62話:コルニオロ名誉男爵
「ソフィー様只今戻りました」
「ソフィー、戻ったニャ~」
「おかえりなさい。ニンフェア、プルーニャ。無事でなによりですわ」
ソフィー様が夕食を食べ終え、自室でくつろいでいる時間に戻ってこれた。ソフィー様の部屋には影の女性がメイド姿で護衛している。天井や外にも数人。護衛は問題なかったみたいだね。
「どうでしたかエリカの町は?」
「町の中にも侯爵軍人が数人いたけど、ほとんどはナターレ館の別館にいるみたいだニャ。あとお魚のおいしいお店見つけたニャ♪」
ソフィー様が苦笑されている。かわいい。
「治安は乱れてはいませんでしたか?」
「ボクも町に行ってみたけど、特に変わりはなさそうだったね。たぶん、今の状況を知らないんじゃないかな?」
「そうですか。その方がいいのかもしれませんね」
ソフィー様は民が苦しんでいるから早く助けたいと思ってたみたいだけど、特に助けを求めてないと知って落胆してるみたいだ。民は富を産む大事な家畜だからね、侯爵だって無暗に殺したりなんかしない。
「それで、ニンフェアのゴブリンの方は?」
「それなんだけどね。ちょっとお土産があってね、プルーニャ」
「お土産?」
プルーニャに指示を出したけど・・・
「え~わたしはイヤニャ・・・」
プルーニャに拒否されてしまった。近寄るとジンマシンがでるみたいだしね。
「・・・しょうがないなぁ・・・」
「え?・・・何があるんですか?・・・」
プルーニャが拒否したからソフィー様が怯えてるじゃないか・・・
一旦部屋を出て簀巻きにしているコルニオロを連れてくる。
「ソフィー様に会わせてあげるけど、下手な真似したら首を一刺しだからね」
「むぅ~む~む~」
あ、猿ぐつわもしたままだった。
縄を解き、自由にしてからボクだけが先に部屋に入る。
「ソフィー様、ちょっと紹介したい奴がいてね。いいかな?」
「・・・前置きで少し不安なのですけど・・・どうぞ・・・」
ソフィー様の許可を得て扉の外にいるコルニオロに声をかける。
「いいよ。入って」
「失礼いたします」
ギィッっと少し錆びついた音を立てて扉が開きます。カツンカツンと靴音を響かせ入室し、貴族の礼服の裾をバサッっとひるがえしその場で片膝をつきました。まだ若い男性で20代前半か中ごろでしょうか?少し長めの黒髪を油でキッチリ後ろに撫でつけ、キリっと顔を上げてわたしを見ます。
「初めましてジプソフィーラ様。わたくしはコルニオロ・ダ・フィオーレ名誉男爵と申します。以後、お見知りおき下さい」
「名誉、男爵様?・・・か、顔をお上げください!あ、失礼いたしました。わたしはジプソフィーラ・ディ・ナターレ。パパーヴェロ・ディ・ナターレ子爵の娘です。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
慌ててスカートの裾をつまみ、軽く腰を落として挨拶をします。
びっくりしました!まさか名誉男爵様をお連れしてくるなんて。子爵の娘とはいえ、相手は正真正銘の貴族。わたしは所詮、貴族の娘であって貴族ではないのです。挨拶は目下の者からするべきですのに・・・
「この度は麗しいジプソフィーラ様のご尊顔を拝謁させていただき、感謝の念に堪えません」
麗しい?ま、まあお世辞がうまい方ですのね。あまり貴族の方とお会いすることがないですし、男性からこんなことを言われるのも初めてでドギマギします。
「わたしの方こそ名誉男爵様とお会いできて光栄でございます。それで、この度はどのようなご縁で?」
チラッとニンフェアを見ます。ニンフェアが説明しようと一歩前に出ると、フィオーレ様はそれを手で制し、
「いえ、ニンフェア殿にご無理を言いました。是非にもジプソフィーラ様の御声を拝聴したくなりまして足を運ばせていただきました。噂通り鈴を転がしたかのような美声をお持ちです。心が洗われるようだ」
「えっと、ありがとうございます。お褒めに預かり光栄ですけど、わたしなどまだまだ子供で・・・」
なんでしょう、褒め殺しでしょうか?ですが、心の底からそう思っているように聞こえますね。まあ・・・悪い気はしませんけど。
「それがいいのです!」
「はい?」
突然フィオーレ様が大声を出され立ち上がられました。
「まだ穢れを知らぬそのお姿!子供から大人へと移ろう、少女から女性へと変化するその僅かな期間の・・・!!」
スパンッ!!
フィオーレ様が大げさな身振りで力説を始めた所、背後からニンフェアが止めました。
「そこまで。コルニオロ、ハウス!」
「何をするのですかニンフェア殿・・・」
フィオーレ様が頭を押さえてニンフェアを振り返ります。
「ニンフェアアアアアアア!!し、失礼致しましたフィオーレ名誉男爵様!」
何事でしょう!?ニ、ニンフェアがどこから出したのか、蛇腹状に折られた紙で出来た扇で、フィオーレ様の後頭部を張り倒しました・・・
どどど、どーしたらいーのでしょう!!混乱耐性をくださいっ!!
