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追放された宮廷魔道具師、自作寝具で休んでいたら、王子の婚約者を寝取ってしまう  作者: 入月英一@書籍化


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第4話 美少女の抱き枕となる朝

「……う、朝か? なんだ? 体が動かな……い?」


 深い眠りから意識が浮上してきたが……おかしい。至高にはまだ程遠いとはいえ、俺が丹精を込めて作り上げた寝台で、寝苦しい目覚めなどあっていいはずがない。


 なら、夢か? いいや、この寝台で寝て悪夢を見るはずもない。


 では何故、体が動かない? いや、完全に動かないわけではない。しかし極端に、体の自由を制限されている。


 ヒヤリと、冷たい汗が背中に流れた。


 まさか、王子の追っ手に拘束されたのか? そんなバカな、こんなに早く? 迎撃用の魔法トラップはどうした?


 俺は現状を確認するため、眠り眼を恐る恐る開いた。


 視界に飛び込んできたのは、月光を糸にして紡いだような、透き通るほど美しい白銀の髪だった。

 そして、鼻腔をくすぐるのは、煤けた工房には一生縁のないフローラルな香り。腕の中に収まっているのは、信じられないほど柔らかくて温かい、何らかの「生物」だった。


「……え? なんだこれ。夢の続きか? それとも神からのご褒美か?」


 混乱した脳が状況を把握するのに、数秒の時間を要した。


 俺の腕の中に、一人の少女……に見える何らかの生物。冒険者をたぶらかす新手の魔物だろうか?


「お、おい……!」


 声を掛けてみると、少女(?)らしき生物の頭がもぞもぞと動く。


「ん……」


 微かに鼻を抜けるような甘い声。頭の位置がズレたことで、その顔が露わになる。

 ――美しかった。

 王都一の彫刻師でも造れないであろう美貌があった。……というか、近い。美少女の顔と、俺の顔とで10センチも離れていない。


 これは、色々な意味で危ないかもしれない。


 俺は、何とかこの場を脱出しようと試みる。状況を見詰め直すと、拘束と思われたものは、この謎の美少女に抱きつかれたものであったらしい。


 体に力を入れ、拘束を脱しようとするが、もぞもぞと芋虫のように動くことしかできない。


「う~~~~ん、だーーーめ、抱き枕が動いちゃ……」


 美少女が寝言を漏らした瞬間、拘束が強まる。ミシミシと、俺の骨が不吉な音を奏で始めた。


 なんだ、このバカ力? 人間じゃない。やはり新手の魔物か? 美貌で騙し冒険者の懐に潜り込み、抱きしめ殺してくる人型の化け物だろうか?


 肺から無理やり空気が搾り出され、喉の奥がヒューヒューと情けない音を立てる。


 何とか抜け出そうとあがくも、美少女は俺の体を両手両足でがっちりとホールドしている上に、人外の力で締め上げられ、全く抜け出せない。


「こ…れが、俺の最期か……?」


 強烈な締め付けと。密着した体から伝わる、女性特有の柔らかな肉体の感触。首筋をくすぐる規則正しい吐息。やはり強烈な締め付け。


 天国と地獄が一度に来たような恐ろしい責め苦。俺の心臓は、色々な意味で早鐘を打ち続ける。

 

 ぐ、く、苦しい……! 柔らかい……。い、痛い……。でも、いい匂いがする。いやダメだ、やっぱり命の危機が……!


「離してくれ! 頼むから離してくれ、俺のあばらが粉砕される前に……っ!」

「う? う~~~~ん、あさぁーー?」


 瞬間、拘束が弱まる。これが最後の好機と、俺は死に物狂いで身をよじり、美少女型モンスターの万力めいた「死の抱き枕ホールド」からどうにか脱出した。


 ベッドから転がり落ちるようにして床に着地する。ゼェゼェと荒い息を吐きながら、生存確認のために胸を押さえる。


「……本気で死ぬかと思った。何なんだ、一体?」


 息を整えながらベッドを見上げると、抱き枕(俺)を失った美少女型モンスターは、不満そうにジタバタすると、掛け布団を絡めとりながら、丸々とした芋虫になった。

 次いで、枕に顔を擦り付けると……あっ! こいつ極上枕によだれを垂らしやがった!


