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EP 8

死神への体当たり(ラム)、先輩の鉄拳

 ――ズガァァァァァァァァンッ!!!

 新宿のど真ん中で、とてつもない金属同士の衝突音が炸裂した。

 黒ガオガオンの顔面に、音速を超えて突っ込んできた『白亜の砲弾』。それは、海上自衛隊が極秘裏に開発を進めていた、ホバー推進式の超重装甲・特殊揚陸艇『白犀はくさい』だった。

 数千トンの質量と、ブースターによる超高速がもたらす運動エネルギー。

 いかに暴走した聖獣機神といえど、真横からの不意打ちの『体当たり(ラム)』をまともに喰らい、その巨体が大きくよろめいた。振り上げられていた呪獣剣ダークブレードが、辛うじて信長や子供たちから逸れ、無人のビルへと虚しく振り下ろされる。

「……ア? なんだ……お前は……」

 コクピットの中で、龍魔呂の漆黒の瞳が不気味に明滅した。

 OSを切った直結リンク状態ゆえに、機体への衝撃は龍魔呂の脳を直接揺さぶる。激しい脳震盪の中、DEATH4となった彼は、自分を弾き飛ばした『白い物体』を冷酷に睨み据えた。

 煙を上げて黒ガオガオンの足元に転がった『白犀』のハッチが、内側から爆破するようにこじ開けられた。

 現れたのは、制服の上から防弾チョッキを羽織り、口にハイライトを咥えた坂上真一だ。

「……久しぶりだな、DEATH4(死神)の坊主。……いや、今は鬼神龍魔呂だったか」

 真一は、暴走する漆黑の巨神を前に、臆するどころか、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。その手には、自衛隊の制式拳銃ではなく、かつて龍魔呂に叩き込まれた北辰一刀流の魂――合金製の木刀が握られていた。

「親父……!? なんで……なんでここに!」

 瓦礫の中で腰を抜かしていた信長が、驚愕の声を上げる。出雲艦隊の司令官が、前線の、それも生身で暴走するロボットの前に現れるなど、軍事常識ではあり得ない。

「バカ息子が。泥臭い陸自が市民を守ろうとしてんのに、海のトップが艦隊の上でふんぞり返ってられるかよ」

 真一は信長に一瞥もくれず、木刀を黒ガオガオンに向けて構えた。

「……おい、ガオン! 四神! 聞こえてるか! テメェら、契約者テイマーが壊れかけてんのに、黙って暴走に付き合ってんじゃねえ! 力尽くでも抑え込まんかい、このポンコツ共ォッ!!」

 真一の怒号は、ガオガオン内部の聖獣たちのコアを直接揺るがした。

『ぐ、ぐァァァァァッ! 言われなくてもやってるぜ、仁王のオッサン! だが、今の龍魔呂の殺意は……俺たち五聖獣の力を合わせても抑えきれねえ……ッ!』

 ガオンの悲鳴のような電子音声が響く。

「……悲鳴。……うるさい。……消す」

 DEATH4となった龍魔呂にとって、真一もまた『悲鳴の元凶』の一つでしかない。

 黒ガオガオンは体制を立て直すと、赤黒い呪獣剣を、今度は真一に向けて真っ直ぐに構えた。

『ア、アハハハハッ! 面白い! 面白いねぇ、自衛隊の司令官が生身で英雄(死神)に挑むなんて! さぁ、龍魔呂! そのうるさいオッサンも一緒に、塵にしておしまい!』

 モニターの中のワイズが、恐怖を押し殺して狂ったように嗤う。

「……死ね」

 龍魔呂の声と共に、黒ガオガオンが呪獣剣を振り下ろす。

 音速を超えた剣閃。生身の人間なら、避ける間もなく圧殺される。

 だが、真一は動かなかった。

「……鬼神流・合気『てん』。……坊主、テメェの動きは、俺が一番よく知ってる」

 真一は剣閃が激突する直前、かつて龍魔呂から学んだ鬼神流の体術と、北辰一刀流の『見切り』を合わせ、紙一重で呪獣剣の風圧を躱した。

 呪獣剣が地面を砕き、凄まじい土煙が舞い上がる。

「……なっ!?」

 コクピットの龍魔呂が、初めて動揺の声を上げた。生身の人間が、自分の攻撃を躱した。

「……まだまだ甘いな、龍魔呂」

 土煙の中から飛び出した真一は、ガオガオンの脚部装甲を木刀で殴りつけ、その衝撃を機体内部の龍魔呂へと浸透させた。

「……鬼神流・剛体『金剛こんごう』。……テメェの『気』は、俺が受け止めてやる」

 カァァァァァァァンッ!!!

 真一の放った『浸透勁』が、ガオガオンの装甲を一切傷つけることなく、内部の龍魔呂の脳に、直接『鉄拳』となって打ち込まれた。

「ガ、アァァァァァァァッ!!!」

 龍魔呂がコクピットの中で絶叫した。

 それはDEATH4としての冷酷な声ではない。痛みに、そして過去のトラウマに苦しむ、一人の『人間』の声だった。

 龍魔呂の流れ込んでいた漆黒の殺意が、真一の『人間としての気』によって一瞬だけ霧散し、ガオガオンの纏っていた漆黒のオーラが黄金色へと戻りかけた。

「……そうだ、龍魔呂! テメェは、ただの殺人鬼システムじゃねえ! 平穏を愛する、俺の同郷の、たった一人の『龍魔呂』だ!」

 真一は木刀を構え直し、ガオガオンを見上げた。

「……お前が壊れて、誰も止められねえなら……俺がこの命をかけて、テメェを『人間』に引き戻してやる。……お前は一人じゃない。広島の男が、そう簡単に悪夢に負けてんじゃねえぞォッ!!」

 真一の魂の叫びが、龍魔呂の心に届くか。

 黄金と漆黒が激しく入れ替わるガオガオンの中で、龍魔呂の人間としての理性が、最後の死闘を始めようとしていた。

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