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第7話 入学式

 カイルとルカが講堂に滑り込むと、どうやら入学生の中では最後だったらしい。

 二人は慌てて魔術科の列を探し、駆け込むように並んだ。


 講堂は、国随一の教育機関「学園」にふさわしい空間だった。

 華麗な装飾が煌めく一方で、静けさと重みのある空気が支配している。


 講壇の奥には、一枚の肖像画が掲げられていた。


 長いローブを纏い、厳めしい顔をした男。

 その赤い髪が、どこかカイルを思わせる。


(先祖? まさかね)


 ルカは内心で苦笑した。


 突然、講堂に重厚な音楽が響きわたった。

 ルカは思わず肩を震わせたが、カイルは眉ひとつ動かさなかった。


 音楽に合わせて、七十代ほどのいかにも魔術師然とした老人がゆっくりと講壇へ現れた。


「皆、入学おめでとう。私は学園長のグラヴェール公爵、ゼノン・カストリアン・アルデリック・ド・ラ・グラヴェールだ。この『学園』の歴史は二百余年前、創立者にして初代グラヴェール公の生誕に遡り——」


 学園長の話が続く中、ルカはちらりと周りを見回した。


(ここには、魔術科のほかに騎士科や工魔科もあるんだっけ)


 騎士科は、剣術・槍術・弓術、馬術や礼節、兵学といった武技や教養を学ぶ学科だ。

 魔術科に進むほどの魔力を持たない貴族が主に進学し、その人数は魔術科の半分程度。


 一方の工魔科は、「魔道具」や「魔術装置」の開発・研究を専門とする。魔力計測器もその一つで、まだ発展途上の分野だ。

 入学時に求められる魔力量は少ないが、理論科目の比重が高く、平民や市民階級の生徒が多い。人数は魔術科の三割ほどにとどまる。


 ふとルカの目に、騎士科の列に並ぶ一人の後ろ姿が映った。真っ直ぐ腰のあたりまで伸びた、艶やかな黒髪。灰色の制服にくっきりと映えて、どこか非現実的にさえ見えた。


(……女性の騎士科の人もいるんだ)


 ルカはそんなことを、ぼんやりと思った。




 ◇




 魔術科は三クラスに分かれていた。

 クラス分けは入学序列順かと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。


 ルカとカイルは同じCクラスになった。

 レイナードと一緒ではなかったことに、ルカは少しだけ安堵する。

 けれど、取り巻きの一人、小太りの男——自己紹介でエドウィン・ガルフォードと名乗った——とは同じクラスだった。

 自己紹介のとき、一瞬だけ睨まれたような気がした。

 ……たぶん、気のせいではない。


 クラス担任のガレン・ストームウィンドは三十代半ばの男性だった。

 目つきが鋭く、白髪の混じる短い黒髪に、精悍な顔立ち。入学式の前に、カイルとレイナードの衝突を止めた教師でもある。


「……自己紹介は終わったな。これから一年間、同じクラスで過ごすことになる。だが、ここは仲良しごっこをする場所じゃない」


 ガレンは鋭い目で生徒たちを見据えた。


「他人なんて蹴落としてでも、魔術師になってみせろ」


 ガレンは咳払いをして、話を続けた。


「それから、お前たちに一つ教えておく。魔術師には——だいたい五十年に一度、天才が現れる」


 彼はゆっくりと教室を見渡し、生徒たちをまるで品定めするかのように見ていく。


「初代グラヴェール公が一人目。二人目はエリザーク・ヴァンストーク。三人目はセリーナ・ルミエール。四人目はガルドリック・シェイドロウ……」


 そこでガレンの視線がカイルのところで止まった……ように、ルカには見えた。


「——五人目がこのクラスから出ることを、俺は願っている」


 それだけ言い残すと、彼は背を向けた。


「今日はこのまま寮に戻れ。解散!」




 ◇




 オリエンテーションが終わると、カイルがルカの隣に歩み寄ってきた。


「そういえば、ルカ。お前はどこの幼年学校だったんだ? 幼年学校が一緒だったやつ、いる? 俺はいなくてさ」


 へへっと舌を出して笑うカイル。どこか人懐っこいその表情に、ルカは少しだけ肩の力を抜いた。


「僕は……幼年学校には行ってないんだ」


「え? 行ってないって……じゃあ、どうやって魔術を勉強したんだよ?」


「独学、っていうのかな……本を読んだりして、少しずつ。入学試験のときも、幼年学校のことを聞かれて……行ってないって答えたら、試験官の人たちが困っちゃってさ。でも、受験資格には関係なかったみたいで、受けさせてもらえたんだ」


 カイルは少し目を見開いたあと、「へえ、すげえな」と感心したように言った。


「普通、行ってないとまず受からないだろ。しかも筆記もあるのに」


「……合格ライン、ぎりぎりだったけどね」


 ルカは少しだけ照れくさそうに笑った。


「いや、それでもすげえよ。根性あるじゃん、お前」


 そう言ってカイルはルカの肩を軽く叩いた。ほんの少しだけ、ルカの顔がほころんだ。


「そうそう」とルカは思い出したように言った。


「合格した時、この種を渡されたんだ。入学までに食べなさいって。でも、見たこともない種だし、なんだか怖くてさ。カイルもこれ、食べたことある?」


 そう言って、ルカは小さな袋から茶色い種を見せた。乾いた皮に覆われ、少しだけ甘いような、香ばしい香りがする。


 カイルはそれを見るなり、顔をしかめた。


「あー、それ……やめとけやめとけ。昔、それ食って腹壊した気がするんだよな。魔力を“感じる”ために使うもんらしいけど……ルカはもう学園に入れたんだろ? なら必要ないって。そもそも魔力量あるから合格できたわけだしな」


「そうなんだ……」


 ルカは納得したようにうなずくと、種をそっとポケットに戻した。


「そろそろ寮に帰ろうぜ。俺とルカは同室だ」


「そうなの?!」


 ルカは驚いた。けれど、どこか安心したような気もした。


「んー、俺の勘」


 カイルはまたへへっと舌を出して笑った。

 その笑顔に、ルカは知らず知らず肩の力を抜いていた。

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