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EP 11

仁王の忠告と、極道邪神の殴り込み

 銀座の地下BAR『KISHIN』。

 海将補・坂上真一の放った『DEATH4』という言葉が、ジャズの流れる店内に重く沈み込んだ。

 龍魔呂の瞳から、バーテンダーとしての温もりが完全に消え失せる。

 カウンターの下、Korth NXSの冷たいグリップに指が掛かり、撃鉄ハンマーを起こすカチャリという微かな音が響いた。

 ほんの僅かでも真一が殺気を見せれば、次の瞬間には眉間を撃ち抜く。龍魔呂の圧倒的な『死の気配』に、歴戦の猛者である真一の背中にも冷たい汗が伝った。

「……親父? なんだよその物騒な名前。この人がなんだって?」

 何も知らない信長が、ローストビーフを頬張りながら呑気に首を傾げた。

 その間抜けな声に、張り詰めていた糸がプツリと切れる。

「……フン」

 真一は肩の力を抜き、あえて無防備にカウンターの丸椅子に腰を下ろした。

「ブラックコーヒーを一杯くれ。砂糖もミルクもいらん」

「……」

 龍魔呂は数秒の沈黙の後、静かに銃から手を離し、コーヒーの準備を始めた。

 真一はハイライトを箱にしまい、代わりにいつものコーヒーキャンディを口に放り込む。

「安心しろ、坊主。俺はお前を軍法会議にかける気も、警察に引き渡す気もねえ。……そんな真似をすれば、俺がチャカを抜く前に眉間を撃ち抜かれるからな。それに、若林のセンセイや桜田の令嬢を敵に回すほど、俺は馬鹿じゃない」

「なら、なんの用だ」

「忠告だ」

 真一は出されたブラックコーヒーを一口すすり、鋭い眼光で龍魔呂を見据えた。

「お前が孤児院でウチの馬鹿息子を助けたこと、そして子供たちを守ったことには感謝する。だが、あのデカブツ(ガオガオン)の力は強大すぎる。国が……いや、世界がいつまでもあの『暴力』を野放しにしておくと思うなよ」

「俺は、俺の周りの『日常』が守れればそれでいい。国がどう動こうが関係ない」

 龍魔呂はグラスを磨きながら、冷たく言い放つ。

 真一は小さく笑い、コーヒー代として千円札をカウンターに置いた。

「……自分のシマ(日常)は自分で守る、か。相変わらず極端な奴だ。……おい信長、平上! 帰るぞ!」

「えっ!? 俺まだ肉半分しか食って……」

「いいから立て! 明日は甲板磨き百周だ!」

「なんでそうなるんスか司令!?」

 騒ぐ二人を両脇に抱え、真一は店を出ていく。

 扉が閉まる直前、真一は振り返らずに言った。

「……カレー、美味かったぜ。今度は金曜の昼に来る」

 嵐が去ったような店内。女性客たちは「今の渋いおじ様も素敵……」と頬を染めていたが、龍魔呂は静かにため息をつき、角砂糖を齧った。

 ――しかし、彼がひと息ついたその直後だった。

 ズドォォォォォォォォンッ!!

 先日の『天魔窟』開通すら上回る、とてつもない衝撃と地響きが銀座の街を襲った。

 店内のグラスが激しく鳴り、棚から酒瓶が落ちて割れる。

「きゃあああっ!?」

「今度は何!?」

 悲鳴を上げる女性客たち。

 龍魔呂が鋭い視線を天井に向けると、奥の控室から四神たちが血相を変えて転がり出てきた。

「龍魔呂! 大変じゃ! このおぞましい神気は……!」

「嘘だろ!? なんであのおっさんがシャバに出てきてんだよ!」

 パニックに陥る青龍と白虎。

 龍魔呂は客たちを店の奥へ避難させると、一人で地上への階段を駆け上がった。

 路地裏から表通りへ出た彼の目に飛び込んできたのは――完全に崩壊した空間と、夜空に浮かぶ巨大な『登り龍の刺青』のオーラだった。

『……オゥオゥオゥ。随分と探したで、ワレら』

 銀座の交差点の中央。

 アルマーニの高級スーツを着崩し、胸元を大きく開けたインテリヤクザ風の男が、凄まじい殺気を撒き散らしながら立っていた。

 邪神・デュアダロスである。

『ワシを監視のシノギで放置して、こんなシャバでええもん食うとったとはのう。……さぁ、隠れとる四神どもを出せ。それと、ワシの焼きチーズとワインを出さんかい!!』

 ……理不尽極まりない理由でキレた邪神の神気が、銀座のネオンを次々とショートさせていく。

「……おい」

 龍魔呂は、静かにマルボロを咥えて歩み出た。

「ここは俺のシマの真ん前だ。……チーズが食いたきゃ、行儀よく並びな」

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