 何なんだ、この傍若無人なモンスターは?


「おい、お前! ふざけるなよ、おい……!」


 布団越しに美少女モンスターの体を強烈に揺する。

 すると、彼女の睫毛がピクリと動き、やがてゆっくりと瞼を開けた。翡翠のように澄んだ瞳が、まだ夢の余韻を残した寝ぼけ眼で俺を捉える。


「……あれ? 私、生きてる……? 頭が、痛くない……?」


 彼女はベッドの上で上体を起こすと、信じられないという様子で自らの両手を見つめた。

 ベッドから飛び降りると、その場で軽く足踏みをして見せる。


 というか、キャミソール姿なので白い脚が眩しい。これも馬鹿な男を誑かすための、人型魔物の特性だろうか?

 だとしたら、人間の男を熟知しすぎている。余りに目の毒だ。


「なにこれ……! 体が、信じられないくらい軽いわ……! 重力がどこかに消えたみたい!」


 当然だ。天才魔道具師たる俺が構築したこの寝台は、単なる休息の場ではない。睡眠効率を極限まで高め、細胞の一つ一つを活性化させる。

 しかも、極上枕の性能まで加わり、一時的に全能力値を増強させる『超・寝具バフ』を付与する領域に達していた。


 彼女は自覚のないまま、俺が心血を注いだベッドによる「極上の恩恵」を、全身で浴びていたのだ。……というか、モンスターにも効き目があったんだ。


「体力が、魔力が、全身から溢れてくる……! 私、これまでの人生で、今が一番強い気がするわ!」


 興奮して拳を握りしめ、ファイティングポーズを決める美少女型モンスター。


「今の私なら、ジーク王子と近衛騎士たちを、まとめてワンパンできるわ!」


 待て、ジーク王子と言ったか? どうしてモンスターが、王子の名を知る。まさか、信じ難いバカ力をした、人間の娘……なのか?


「な、なあ……あんた……」


 声を掛けると、彼女はようやく俺を真っ直ぐ見る。かと思うと、弾かれたように詰め寄ってきた。その瞳は期待と興奮で爛々と輝いている。


「あなた……あなたがこの魔法の寝室を? この奇跡のベッドを作ったの!? ねえ!」

「そう、だけど……だから、近いって! 少し離れてくれ。……俺はユーイン。元・宮廷魔道具師だ。それより、あんたこそ何者だ? 何で人のプライベートな寝室に無断侵入し、家主を殺しかけたんだ?」


 俺が半目で睨んでやると、彼女はぽかんとしたアホ面を晒す。新しい発見だ。アホ面をしても、美少女は美少女らしい。


「殺しかける?」

「さっきまでの、殺人ホールドのことだよ。あんたに、全身の骨を砕かれかけたんだが」


 そう抗議すると、意外にも美少女は両手を合わせて謝って来る。


「ごめんなさい! 殺す気なんて無かったんだけど、ほら、私は力が強いから……。そうそう、名前ね。私は、リリス。剣聖リリスよ!」


 剣聖リリス……三年間工房でブラック労働に明け暮れた俺でも、噂で聞いたことがあった。

 成る程、人類最強の剣士ならば、あのバカ力も頷ける。それに寝台の効果で、パワーもバフされていたろうし。


 リリスは畳みかけてくる。


「ねぇ、このベッドは何!? まるで神の奇跡だわ! もしかして、あなたが作ったの?!」

「あ、ああ……」


 勢いに押されるように俺は頷く。


「すごい……なんて最高のベッドなのかしら……体は軽いし、あんなに悩まされた偏頭痛は奇麗さっぱりなくなったわ!」


 リリスは身を屈めると、掛け布団をポンポンと叩く。


「私の理想郷は、ここにあったのよ。私、今日からここの子になるわ……!」

「はあ!?」


 この美少女、ここに居座る気か? 