「・・・あ~頭が痛いですね~さすっていただければ痛みも無くなるかと」
「こ、こうですか?・・・」
フィオーレ様が解決策を教えてくださいましたので、失礼して頭を撫でました。
スパパンッ!
「あうちっ!!」
再び紙製の扇がフィオーレ様の顔面をとらえました!
フィオーレ様は顔を押さえて転げまわります・・・にゃんでこーにゃるにゃ~~~~!!
「ニンフェア!控えなさい!!」
わたしの命令を無視してニンフェアはフィオーレ様の前に立ちます。
「コルニオロ、これ以上おいたをすれば・・・」
パリパリパリ!!
ニンフェアが顔の前に2本の指を立てると、その間に雷撃の紫電が舞います。
「い・・・いえすろりぃた~のぉ~たっちぃいいいいっ!!」
「はい?・・・」
フィオーレ様がビシッと立ち上がりニンフェアに向かって敬礼をします。
何が起こっているのでしょう。頭が真っ白で何が何やら・・・
「プルーニャ助けて!」
「わたしに振らにゃいでニャ~~~」
プルーニャに抱きついて助けを求めますが、プルーニャは必死にわたしから離れようと引きはがしにかかります。
「そんな!お姉さまでしょう!?」
「こんな時だけお姉さま扱いはやめてニャ!」
一旦落ち着きましょう・・・訳が分かりません・・・
フィオーレ様は名誉男爵様ですね。これは理解しました。オッケーです。
ニンフェアが紙製の扇で二度もフィオーレ様を張り倒しました。これも理解しました。オッケーです、オッケーじゃないですっ!!
どうしませぅ・・・見なかったことに・・・わたしが脱力した瞬間、プルーニャがわたしの拘束から逃げ出しました。わたしが両手両足を地面について四つん這いの姿勢になったので、このまま土下座しようかと思っていたら、
「まあソフィー様落ち着いて。こんなだけど結構使えそうなんだよ」
「・・・なぜニンフェアは名誉男爵様にそんな尊大な態度なんですか・・・」
顔だけ上げてニンフェアを睨みます。
「まったくです。結構使えそうとは失礼な、わたしはかなり使えますよ」
フィオーレ様は襟を正しわたしに手を差し伸べてくださいます。
「そういえば”スキル”は何を持ってるんだっけ?」
その手を取ろうとしたらニンフェアがフィオーレ様の手をはたき、そのままわたしの手を握って立たせてくれます。
「かなり使える・・・んですか?」
ニンフェアと並んでフィオーレ様に向き合い曖昧な質問をします。
「そうですね~攻撃魔法は土砂魔法をいじった【大砲】くらいしかないですが、遠くの大勢の人と同時に話ができる【伝達】とかは便利ですよ」
「へ~それはいいね。同時攻撃とかの指揮に便利だ」
「すごいですね~わたしは攻撃魔法って持ってないので、ちょっとうらやましいです」
「ジプソフィーラ様はお優しいので、「攻撃」など神が与えなかったのでしょう」
「口だけはうまいねコルニオロ」
「口だけなんて失礼ですわよニンフェア。【伝達】スキルなんて、わたしが喉から手が出るほど・・・!!【でんたちゅ】!!」
いつの間にか和やかにお話してました・・・そして噛みました・・・
「フィオーレ様、【でんたちゅ】・・・【伝達】・・・スキルをお持ちなんですか!!」
「ええ、おそらくジプソフィーラ様の陣営では重宝されるのでは?っと」
フィオーレ様が再び私の前で膝をつき、淑女に対する礼の姿勢をされます。
「わたしの陣営??」
そういえばまだ伺っていませんでした。どのようなご縁でわたしの所へ?
「おっとそうでした、名前しか名乗っておりませんでしたね」
フィオーレ様が立ち上がり、大げさな身振りで顔を押さえ天を仰ぎます。
最初の名乗りと同じく服の裾を翻し、顔を押さえていた手を真っすぐ上に伸ばしました。そして、「ザッ」という擬音が聞こえる気がする動きで片膝をつき、伸ばした手を胸の前に持っていきます。そしてきりっとした表情でわたしを見上げ視線を合わせました。
「申し遅れました。わたくしは元、侯爵軍第3師団所属、第1旅団第2連隊参謀長、コルニオロ・ダ・フィオーレ名誉男爵少尉であります」
「えええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!!」
聞いてないんですけどぉっ!!侯爵軍って敵側ではないですかっ!?というか、軍のことに疎くてどれだけ偉い方なのか判断できません!!
どなたか完全記録を持ってきてくださいっ!!最低限の記録というなら一般常識を置いてってくださいよフィーラ!!
・・・フィーラ?どなたでしたっけ?




