EP 3
「……野郎共、準備はいいか! 銀座の掃除の時間だッ!」
ガオンの咆哮が、銀座の街を震わせる。
その声に応えるかのように、重く垂れ込めた天魔窟の雲を割り、四筋の眩い光が地上へと降り注いだ。
――キシャアアアアアッ!
――オオオオオオオッ!
東から蒼い龍が、西から白き虎が、南から紅蓮の鳥が、そして北から重厚なる玄武が。
職務放棄してシャバの空気を楽しんでいた四神の聖獣たちが、龍魔呂の圧倒的な『殺意』に引き寄せられ、本能的な恐怖と興奮と共に再集結したのだ。
『おい人間! 俺様を信じろ、最高の「力」を貸してやるぜ!』
ガオンのコアが激しく回転し、龍魔呂を眩い光の繭が包み込む。
それは物理法則を超越した、神話と機械の融合。
「聖獣合体――ガオガオン!!」
龍魔呂の叫びと共に、巨大な光の柱が銀座のビル群を突き抜けた。
光の中から姿を現したのは、全高50メートル。
黄金の獅子を胸に抱き、四神をその身に宿した鋼鉄の巨神――聖獣機神ガオガオン。
「な、なんだあのロボットは……!?」
出雲艦隊のブリッジで、モニターを注視していた早乙女蘭が、手にした高級エクレアを落とした。
「計測不能!? 出力、既存の物理エンジンじゃ計算が追いつかない! 誰があんなもの……あんな芸術的なAIを組んだのよっ!?」
機体内部。
龍魔呂はガオガオンの精神の中央で、静かに拳を握り込んでいた。
全身を駆け巡る、五聖獣の圧倒的なエネルギー。
『へへっ、どうだ人間! これが俺様たちの真の姿だ!』
「……悪くない。これなら、一気に『片付け』ができる」
龍魔呂の視線の先には、数で押し寄せようとする死蟲機の群れ。
死蜂型の毒針ミサイルが雨のように降り注ぐが、下半身を構成する玄武が放つ重力障壁が、それを紙屑のように弾き飛ばす。
「まずは右腕だ。……青龍」
龍魔呂が右手を突き出すと、ガオガオンの右腕――青龍の顎が開き、超高出力の紅蓮レーザーが放たれた。
一直線に伸びた閃光は、銀座のメインストリートを埋め尽くしていた死蟻型の一団を、装甲ごと蒸発させる。
『次は俺だ! ぶち抜かせろッ!』
左腕の白虎が激しく回転を始め、巨大なドリルへと変形した。
龍魔呂が地を蹴ると、背中の朱雀の翼が爆発的な推進力を生み出し、ガオガオンは音速を超えて死百足型へと突っ込む。
「砕けろ」
ガリガリガリッ!! という絶叫のような金属音が響き、ドリルが死百足型の強固な甲殻を粉砕。そのまま胴体を貫通し、爆炎の華を咲かせた。
戦場を支配していた絶望は、わずか数分で驚愕へと塗り替えられた。
天魔窟の奥から、事態を静観していた魔人ワイズが、冷酷な笑みを消して歯噛みする。
『おのれ……あの忌々しい獅子め、テイマーを見つけたというのか……!』
「……これで最後だ」
龍魔呂の声が低く響く。
ガオガオンが天高く右手を掲げると、青龍の腕に膨大なエネルギーが集束し、一本の巨大な光の剣――聖獣剣ゴッドブレードが形成された。
胸のガオンが、最大出力の咆哮を上げる。
『ガアアアアアアアアッ!!』
その大咆哮を浴びた死蟲機たちは、電子回路を焼き切られ、完全に動きを止めた。
逃げ場のない処刑台。
「鬼神流・極意――『一刀処刑』」
龍魔呂が剣を振り下ろす。
黄金の閃光が銀座の空を真っ二つに割り、天魔窟から溢れ出していた死蟲機の残党すべてを、その余波だけで塵へと変えた。
静寂が戻る。
次元の穴は一時的に収束し、夕暮れ時の銀座には、ただ巨大な鋼鉄の神だけが立っていた。
ガオガオンの姿が光の粒子となって消えていく中、龍魔呂は元の路地裏に静かに降り立った。
ジャケットの埃を払い、再びマルボロに火を点ける。
「……龍魔呂さん!」
物陰から、震えながらリベラが駆け寄ってきた。
彼女はすべてを見ていた。法の外側で、神の如き力を行使したその男の姿を。
「……今の、一体……」
「ただの害虫駆除だ、リベラ。……それより、店の仕込みが止まってる。今日はもう店じまいだな」
龍魔呂はそれだけ言うと、いつもの憂いを帯びた瞳に戻り、地下の店へと続く階段を降りていった。
その頃、新橋の居酒屋では――。
「あ、今の爆発でサーバー落ちた……! 私のガチャの結果がぁぁっ!!」
女神ルチアナがジョッキを片手に、スマホを握りしめて絶叫していた。
東京の長い夜は、まだ始まったばかりだった。




