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EP 7

天才の最適解、再起動の鼓動

 ピーッ、ピーッ、ピーーーッ!!

 銀座の地下BAR『KISHIN』の隠し部屋。

 静寂を破り、医療用カプセルの心電図モニターがけたたましい警告音を鳴らし始めた。

 淡い光を放つ培養液の中で、深い昏睡状態にあったはずの龍魔呂が、カッ、と目を見開いたのだ。

 ――俺の、相棒たち(ダチ)が呼ばれている。

「……ッ、ハァァッ!!」

 ガシャンッ!!

 分厚い強化ガラスが、内側からの凄まじい拳撃によって粉砕された。

 大量の培養液と共に、全身にチューブを繋がれた龍魔呂が冷たい床へと転がり落ちる。筋繊維の70%が断裂している肉体は、ただ立ち上がろうとするだけで全身の毛穴から血を吹き出し、激痛で視界が白く飛んだ。

「……行か、なきゃ……」

 龍魔呂は壁に手をつき、血塗れの足で無理やり立ち上がろうとする。

 しかし、砕けた膝は言うことを聞かず、再び床へ崩れ落ちそうになった。

 その身体を、ドンッ、と下から支えた小さな影があった。

「……バカなの? 死にたいなら、もっと静かなところでやってくれないかしら」

 呆れたような、しかしどこか安堵したような声。

 防衛省の特注白衣を着崩し、片手に高級なエクレアを持った天才エンジニア――早乙女蘭だった。彼女は龍魔呂を強引にベッドへ座らせると、エクレアを一口かじった。

「早乙女……。どうして、ここに……」

「リベラから泣きつかれたのよ。『いくらお金を積んでも、彼を止める方法が見つからない』ってね。……モニターを見てみなさい」

 蘭がタブレットを操作すると、壁のスクリーンに大深度地下の戦況が映し出された。

 血まみれになって倒れる信長。そして、彼を庇い、メタ・蟲の刃の前に立ちはだかる小さなガオンたちの姿。

「……ッ!!」

「あなたの武術をコピーした『対・鬼神特化蟲』。……リベラの傭兵部隊も、自衛隊の精鋭も、あれには手も足も出ない。あと数分で、あなたの可愛いペットたちはミンチになって、地上は地獄に変わるわ」

 龍魔呂は無言で、傍らに置かれていた漆黒のジャケットに手を伸ばした。

 だが、蘭がその手をピシャリと叩いて制止する。

「今の身体でOSを切って直結リンクすれば、10秒で心臓が破裂するわよ。……だから、私が『月給3億円の仕事』をしてあげたの」

 蘭は白衣のポケットから、黄金の光を放つ特殊なメモリードライブを取り出し、龍魔呂の目の前で揺らした。

「あなたが新宿でマニュアル操作をした時、ガオガオンのシステムには、あなたの『気』と『武術の理合』の膨大なデータが残っていた。……私はこの数時間、徹夜でそのデータを完全にプログラミング化し、新しい専用OSを組み上げたの」

「……専用OS、だと?」

「ええ。名付けて『KISHIN-Zero』。……ワイズの寄生蟲ウイルスは、既存の電子ネットワークを書き換えるから厄介なのよ。だったら、ネットワークを一切使わない、『あなたの生体波長(気)でのみ起動・制御される、完全に独立した疑似生命OS』を作ればいい。……天才でしょ?」

 蘭は得意げに笑い、メモリードライブを龍魔呂の胸元へ押し付けた。

「このOSを介せば、あなたは直結の負荷ダメージを完全にゼロにできる。そして、ガオガオンはあなたの『気』と100%同調し、機械の出力を超えた真の武術を体現できるわ。……ただし、ぶっつけ本番。起動するかは、あなたの気合い次第だけどね」

 圧倒的な絶望を覆す、天才からの最高のギフト。

 龍魔呂はドライブを強く握りしめ、痛みを堪えてフッと口角を上げた。

「……上等だ。お前の月給、来月から倍にしてやる」

「あら、言ったわね。桜田財閥に請求書を回しておくわ」

 龍魔呂はジャケットを羽織り、壁に立てかけられていた愛銃『Korth NXS』をホルスターに収めた。

 全身の激痛は消えていない。だが、瞳に宿る光は、かつての虚無(DEATH4)ではなく、愛する日常と仲間を守るための『英雄』の炎だった。

「……ガオン。白虎。青龍。朱雀。玄武」

 龍魔呂が、虚空へ向けて低く、力強く呼びかける。

 その声は、大深度地下でボロボロになっていた聖獣たちのコアへと直接響き渡った。

『――! ……へっ、遅せぇんだよ、大バカ野郎がッ!』

 地下で血を吐いていたガオンが、嬉しそうに吼えた。

 龍魔呂がメモリードライブを空へ掲げると、銀座の地下室から、天を貫くような神々しい黄金の光の柱が立ち昇った。

「待たせたな。……反撃の準備はできた。これより、害虫駆除(処刑)を開始する」

 ――システム『KISHIN-Zero』、ブート完了。

 ――全セーフティ、解除。生体波長、完全同調フルシンクロ

 夜明け前の東京の空に、五つの黄金の流星が再び輝きを放ち、大深度地下という絶対的な暗闇の底へ向けて、音速を超えて真っ直ぐに堕ちていった。

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