61話:ルカ君とお茶会
「これは・・・」
地下4階でおかしな部屋を発見した。
他の部屋と明らかに違う。装飾された壁に柱、扉には魔物のレリーフだろうか?翼の生えた悪魔のような絵が描かれている。
地下4階にボス部屋があるとは聞いていないが普通の部屋とも思えない。
「地図ではどうなっている?」
「それが・・・ここは広いロビーになっています。地図がニセモノなのでしょうか?」
いや、違うな。
「おそらく条件設定のある部屋だろう。帝国の第一「迷宮」にもそのような部屋があると聞いたことがある」
ボス以上の強敵がでると聞いたが、ナターレの「迷宮」にもあったのか。
「選抜部隊を編成する!!盾2!火力5!遠距離恩恵4!補助2!回復2!各部隊上位より集合!」
「「「「はっ!!」」」」
大隊60名で入った場合、範囲攻撃を持っている魔物だと後衛の恩恵持ちが一掃されてしまう可能性がある。部屋の大きさからしても60名で入ると動きが制限されてしまうしな。そのための選抜部隊だ。
さて何がでるか、このメンバーなら問題ないはずだ。
「配置につきました!」
「よし。盾を先頭に突入!」
「「「「おうっ!!」」」」
盾2人と火力の5人が突入し、一拍おいてわたしも扉をくぐった。
中は薄暗く奥の壁が見えない。床は他の場所と違いなめらかで戦いやすそうだ。さて肝心の魔物の姿が見えないが、しばらくして出現するパターンか?・・・
「・・・出ないな」
「いませんね・・・」
一体ボスはどこにいる?・・・
「隊長!」
「む?何かあったか!?」
声を上げた火力の一人が手招きをしている。
小走りで側までいくと・・・
「穴?・・・」
部屋の真ん中奥側に直径10mほどの穴が空いていた。底は暗すぎて見えない。側に落ちていた小石をけり落とすが、いつまで経っても音が聞こえない。どれだけ深いのだ・・・
「穴の縁が風化したように砂になっていますね」
「高火力で破壊したわけではないのか?」
「焦げ跡はありませんね。土砂の恩恵かと」
ふむ、この範囲に影響を与えるとは・・・恩恵を数度受けている者の仕業か。相当な高レベルだな。
「・・・まさか・・・ここのボスは既に倒されている・・・のか?」
暫く探索すると、部屋の隅から野営の跡を発見した。人数は・・・用を足したあとに使う砂山が10以上もある。中隊クラスか。やはりここのボスを倒した連中がいる・・・
「ナターレにそんな強い奴がいるだと・・・」
「わたしは、こんなとこでじっとしてていいのでしょうか?・・・」
紅茶を飲みながら膝の上のリロッコを撫でる。
「と、いいますと?」
今日はルカ君をお茶に誘っています。ルカ君は元兵站部隊にいたため、今回の進軍においても兵站を管理してもらっています。忙しい身の上ですがいつもアレクばかりでつまら・・・贔屓してはいけませんから、慰労を兼ねてお誘いしたのです。
「さきほどオルディオロさんたちの情報が入りました。バルサミーナさんがコカトリスの調教に成功したようです」
「コカトリスですかっ!?A級の魔物じゃありませんか!よく調教できましたね・・・そんなのどうするんですか?」
わたしもびっくりです。たったの4人で向かわせたので、良くてオークの1部隊でも調教できれば十分だと思っていたのですが。まさかのコカトリスです。
「侯爵軍は1万人はいるそうですので、魔の森の入り口は抑えておきたいのです。すでに250人の援軍が来ていますから、もっと来るかもしれませんし。入り口周辺をたくさんの魔物で溢れさせれば、通れないかな~っと思っていたのですが、まさかの大物です。みなさん頑張ってくださったみたいですね」
あまり無茶はしてほしくないんですが。侯爵軍だって連絡が届いてから準備して移動して、少なくとも5日はかかるはずですから、すぐに来ることはないと思います。
「ニンフェアもプルーニャもお仕事で出かけたままですし、ルカ君も兵站の準備を整えてくださいました」
「いえ、わたしなんかこれくらいしか・・・」
一刻も早くお父様とオルテンシア様をお救いして、平和なナターレ領を取り戻したいのですが。
「わたしだけ何もしてないんじゃないかと・・・」
迷宮では少し役に立ってきたと思っていたのに、慣れない指揮では何をどうしたらいいかいまいちです。
「お貴族様とはそういうものではないのですか?」
グサッ!