 冗談はやめて欲しい。美少女との同棲に憧れなくはないが、毎晩絞め殺されかけるわけにはいかない。俺の安眠スペースへの侵略を到底許せるわけがなかった。


「いやいやいや……ダメに決まってるだろ」

「どうして?」

「どうしてって……寝台は一つきりだからだ。俺の安眠を阻害しないでくれ」

「うーーーー」


 リリスは不服そうに唸ったかと思うと、そうだと手を叩く。


「なら、私の分のベッドも作ってよ!」


 俺は深くため息をついた。


「簡単に言わないでくれ。なけなしの素材を使い切った、一点物の寝台だ。あんた専用に、これと同等以上のものを作るとなると、色々な素材をダンジョンの深層から命懸けで集めてこないといけない」

「なら、集めればいいわ。何が必要なの? 私が取ってきてあげる」


 リリスは力強く胸を叩く。


 俺はハッと気付く。彼女となら、より深層のボスを倒し、最高の素材を手に入れ、今よりも強力な魔道具を、至高の寝具を作り出すことが出来るのでは?


「なあ、リリス。あんた、最深層のドラゴンを討伐できるか?」

「ドラゴン退治? ドラゴンの素材がいるの? いいわ、このベッドの為なら、巨大なトカゲくらい輪切りにして見せるわ」

「マジかよ……ドラゴン素材があれば、至高の寝台を作り上げることが出来るぞ……」

「至高の寝台? ……まさか、これより『上』の快眠が存在するというの!?」


 リリスは愕然として目を見開いた。

 彼女にとって、このベッドはすでに「世界の至宝」そのものだったのだろう。それなのに、これより上の寝心地が存在するなど、想像の範疇を超えていたに違いない。


「ああ。もっとも、必要なのはドラゴン素材だけじゃない。他にも、色々と集めたい素材がある。例えば、二十層に生息するボス『ドリーム・スパイダー』とかな。……ただ、俺は戦闘能力の低い魔道具師だ。十層のボス戦で、手持ちの切り札をすべて使い果たしてしまったし。一人では到底、深層へは行けない。しかし君となら……」


 俺は期待を込めた目でリリスの顔を見詰める。

 彼女は、向日葵のような笑みを浮かべた。


「二十層? たかがクモじゃない! 私が瞬殺してあげるわ!」


 彼女は嬉しそうに言うと、床に転がっていた大剣を、まるで竹箸でも扱うように片手で軽々と拾い上げた。


「私はリリス! 王国最強の【剣聖】よ! 私があなたの専属ボディーガードになって、邪魔なモンスターはすべて細切れにして片付ける! だから、私に最高のベッドを作って頂戴!」

「ハハ、最高のギブアンドテイクだな」


 自分には強力な前衛が必要だと痛感していた。そこへ、王国最高戦力の【剣聖】が自らボディーガードを申し出てくれるとは。これ以上の適材適所はない。


「契約成立だな、剣聖リリス。お互いの安眠のため力を合わせよう。……ただし、二度と俺を抱き枕にしないでくれ。次こそ死んじまう」

「えへへ、善処するわ! よろしくね、ユーイン!」


 無邪気に笑うリリスと、固く握手を交わした。



 こうして、安眠を求める変態的魔道具師と、寝具の虜になった脳筋剣聖による、あまりにも奇妙な「究極の寝具調達の旅」が始まったのだった。

✨これから先のサブタイトル公開✨

少しでも気になったら、ブクマ&☆☆☆で応援をお願いします!!


第5話 王子の激高「男と同じ布団だと!?」

第6話 赤兎狩り

第7話 はだける熱帯夜 ⇦注目!!!!

第8話 剣聖×赤兎の極上毛布バフ=最速


第7話『はだける熱帯夜』では、今回の第4話よりもエチチな同衾シーンがあります!

乞うご期待下さい!!

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