に張り巡らされた糸を順繰り指差していく。


「そうだな。極上絹糸は、蜘蛛の巣の中でも、寝床としている部分の芯材に使われているんだ」

「ふーん……じゃあ別に、この辺の糸は燃やしちゃっても構わなかったんじゃない?」


 リリスがこてんと小首を傾げる。


「あのな……こんなに糸が張り巡らされてたら、どう延焼するかも予測できない。火なんて点けられるか。延焼の結果、極上絹糸まで燃えたら、悔やんでも悔やみきれないぞ」


 リリスは、成る程と頷く。


 そんなやり取りをしながら、二十層を探索していると、放射線状に張られた蜘蛛の巣を発見した。


「あとは、この巣の芯材を採取するだけだ……」


 俺はアイテムボックスから、柄に魔石を組み込んだナイフを取り出す。魔石のマナを喚起すると、刀身が熱を帯びる。

 そうして、熱したナイフで慎重に蜘蛛糸を解体していった。


「よしっ! 『ドリーム・スパイダーの極上絹糸』をゲットだ!」

「やったわね、ユーイン!」


 小躍りしたい気分だ。この極上絹糸と、夜鳴き鳥の羽毛を合わせれば、この世のものとは思えない極上の掛け布団が誕生するはず。


 また一歩、至高の安眠に近付いて……と、夢想していると、魔法時計のアラームがピピピピと鳴り始めた。


「む、就寝時間、1時間前か……」


 このまま極上掛け布団を作りたい気分だが、規則正しい就寝は何よりも優先される。

 夜の11時に寝て、朝の7時に起きる。このルーティンを崩すわけにはいかない。


「リリス、今日はここで就寝しよう」


 幸いなことに、ダンジョンのボスフロアは、ボス以外の魔物は現れないし。倒したボスも、リポップするまでに早くとも数日を要するらしい。


 つまり今この瞬間、二十層は仮初の安全地帯《セーフエリア》になったと言える。

 まだ就寝時間まで1時間あるが、ワザワザ一個下の危険なフロアに降りてから眠る必要も無いだろう。


「さんせー! 一仕事終えた後の睡眠は格別だものね!」


 賛同を得られたことで、俺はアイテムボックスから天蓋付きベッドを取り出す。間接照明に、アロマ、その他諸々の準備を進めていく。


 リリスはリリスで、パジャマを取り出して『着替えるから、衝立を出して、ユーイン』と声を掛けてくる。


 そんないつもの就寝準備を妨げる足音が響いた。


「追いついたぞ、剣聖リリスッ! それと王子の女を寝取った重罪人……!」

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