ルカ君、中々確信をついてきますね・・・わたしが落ち込んだのを見て慌てて話を変えてくれます。
「そ、そういえば領主様が子爵になられたそうですね!おめでとうございます」
「ありがとうございます。でも、代わりに迷宮を失ってしまいましたけどね」
ちょっと苦笑がでてしまう。ナターレが奪われてしまっては子爵も男爵もありません。
お父様が子爵になったとは言え、わたしは女性です。子爵令嬢ではあっても、子爵にはなれません。わたしと結婚した男性が子爵になるのです。なぜ、女性ではいけないのでしょうか?
はるか東のネルケ諸島連合国では、10人の評議員により国の運営がなされているそうですが、その中には女性もいるそうです。
王国でも女性が領主になれればいいのですけど・・・
「わたしが男性だったら・・・こんなことにはならなかったのでしょうね。それが悔しく、残念でなりません」
ルカ君とリロッコが慰めようかどうしようかって感じでオロオロしています。
やがてルカ君が何か決意したのか立ち上がって言いました。
「ソフィー様!実はわたし・・・女なんです!!」
どうしたのでしょう。ルカ君がいまさらのカミングアウトです。リロッコは驚いています。
「突然こんなことを言われても信じられないかもしれませんが、本当なんです!だからソフィー様のお気持ちが分かります!」
「そう・・・ですか。ありがとうございます」
突然言われたのは確かですが、女性だと言うことに疑いはありません。なので返事が曖昧になってしまいました。
「信じていませんね・・・どうしたら信じてもらえるのでしょうか、アレクさんも気づいていませんし・・・」
え~アレクは完全に気づいている反応でしたけど・・・
わたしの沈黙をどう誤解したのか分かりませんが突然ルカ君が、
「わかりました!脱ぎます!」
ちょっ!!わたしにそんな趣味はありませんっ!!リロッコも両手(枝?)で目を抑えてないで止めてください!
「ちょっと待ってくださいルカ君!!そもそも・・・」
服に手を掛けてわたしを見ています。も~言っちゃおうか・・・
「そもそも最初から気づいていましたから」
「えっ!?・・・最初から?・・・」
「え、ええ、初めてお顔を拝見した時から」
「マジで?・・・」
「ええ、みなさん初日に気づいていたと思いますけど」
そんなにうまく男装できていると思っていたのでしょうか?確かに女性がここまで短い髪をしているとは思いもよらないでしょうけど。
「えっ?・・・でも、皆さんそんなことは一言も・・・」
「事情があって隠されてるのかな~っと思ってました」
わたしの言葉にルカ君は服に手をかけた態勢のまま石化されたようです。
わたしは紅茶を一口飲みリロッコを撫でます。リロッコはテーブルの上のクッキーに手(枝?)を伸ばします。木?ブロッコリー?でもクッキーを食べるのですね。リロッコがモグモグとクッキーを食べ終わり、一息ついた頃ようやくルカ君の石化が解けました。
「じゃあ・・・アレクさんはわたしを女性と知ってて・・・完全に脈なしですか・・・」
あると思います!
ルカ君が服から手を離し床に膝をついて座り込みました。
「こんな時ですけど、主人の斡旋お見合いでもした方がいいのでしょうか?」
わたしの近くに年の近い男性はいません。辺境ということで他領からくる貴族の方も少ないですし、来るとしても危険な”魔の森”を抜けないといけないので、大事な子息を連れてくることはありません。
それどころか女の子の友達すら・・・ジニアに子供でもいればいいのですが。
今更ですが同年代の友達が0って、わたしってかなり不幸なのではないでしょうか?このままでは王都で行われる15歳の成人の儀まで友達も出来なさそうです。
友達すらいないわたしでは、わたしと結婚して子爵になられる男性の方の想像がつきません。
わたしの初恋はいつになるのでしょうか・・・




