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第2話 まだ転生して1日も経っていませんが、現地の人に即憑依バレしました

 さてと…ひとまず目覚めの場所にやってきたわけだが。

 家具とか何やら置いてあるが所長室で間違いはなさそうだ。住み込みで研究とかしてたのかな。

 というか汚いな…起きた時は特に気にしていなかったけど、書類とかが散乱している…やっぱり天才の部屋は汚いって本当なんだなぁ。


 とりあえず何か目ぼしいもの…というか、まずは自分の体から確認してみるべきでは?

 外見は鏡で確認したからいいとして…白衣のポッケの中とか、何か入ってないかな。

 あった!これは…名刺か。


「どれどれ…『レーシュ・エリネル』」


「どうしたんスか?自分の名刺見ながらボソボソと」


「もしかして、自分の名前を見て自惚れてたり…んな訳ないっスよね〜」


 っ!?だ、誰だ…気配がなかったぞ?

 というか、さっきからずっと自惚れてることにされてるな…


 驚きつつ振り返ると、そこには綺麗な藍色の目に金髪ツインテールをした見た目だけではとてもダウナーには見えないダウナーっぽい女子がいた。

 先ほどの推定助手とは違い首にネームタグをかけているため、すぐに名前がわかった。

『ラセイト・ミグリー』という名前が大きく書かれており、右上の職位には普通研究員と書かれている。


「えっと…ちょっと久しぶりに自分の名刺を見返してみようかなぁ…って思ったりして…」


「そうなんスか〜それより助手っちが早くお金よこせ〜って外で騒いでたっスよ」


「わかった、わかった…えと、どれくらい用意すればいいとか聞いた…?」


「そんなの知らんっスよ〜いつもと同じくらいでいいんじゃないんっスか〜?」


「その…いつもどれくらい忘れてたかド忘れしちゃって…覚えてない…?」


「所長がお金のこと忘れるなんて珍しいこともあるもんっスね〜。え〜っと…まあいつも金貨2枚くらいじゃなかったスか?」


「そっか、ありがとう…!えっと金貨金貨…」


「あった!ごめんね!きっと用があったと思うけどまた後で!」


「あ〜別にわたしは用があってきたとかじゃないんで…」


「あっ…そ、そうなんだ、じゃあ…うん!」


「……でも、助手っちの所に行った後わたしの部屋に来てくれないっスか?」


「も、もちろん!行く行く!すぐ行くから待っててね」


 そうして晴人はそそくさと所長室を後にして研究室にいる助手のところへ向かう。


 ———————————————


「ちょっと!所長ったら…遅いですよ!」


「ごめんごめん!えっと…いつも通り金貨2枚ね!」


「今度はちゃんと論文書いてくださいねっ!って言っても書かないだろうけど」


 少し呆れた台詞を吐きながらも、助手ちゃんは嬉しそうにお金を受け取って行った。

 僕が所長室に行っている間にラセイトがつけていたようなネームタグを彼女もつけていた。もちろん、名前が大きく書かれていたのでありがたく見せてもらうことにする。

『フロイ・アシスティ』…やはり明らかに現実ではなさそうな名前たちを見る度に、異世界に来たんだなぁと実感する。


 そういえば…あまり気にしていなかったけどどうやって現実に戻るんだろうか。正直言ってこれから妻と子供の顔が見れないと思うと結構心にくるものがある。

 憧れではあったけど…意外とデメリットというか失うものも多いなぁと思う。

 てか、せっかく研究者という役職についているならワンチャンだけど現実に戻る方法とかも見つけることができるんじゃないか?かなり長い時間をかけることにはなりそうだけれど…やってみないことには何も始まらないな。

