EP 8
真・聖獣機神、大深度への降臨
東京・大深度地下空間。
無数の兵器蟲が蠢く暗闇の中で、『対・鬼神特化蟲(メタ・蟲)』が、血まみれのガオンと信長の首を刎ね飛ばすべく、漆黒の鎌を振り下ろした。
信長が奥歯を噛み締め、リベラが悲鳴を上げた、その刹那。
――ズドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!
地下空洞の分厚い天井(岩盤)が、突如として『物理的』にぶち破られた。
何万トンという岩の雨と共に、大江戸線の地下通路はおろか、地上のビル群の基礎すらも貫通して降り注いだのは、目を焼くような神々しい『黄金の光柱』だった。
『ギ、ギジッ!?』
メタ・蟲が驚愕して後方に跳躍する。
光の柱が着弾した瞬間の凄まじい衝撃波だけで、周囲に密集していた数百の重戦車蟻やミサイル蟷螂たちが、原型を留めずに粉々に吹き飛んだ。
濛々と舞い上がる土煙と、それを吹き飛ばす黄金のオーラ。
その中心から、ゆっくりと立ち上がる『巨大な影』があった。
「……待たせたな。よく堪えてくれた、陸の盾」
外部スピーカーから響く、静かで、しかし絶対的な安心感を伴う声。
全高50メートル。赤黒い瘴気は微塵もなく、清浄なる黄金の装甲に身を包んだ無敵の英雄――『聖獣機神ガオガオン』が、大深度地下に降臨した。
「マ、マスター……!!」
信長が、泥だらけの顔をくしゃくしゃにして叫ぶ。バリケードの奥では、リベラが安堵のあまりへたり込んでいた。
『遅せぇんだよ、バカ野郎がァッ!』
ガオンたち五匹の小さな聖獣が、光の粒子となってガオガオンの巨体へと吸い込まれていく。彼らが定位置に戻った瞬間、ガオガオンの全身のエネルギーラインが、かつてないほど眩い光を放った。
コクピットの中。
龍魔呂は、全身の筋繊維が断裂しているにも関わらず、涼しい顔で操縦桿を握っていた。
天才・早乙女蘭が組み上げた疑似生命OS『KISHIN-Zero』。それは、龍魔呂の『気』を完璧に電子信号へと変換し、肉体へのダメージを完全にゼロに抑え込んでいた。機械のラグも、神経接続の負荷もない。
ガオガオンは今、文字通り龍魔呂の『手足』と化していた。
『ギジジ……対象、鬼神龍魔呂。……データ、照合完了』
メタ・蟲が、鎌を構えてジリジリと間合いを詰める。
龍魔呂の技を学習したその機械の脳は、ガオガオンの巨体を「遅くて単調な的」と計算していた。
『パターンA……神速、処刑』
メタ・蟲が、視認不可能なスピードで跳躍した。
狙うはガオガオンの膝関節。信長を沈めた浸透勁を打ち込み、姿勢を崩す算段だ。
だが。
「……機械が、俺の武術を語るな」
龍魔呂が、静かに息を吐いた。
その瞬間、50メートルのガオガオンの巨体が、『ブレた』。
重力と質量を完全に無視した、鬼神流の究極の歩法『縮地』。
『――!?』
メタ・蟲のセンサーが、目前にいたはずのガオガオンを見失う。
次の瞬間、メタ・蟲の背後に回り込んでいたガオガオンが、右手に握った聖獣剣を、一切の予備動作なく振り抜いていた。
『予測、可能……合気、転――!』
メタ・蟲は空中で無理やり身体を捻り、ゴッドブレードの軌道に自身の鎌を添え、その破壊力を受け流そうとした。信長の渾身の一撃を無力化した、あの技だ。
カァァァンッ、と両者の刃が交差する。
「……形だけを真似ても、意味はない。俺の剣には、『気』の重さが乗っている」
龍魔呂の声と共に、KISHIN-Zeroを通じて増幅された膨大な『気』が、ゴッドブレードからメタ・蟲の鎌へと直接流し込まれた。
受け流すことなど不可能。小手先の技術ごと、絶対的な力で粉砕する。
パキィィィィンッ!!!
メタ・蟲が誇っていた超硬度の漆黒の鎌が、飴細工のように木っ端微塵に砕け散った。
『エラ……エラー……回避不能……ッ!』
機械の脳が、初めて「死の恐怖」を理解した。
龍魔呂は冷徹な瞳で、崩れ落ちるメタ・蟲を見下ろした。
「鬼神流・真奥義――『無明絶刀』」
黄金の閃光が、地下空間を十字に切り裂いた。
ガオガオンの振るったゴッドブレードは、メタ・蟲の身体を細胞レベルで四等分に両断し、背後に密集していた数千の兵器キメラの群れごと、光の波で消滅させた。
爆音すら残らない、あまりにも静かで、あまりにも圧倒的な一撃。
新宿を恐怖に陥れた最強の刺客は、ただのチリとなって地下の風に消えた。
「……害虫駆除、完了だ」
黄金の巨神が、剣を静かに下ろす。
その背中を見上げる信長たち人間と、コアの中で歓喜の雄叫びを上げる聖獣たち。
絶対的な絶望の底に、最強の英雄が完全に帰還した瞬間だった。




