EP 12
終わらない日常と、極上のローストチーズ
『あァ? 誰に口利いとんじゃ、人間。チャカの弾、喰らわしたろか』
デュアダロスは懐から黒光りするトカレフを抜き、龍魔呂の眉間に向けた。神の力で生成されたその銃からは、尋常ではない破壊のエネルギーが漏れ出ている。
「ガオン。……出るぞ」
『おう! まさかデュアダロスのおっさんとヤる日が来るとはな! 最高に滾るぜ!』
龍魔呂のジャケットが眩い光に包まれる。
『聖獣合体』。
光の柱が銀座の夜空を貫き、全高50メートルの聖獣機神ガオガオンが再び降臨した。
『ホゥ……。ルチアナのアマが作ったオモチャか。ええ度胸じゃ。ワシの指パッチンで、チリにしてくれるわ!!』
デュアダロスが右手の指を高く掲げ、パチンッ! と鳴らす。
空間そのものが圧縮され、ガオガオンの巨体を消滅させようと襲い掛かる。
「玄武。重力反転」
龍魔呂の冷静な声に呼応し、ガオガオンの下半身から強烈な重力波が展開された。
神の消滅魔法と、玄武の絶対シールドが激突し、周囲の空間がガラスのようにひび割れる。
『チッ……! ならば、ワシの「任侠の弾丸」を味わえや!』
デュアダロスは巨大な邪龍のオーラを纏いながら、トカレフの引き金を連続で引いた。放たれた漆黒の弾丸が、隕石のような質量となって降り注ぐ。
ガオガオンは背中の朱雀の翼で銀座のビル群をすり抜けるように回避し、左腕の白虎ドリルで弾丸を粉砕していく。
「……図体と威圧感の割には、攻撃が直線的すぎる。怒りで我を忘れてるな」
機体内部で、龍魔呂は冷静に分析していた。
相手は神。まともにやり合えば銀座の街が消し飛ぶ。だが、龍魔呂にはわかっていた。この男から感じる怒りの本質は、世界を滅ぼすことではない。「拗ねている」のだ。
「青龍。刀を出せ」
ガオガオンの右腕に、黄金の聖獣剣ゴッドブレードが形成される。
『ガハハハ! 斬れるもんか! ワシの神気は鋼より硬いんじゃ!』
「斬るんじゃない。……『叩き直す』んだ」
龍魔呂は操縦桿を強く引き、ガオガオンを真上へと跳躍させた。
そして、落下する凄まじい運動エネルギーを利用し、ゴッドブレードをデュアダロスに向かって振り下ろす。
――刃を反転させ、『峰打ち』の構えで。
「鬼神流・極意――『大山鳴動』」
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!
刃のない黄金の剣の腹が、デュアダロスの頭頂部にクリーンヒットした。
いかなる神の装甲も、龍魔呂の武術の理合とガオガオンの質量を乗せた「超巨大な鈍器」の一撃を相殺することはできない。
『グベァッ!?』
邪神デュアダロスの体が、まるで釘を打たれるように銀座のアスファルトに深々とめり込んだ。
沈黙。
土煙が晴れた後、すり鉢状になったクレーターの中心で、デュアダロスは目を回して大の字に倒れていた。アルマーニのスーツはボロボロだ。
「……処刑終了だ」
ガオガオンが光の粒子となって消え、龍魔呂が地上へと降り立つ。
彼は気絶しているデュアダロスの襟首を掴むと、そのままズルズルと引きずって、自分の店へと続く階段を降りていった。
* * *
「……ん、んん……。ここは……?」
デュアダロスが目を覚ますと、そこは薄暗く、ジャズが流れる洒落たBARだった。
目の前のカウンターには、一枚の皿とグラスが置かれている。
「目が覚めたか、邪神」
カウンターの向こうで、龍魔呂が氷を砕いていた。
デュアダロスが皿を見ると、そこには分厚く切られたカマンベールチーズの表面をバーナーで香ばしく炙り、蜂蜜と黒胡椒をかけた『特製ローストチーズ』があった。
隣には、最高級の赤ワインが注がれたグラス。
『こ、これは……ワシがずっと食いたかった……!』
デュアダロスは震える手でチーズを口に運んだ。
カリッとした表面と、とろけるような濃厚なチーズの旨味、蜂蜜の甘さと胡椒の刺激が、神の舌を暴力的なまでに蹂躙する。
『う、美味ァァァァァァァイッ!? な、なんじゃこの美味さは! ルチアナのアマが食うとったスルメなんか目じゃないわ!』
「……騒ぐな。他のお客様の迷惑になる」
呆れながら角砂糖を齧る龍魔呂の足元で、四神たちが「怒られなくてよかった……」と安堵の息を吐いていた。
『兄ちゃん、ワシはこの店が気に入ったで! シャバにはこんな極上のシノギがあったんか!』
「勘違いするな。ツケはきかないぞ」
「あらあら。なら、彼のお代は桜田財閥で持ちましょうか?」
いつの間にか店に来ていたリベラが、ニコニコと微笑みながらブラックカードを提示する。
さらに、店の奥の座敷からは「すいませーん、ホッピーおかわり!」と、ジャズの雰囲気をぶち壊すルチアナ(ジャージ姿)の叫び声が響いた。
処刑人(DEATH4)としての過去を持ちながら、平穏を望んだ青年・龍魔呂。
しかし彼の手に入れた日常は、神と獣と国家権力が入り乱れる、とてつもなく騒がしいものになってしまったようだ。
「……まぁ、悪くない」
龍魔呂はふっと小さく微笑み、マルボロの煙を紫のネオンへと吐き出した。
東京に天魔窟の脅威がある限り、彼の戦いは終わらない。だが今はただ、この騒がしくも愛おしい『日常』のグラスを満たすだけだ。
(第一章 銀座の死神と、咆哮の聖獣機神 ――完)