 とりあえず一旦の目標は現実に戻るために情報収集だな。


 それはともかくとして、フロイに金も渡したことだし…ラセイトの所に行ってみるか。

 というか、普通に部屋がわからんから聞いてみるっきゃないか。


「この後…ラセイトの部屋に行かないといけないんだけど…場所をド忘れしちゃってぇ…」


「そ……そうなんですか?あ〜あそこの間取り図に書いてあるので自分で見てください。それでは私はここで」


 フロイはマップのところを指差しながらそう言い、足早に去っていく。

 せっかく金あげたのになんだあの態度は。まあ僕…っていうか所長が悪いといえばその通りなんだけれど。

 とりあえず間取り図を参考にして行ってみるかぁ…


 ———————————————


 晴人は迷いのある足でラセイトの部屋へと向かって行く。

 フロイのご機嫌斜めさを少し気にしつつも、気持ちを入れ替えて足を動かす。

 そして数分後、ラセイトの部屋へとたどり着く。晴人は3回ノックし、扉を開ける。現代の日本であれば基本的なマナーである3回ノックだが、この異世界でその常識が通用するかわからないと思う晴人ではあったが、一度してしまったことは振り返らずにラセイトの目の前へと歩いて行く。


「えっと…で、ラセイト?私に何か用かな?」


「……やっぱり…わたし、確信したっス」


「な…何を…?」


 ラセイトの掴みどころのない性格に惑わされつつ、晴人は慎重に対応していく。


「さっきから変なんスよ…まるでいつもの所長じゃないみたいっス」


「そ…そんなわけないでしょ…私は至っていつも通り…」


「まず、所長はそんなに内気な性格ではないっス。言っちゃ悪いっスけどもっと面倒臭い性格っス」


「次に、所長はそんなに忘れっぽくないっス。特にお金のことはいつでも鮮明に覚えてるっス」


「それ以外にも挙げていったらキリがないっスけど、あとひとつ注目したことは一人称っス」


「所長の一人称は『私』じゃなくて『僕』っス。さっき私って言ってた時に完全に確信したっス」


「で…もしかして記憶喪失でもしたっスか?」


 マシンガントークとはいえないものの、それなりの物量で押してくるラセイトの言葉に晴人は何も返すことができなかった。


「…何か言えない事情でもあるんっスか?」


 言えない事情か…確かに、隠したいという理由以外には特段言えない事情はないな。

 思えば、別に何でもかんでも1人で考えるべきではない。何より現地人の意見は是非とも聞くべきだ。

 そりゃあたくさんの人にこの事実を広めると話はややこしくはなる…だが、ラセイルは口もそこはかとなく堅そうだし言ってみても問題はないかもしれないな。

 もしかすると、異世界脱出の鍵になる可能性もあるし…


 晴人は覚悟を決め、恐る恐るその口を開く。


「僕は…『レーシュ・エリネル』ではないんだ」


「っ!?そ、そうなんスか!?」


 先ほどまでずっと冷静でクール系を保っていたラセイトも、流石に取り乱している。

 そりゃ、いきなり身近な人間が自分は自分ではないなどと言って驚かない人間などいない。


「要するに見た目はレーシュ!中身は別人!って言う感じだね」


「なーーーる…ほどっス?」


「で…ここからがややこしいんだけど、話ついて行けそう?」


「だ、大丈夫っス。わたしが全部受け止めてあげるっスから…あ、あと別人さんの一人称も僕だったんスね。ちょっとややこしいんでわたしの前では他のにしてくれるっスか?」


「うん、わかった。じゃあラセイルの前では私にしておくよ」


「ありがたいっス。それで…一体どうややこしくなって行くんスか?」


「中身の別人っていうか私のことなんだけど…異世界からこの体に入り込んじゃったっぽいんだよね。って言っても全然よくわからないと思うけど」


「い…異世界っスか!?あ、あの小説とかでよくある異世界!?」


「異世界と小説のことがわかるんだ…じゃあもしかしてこの世界にも異世界系ライトノベル的なものがあるってこと?」


「らいとのべる…?っていうのはよくわからないっスけど。異世界に関する小説があるのは本当っス!」


「ちなみに、この世界で言う異世界っていうのはどういう感じの世界なの?私の世界ではこの世界みたいに剣とか魔法とか…あと魔物とかが色々いる感じの世界が多いかな」


「ってことは…別人さんの世界には魔法とか色々がないってことっスか!?」


「わたしの知ってる異世界とそっくりっス…まさか本当にそんな不便な世界があるなんて」


「なんか馬鹿にされたような…って、ここの世界では私の世界は不便な世界っていう認識なの?」


「はいっス。だって魔法が使えない世界なんて不便以外の何者でも無いじゃないっスか。だから異世界系の小説では大体が異世界に行って魔法を使って無双する…っていう本が大多数なんスよ」


