表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/30

EP 2

神々の真実、知られざる防衛戦

 龍魔呂が医療用カプセルで深い眠りについている頃。

 銀座『たつまろ(KISHIN)』の二階、普段は龍魔呂の居住スペースとして使われている和室では、かつてないほど情けない光景が広がっていた。

「あー……無理、もう一歩も動けない。指先からマナの欠片も出ないわ……」

「ワレ……ワシの背中、ちょっと踏んでくれや。腰が……腰の骨が砕けそうじゃ……」

 畳の上に大の字になって倒れているのは、毛玉だらけのジャージを着た女神ルチアナと、ボロボロのアルマーニを着崩した邪神デュアダロスだった。

 二人の顔は土気色で、目元には真っ黒なクマができている。神としての威厳たる『神気』は完全に底を突き、その辺のくたびれたフリーターとヤクザのオッサンにしか見えない。

「……アンタら、新宿がぶっ壊れかけてる時に、ここで何サボってやがったんだ!」

 四神を代表して、白虎がプリプリと怒りながら二人に噛み付いた。

 しかし、ルチアナは畳に頬擦りしたまま、虚ろな目で笑った。

「サボってたぁ? バカ言いなさい。……アイツ(ワイズ)が新宿の上空に無数のゲートを開いた時、空間の歪みが臨界点を突破して、東京全土が『天魔窟』に呑み込まれかけてたのよ」

「なっ……!?」

「龍魔呂がブチギレて暴走してた裏で、誰がその空間の崩壊を『手縫い』で繋ぎ止めてたと思ってんのよ。……私と、このヤクザのオッサンが、持てる神気の100パーセントを注ぎ込んで、ギリギリで東京の物理法則を維持してたのよ!」

 デュアダロスも、痛む腰をさすりながら忌々しそうに吐き捨てた。

「ホンマじゃ。ワイズのバカがポンポン穴を開けよってからに。ワシらが結界を張っとらんかったら、龍魔呂が正気に戻る前に、あの令嬢も親父も、東京の街ごと空間の底に落ちてミンチになっとったわい」

 その事実を聞かされ、四神たちは絶句した。

 創造神と破壊神。二柱の最高位の神々は、文句を言いながらも、龍魔呂が愛した『日常(東京)』を水面下で必死に守り抜いていたのだ。

 しかし、その代償は重い。

「……で、どうするんじゃルチアナ。ワシら、神気を使い果たして、今はただの『人間』と同じじゃぞ。チャカ一発撃たれたら普通に死ぬわ」

「どうしようもないわよ。神気が回復するまで、最低でも一週間はここで寝転がってるしかないわ。……あーあ、せっかくの休みなのにソシャゲのログインボーナスも受け取れない……」

 最強の矛である龍魔呂だけでなく、絶対的な抑止力であった神々すらも、完全に戦線から離脱(無力化)してしまったのだ。

     * * *

 時を同じくして。

 東京湾・護衛艦『いずも』のCIC(戦闘指揮所)は、夜明け前だというのに騒然としていた。

「司令! 第3システムから異常なソナー波形が送られてきました!」

 早乙女蘭が、徹夜の糖分補給のためのマカロンをかじりながら、メインモニターに東京の地下構造の立体マップを投影した。

 坂上真一が、コーヒーキャンディをガリッと噛み砕いて身を乗り出す。

「……大深度地下。使われていない巨大な空洞エリアか。何がいる?」

「わかりません。ですが、新宿の瓦礫の中にあった自衛隊の兵器のスクラップが、次々とこのポイントへ『引きずり込まれて』います。……それだけじゃありません。地下の空洞の中で、未知の金属反応が爆発的に増殖しています!」

 蘭の月給3億円の頭脳が弾き出した最悪の推測。

 真一は眉間に深いシワを寄せ、拳をデスクに叩きつけた。

「……まさか、残骸を『喰って』やがるのか。ただの虫ケラが、人間の兵器を取り込んで進化しているとでも言うのか!」

「データはそう示しています。現在、地下空間には数万……いえ、数十万の『未確認の機械反応』が密集しています。もしこれらが地上へ溢れ出せば、今度こそ東京は終わりです」

 重苦しい沈黙がCICを支配する。

 ガオガオンはいない。それを操る龍魔呂も、生死の境を彷徨っている。

 頼みの綱である神々も使い物にならない。

 つまり、この未曾有の危機に対し、人類は『自分たちの力だけ』で立ち向かわなければならないのだ。

「……地下鉄の通路と大深度空間じゃ、戦車は入れねえ。完全に歩兵(生身)による閉所戦闘になるな」

 真一は決断を下すように、通信機のマイクを手に取った。

「こちら出雲艦隊・坂上真一。陸上自衛隊・練馬駐屯地の第1師団へ通達」

 真一の声が、傷ついた隊員たちが休息を取る野戦テントへと響き渡る。

「……坂上信長1尉。生きてるか」

『――親父。……いや、司令。』

 通信機から返ってきたのは、全身に包帯を巻き、木刀を杖代わりにして立ち上がった信長の、泥臭くも力強い声だった。

『当たり前だ。これしきの傷で、おかの盾が倒れるかよ』

「上等だ。……新宿の地下から、バケモノの群れが湧き出ようとしている。戦車は使えん。歩兵部隊による先遣隊を編成し、大深度地下の敵性反応を叩け」

 それは、ほとんど死地に赴けと言うに等しい命令だった。

 相手は人間の兵器を取り込んで進化したキメラ蟲。それを生身の歩兵で止めろというのだ。

 だが、信長は少しも怯むことなく、ニヤリと笑った。

『了解した。……あのマスター(龍魔呂)には、でっかい借りができたからな。アイツがゆっくり眠れるように、今度は俺たちが泥を被る番だ』

「……死ぬなよ、信長。それと、お前の部隊に『空の厄介者』を一人派遣する。こき使ってやれ」

 真一が通信を切ると、CICの扉が開き、不満そうな顔をした平上雪之丞が入ってきた。

「ちょっと司令! 俺はF-35Bのパイロットっスよ! なんで俺が、あの脳筋ゴリラ(信長)と一緒に、ジメジメした地下に行かなきゃなんないんスか!」

「空を飛ぶ機体がねえんだから仕方ねえだろ。テメェの天才的な操縦技術、地下で存分に活かしてこい」

 真一が顎で指し示すと、早乙女蘭が不敵な笑みを浮かべて、一台の巨大なジュラルミンケースをドンッと机に置いた。

「月給3億円の私の特製よ。平上空尉、あなたのゲームの腕前、見せてもらうわよ」

 ケースが開かれ、その中身を見た雪之丞の目が、ゲーマーとしての凶悪な光を帯びてギラリと輝いた。

「……マジかよ。こいつは……面白えオモチャじゃねえか」

 人類の意地と、最強の異端児タッグが、光の届かない地下の死地へと足を踏み入れようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