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EP 6

四神の職務放棄と、極道邪神のジェラシー

 銀座の小料理屋『たつまろ』の定休日。

 普段なら龍魔呂が一人、静かに一週間の疲れをタバコの煙と共に吐き出す日だが、今日の店内は動物園のような有様だった。

「おおっ! この『てれび』という箱、まこと妖術じゃな! 中に小さな人間が閉じ込められとる!」

「おい朱雀、チャンネル変えるな! 俺は今、この『和牛特集』を見てるんだ!」

「フム……この『こたつ』という結界、一度入ると二度と出られぬ恐ろしい魔具よ……」

 カウンターや座敷を占拠しているのは、掌から中型犬ほどのサイズに縮小した四体の神獣たち。青龍、白虎、朱雀、玄武である。

 彼らはガオガオンの合体解除後も天魔窟や本来の持ち場に戻らず、完全に日本のサブカルチャーと快適な生活に順応(という名の職務放棄)していた。

「……お前ら。いい加減に神界へ帰れ。ここはペットホテルじゃない」

 龍魔呂は眉間を揉みながら、マルボロ・赤に火を点けた。

 しかし四神はどこ吹く風。そこへ、入り口の戸がカラリと開き、純白のワンピースに身を包んだ桜田リベラが、両手に高級デパートの紙袋を提げて現れた。

「ごきげんよう、龍魔呂さん。あらあら、今日は一段と賑やかですこと」

「リベラ……甘やかすなと言ったはずだぞ」

 龍魔呂の制止も虚しく、リベラが紙袋から色とりどりのケーキやマカロンを取り出すと、四神(と、呆れた顔をしていたはずのガオン)が一斉に群がった。

「まぁ! これが噂の『すいーつ』!」

「美味い! なんだこの蕩けるような甘さは! デュアダロスのオッサンと食ってた柿の種とはレベルが違うぜ!」

「さぁさぁ、皆様。桜田財閥が誇るパティシエの特製ですわ。たくさん召し上がってね」

 聖母のような微笑みでお茶会を開くリベラ。彼女の裏の目的は明確だ。

 この圧倒的な武力を持つ神獣たちを『極上のスイーツ』で完全に手懐け、龍魔呂の戦力(そして自分の手駒)として囲い込むための、えげつないまでの高度な籠絡術である。

「リベラ。政府の動きはどうなってる」

「ご安心を。防衛省や警察には、我が財閥の息がかかった議員――若林先生を通じて『強固なストップ』をかけております。あなたの平穏な日常は、この私が法と権力で死守いたしますわ」

 にっこりと笑うリベラの横で、龍魔呂はポケットの角砂糖をガリッと噛み砕き、深くため息をついた。

「……法で守られる死神か。笑えない冗談だ」

     * * *

 その頃。

 次元の狭間にある『ヤクザの組事務所(封印空間)』では、怒髪天を突く勢いの男がいた。

「……ワレら、ええ加減にせえよ!!」

 邪神デュアダロスは、虚空に映し出した『水鏡(下界を覗く魔法)』を前に、血走った目で絶叫していた。

 鏡の向こうに映っているのは、リベラの持ってきた高級マカロンを美味そうに頬張る白虎と、テレビを見て爆笑する青龍たちの姿。

「監視のシノギを放り出して、シャバで豪遊たぁどういう了見じゃ! ワシの焼きチーズとビールはどうなったんじゃい! ワシかて……ワシかて、その『まかろん』とやらを食うてみたいわ!!」

 嫉妬と禁断症状(葉巻とワイン不足)で、インテリヤクザの面影は完全に崩壊していた。

 アルマーニのスーツを乱し、胸元のトカレフを水鏡に向けて乱射しようとするが、神の掟による『封印』が彼をこの部屋から一歩も外へ出さない。

「おのれ……! こうなったらワシも意地じゃ! この封印を力尽くでブチ破って、銀座にカチコミかけちゃる! 首洗って待っとれよルチアナ! 四神!」

 デュアダロスの背中に彫られた『登り龍の刺青』が、赤黒い神気を放ち始める。

 理不尽極まりない理由で、邪神の力が限界突破しようとしていた。

     * * *

 神々がコメディのような日常を送る一方で、人間の世界には確実な『悪意』が忍び寄っていた。

 東京郊外。豊かな森に囲まれた、とある児童養護施設『ひまわり孤児院』。

 龍魔呂が、悪党から奪った裏金を匿名で寄付し続けている施設である。

「みんなー、おやつの時間ですよー!」

 保母の声に、庭で遊んでいた子供たちが笑顔で駆け寄っていく。

 その平和な風景を、森の奥の歪んだ空間から見下ろす複数の影があった。

『……ククク。見つけたぞ。英雄テイマーが守りたがっている「希望」の種を』

 死蟲軍の指揮官・魔人ワイズ。

 彼は空間の裂け目から、無数の『死蜂型デス・ビー』と『死蟻型デス・アント』を静かに森の中へ潜伏させていく。

『一気に殺してはつまらない。まずは周囲を包囲し、逃げ道を塞げ。奴らが恐怖に泣き叫び、完全に絶望したその瞬間に……あの黄金の巨神を誘き出すのだ』

 ワイズの狡猾な命令に従い、巨大な蟲たちが音もなく孤児院を包囲していく。

     * * *

 ビィィィィィンッ!!

 陸上自衛隊・練馬駐屯地の作戦指令室に、けたたましい警報が鳴り響いた。

「第3級の空間震を観測! 場所は東京郊外、西部の森林地帯です!」

「なんだと!? 天魔窟のゲートは銀座だけじゃないのか!?」

 騒然となる指令室。

 その中で、完全武装の防弾チョッキを身につけ、背中に北辰一刀流の木刀(特注の硬質合金製)を背負った坂上信長が、ギラギラとした目を輝かせて立ち上がった。

「……やっと俺たち『陸』の出番が来たってわけか」

 信長は分厚い胸板を叩き、部下たちに向かって吠えた。

「野郎共、出動だ! 海に浮かんでふんぞり返ってるだけの親父(司令官)たちに、泥臭い陸自の底力を見せつけてやるぞ! 目標、郊外の森林地帯! 蟲共をすり潰せ!」

 自衛隊の装甲車部隊が、土煙を上げて駐屯地を出発する。

 目指す先は、奇しくも龍魔呂にとって最も「手を出されてはならない聖域」。

 魔人の悪意、自衛隊の誇り、そして死神の逆鱗が、一つの場所へと収束しようとしていた。

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