「…そう言われてるところ悪いけど、その不便な世界に帰りたいんだよねぇ…」


「それ…本当に言ってるんスか?結構自殺行為な気もするんスけど…」


「本当だよ、だって私には愛する妻と子供がいるんだからね!」


「なるほど…それならまあしょうがないっスねぇ」


「で、少し話を戻すんスけど。一体今所長の器には別人さんがいるわけっスけど、じゃあ本物の所長の中身はどこに行ったんすかね」


「あ、確かに…まあ安直に考えれば私の器に入っている…とか?」


「その線もあるっス。所長って結構なんでもありな人なんでいろんな可能性があるんで断定はできないっスけど」


「そういえば、所長って私の中じゃ今の結構ダメ人間っていう人物像しか見えてこないんだけれど…」


「失礼っスね!!って言っても側から見たらそうなるのもわからなくはないっスね」


「こほん…それでは、わたしが直々に所長のことを解説したいと思うっス」


「まず所長の性格はやりたい事だけをやるっていう一言に尽きるっス。でも!!魔法の才能は確実に本物で、実力だけでこの研究所の所長に登り詰めたっス。まあそれだけでもかなりすごいってことは伝わるんと思うんスけどこれだけにとどまる人じゃあ無いんスよね。所長はやる時はすごいやる人間なんスよ!!ここ最近で特にすごかったのは魔法の新たな階級の発見っスね。別人さんにもわかりやすいように説明すると階級は『初級』、『中級』、『上級』、『最上級』が元々あったんスけど、そこに新しく『変化級』っていう出力する魔力を調節して自由自在に魔法を操ることができる階級を発見したんス!それ以外にも色々な研究成果を残しているので後で話してあげるっス。あと指導力や統率力も抜群っスね!さすが所長と言うだけあって男女問わず研究員全員の目を奪って行っちゃうんすよ〜♡他には…」


「ちょ…うん、もういいよ。とりあえずそれなりにすごい人って言うのと君が所長の事が好きって言うことが分かった」


 でも、聞いた感じ本当に天才研究者っていう感じなんだな。っていうか、新しい階級を見つけたってかなり凄すぎないか?まあ変化級自体はほぼほぼ本人の地力な感じもするけど、はちゃめちゃにすごいことには変わりないな。

 …そんな人間がいきなり魔法のことを何もかも忘れてたらいくらなんでも流石にやばいな…

 これから僕がレーシュを演じる訳だけれど…本当に大丈夫か?


「そんな不安そうな顔しないでくださいっス。まあこんなすごい所長の体に乗り移っていたなんて知ったら恐れ慄くのも分からなくないっスけどね。


「それもそうだけどさ、私は魔法のない世界から来た人間だから今後どうすればいいのかなって」


「あ〜そうっスね。まあわたしが色々と手助けしてあげるんで心配しないでくださいっス」


「いいの?中身は所長じゃないし…それにそっちからしたら私は不便な異世界から来た人間だし…」


「全然問題ないっス!困っている人は助けるのが常識っスからね…何より、中身が違うとはいえ所長をこんな近くから見られるなんて前世でどんな徳を積んでも中々出来ないっスからね♡」


「あぁ…うん、めっちゃ欲丸出しだけど…協力してくれる分にはすごい助かるよ。ありがとう」


「でさ、とりあえず私の世界に帰るために…まずはどうすればいいかな?」


「まあまあ、そんなに焦らないでくださいっス。とりあえずこれからの日常生活のことも考えて所長を演じる上での心得と魔法の使い方を教えるっス」


「魔法か…私にも使えるの?」


「体は所長本人なんで使えないことは無いんじゃないっスかね?」


「確かに!!じゃあ私にも魔法が使えるんだ!!」


「お、勢いづいてきたっスね。なら…早速わたしが昔使っていた秘密の特訓場に向かうっス!!」

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