↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された宮廷魔道具師、自作寝具で休んでいたら、王子の婚約者を寝取ってしまう  作者: 入月英一@書籍化


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/9

第5話 王子の激高「男と同じ布団だと!?」

 王都の誇る、無駄にキラキラした絢爛豪華なアルカディア城。その一室にて、人間というよりは獣に近い絶叫が響き渡った。


「同じ布団で、寝ただと……っ!?」


 顔を真っ赤に染め、大理石のテーブルを叩いたのは、第一王子であり『勇者』の称号を持つジークだった。


 彼の目の前では、宰相をはじめとする王宮の上層部――私利私欲を胃袋に詰め込んだ汚職貴族たちが、借りてきた猫のように静まり返り、冷や汗を流しながら頭を低くしている。


 城を出奔したきり、予定日を過ぎても戻らないこの国の最高戦力・剣聖リリス。


 宰相らは「俺の婚約者がいなくなるとは何事だ!」という王子のヒステリーに怯え、必死にダンジョン内の捜索や情報収集をした。

 すると、とある冒険者から「信じがたい、しかし極めて具体的な」タレコミがもたらされたのだ。


「は、はい……。何でも、豪華絢爛な天蓋付きベッドと共にダンジョンを潜る奇怪な二人組の目撃情報が多数ありまして。その内の一人が、どうやら剣聖リリス殿らしく……しかも見知らぬ男と、同じベッドで、それはもう睦まじく添い寝をしていたとの目撃情報が……」


 宰相が恐る恐る報告すると、ジークの額に青筋が浮かぶ。


「馬鹿なッ! リリスが男と!? この俺様の女が、どこの馬の骨とも知れぬ薄汚い冒険者と同じ布団に潜り込んだだとぉぉぉ!!」


 ジークの肥大化したプライドは、今まさに木っ端微塵に粉砕された。


 自分という至高の存在を差し置いて、野良犬のような男を選んだその事実が、王子の沸点の低い激怒メーターを突き抜ける。


 まだ、その「男」の正体が、自分がゴミ屑のように使い捨てて追放したユーインだとは、ジークの空っぽな頭では一ミリも想像できていなかったが。

 もしそれを知れば、今以上の怒りに駆られ、憤死してしまうかもしれない。


「おのれ、その男、絶対に生かしてはおかん! 直ちに騎士団の精鋭捜索隊を派遣しろ! リリスを力ずくで連れ戻し、その男は万死に値する不埒者として、四肢をバラバラにして処刑してやる!!」

「は、ははっ! 直ちに出撃させます!」


 汚職貴族たちは王子の狂乱に怯えながら、即座に騎士団へと最優先の出撃命令を下した。


 不憫なことに、この命令が騎士団にとっての「地獄の入口」になるとは、誰も気づいていなかった。



◇


 俺とリリスはダンジョンの十六層に到達していた。


 二十層に棲まう『ドリーム・スパイダー』の極上絹糸を目指して、順調に下層へと歩を進めている。


 ダンジョンでは、昼も夜もない。時間感覚が狂いそうになるのを、魔道具の時計でしっかりとカバーする。

 一日八時間、夜に寝るのはマストだからな。


 それを思えば、今日の探索はここまでだろう。

 俺はアイテムボックスから、自慢の魔道具である天蓋付きベッドを取り出して夜営の準備を整える。だが、ここで一つ、俺の生存に関わる深刻な問題が発生していた。


「ユーイン。……今日も、一緒に寝てもいいかしら?」


 リリスが、巨大な大剣を抱えながら、もじもじと上目遣いで俺を見つめていた。その姿は戦場の女神ではなく、お泊まり会を楽しみにしている子供のようだ。


「駄目だ。昨日も言ったけど、これは俺専用のベッドだ。リリスには毛布を出してやるから、これにくるまって寝てくれ」


 リリスは地団太を踏む。


「嫌よ! 最高のベッドを横目に、ただの毛布で一夜を明かすだなんて! もう私の肉体が断固拒否しているわ! あのシーツの吸い付くような滑らかさと、脳を溶かすふかふかの枕がないと、私はもう二度と眠れない体になっちゃったの……!」


 不眠症に悩まされていたリリスにとって、俺のベッドは文字通り「合法の麻薬」のようなものだった。

 一度あの「魂の快眠」を覚えてしまった彼女の肉体は、普通の野宿という名の苦行を、生理的に受け付けなくなっていたのだ。


「俺の安眠を物理的に妨害しないでくれ。狭いんだよ」

「じゃあ、ちょっとだけ、ちょっとだけ! 本当に端っこを借りるから……!」


 リリスは下手なウインクを飛ばしてくる。はあ、と俺はため息を吐いた。


「……俺を抱き枕にするのは厳禁だからな。あと、寝具によだれを垂らすな。掛け布団も引っ張らないこと。それから……」

「はい、はい、わ・か・り・ま・し・たーーえいっ!」


 俺の注意を聞き流しながら、リリスはベッドへとダイブした。そして、布団に入ってコンマ五秒、寝具の極上の寝心地に包まれ、彼女はすやすやと寝息を立て始める。


 は、早い……。一瞬で落ちやがった、この安眠中毒者め……。


 呆れたものの、俺自身も一日の疲労には勝てず、少し距離を置いてベッドの端っこに潜り込んだ。――だが、ここからが俺にとっての本当の試練だった。


「すぅ……すぅ……。……ユーイン、あったかい……」


 深夜。俺は、自身の胸元に押し付けられる心地よい重みと、甘い体温で目を覚ました。

 予想通り、リリスが寝ぼけながら、無意識に俺という「唯一の熱源」へと這い寄ってきていた。


 衣服越しに伝わる彼女の圧倒的な柔らかさと、首筋をくすぐる温かな吐息。さらに、リリスは俺の体を「特大抱き枕」として認識したようで、両手両足でがっちりとホールドしてきた。


 ち、近い……! 心臓がドラムの連打みたいにうるさくて、寝られない……!


 リリスの白銀の髪が俺の鼻先をくすぐり、彼女の完璧な美貌が至近距離にある。普段の凛々しい剣聖としての姿とは正反対の、無防備で愛らしい寝顔。

 俺の心臓は激しく高鳴り、全身を鋼のように硬直させるしかなかった。


 しかも、相変わらず腕力が異常だ……! 肋骨が、俺の肋骨がミシミシと悲鳴を上げている……!


 柔らかい肉体の感触と、剣聖ならではの万力のような締め付け。


 天国と地獄が同時にフルコースで押し寄せる凄まじい攻防戦の中で、俺は一刻も早く素材を集めて、彼女専用のベッドを作らなければならないと、血の涙を流しながら誓うのだった。



 ちなみに、遠く王宮で婚約者を寝取られたと、ジーク王子もまた血の涙を流していることを、ユーインは知る由もなかった。

少しでも気になったら、ブクマ&★★★★★で応援をお願いします!!

モチベーションに繋がります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。